ショートショート 送り狼退治のつづき
繁華街。夜でございます。
総務課の関口さんと営業課の宮本さんの周りにはぐるぐるっと大学生たちが、ええと、、、確か、40人ばかり、ぐるぐるっと取り囲みまして、狭い路地はもう、ぎゅうぎゅうでございます。
ドニー・イェンが好きすぎて、詠春拳まで習ってしまった宮本さん。先ほど顎の裏に拳を決めて、うずくまっている大学生をに体を向けて、ゆらゆらっと身構えます。
「どうするの宮本さん、こんなに集まってきちゃって。」関口さんがもっともなことを叫びます。「ていうか、なんなのこの人たち、みんな暇なの?」
関口さんの毒舌が終わらないうちに、うずくまっていた大学生が立ち上がり、悪態をつきながら宮本さんに飛び掛かります。宮本さん、軽くいなして、的を外した大学生の背中をポンとおしました。バランスを崩した大学生、後ろから押されたんだからたまりません。ごろごろっと派手につまずいて転がりました。うおおっと、取り囲んだ……ええと、5、60人ばかりの大学生がどよめきました。
「暴力はダメ! 懲戒処分にされる!」
関口さんがきっぱりと言いました。
「今更?」
宮本さんが驚いて答えます。
「これを!」
しゅっ、と関口さんが何かを投げてよこしました。
宮本さん、ぱしっと受け取ります。カードのようなもの。
「投げて!」
何かを確かめる間も無く。関口さんのいうがままに、うずくまっている大学生に向けて投げつけます。くるくるくるくる、かっ、とコンクリートの道路に見事に突き刺さりました。
「ええ?!」
突き刺さったものを見た大学生が大声を上げます。
「あなたの指導教員の名刺よ!」
関口さんが声を張り上げます。
「うちの人事課とコネがあるの! あることないこと吹き込まれてもいいの?!」
「どうして…」
大学生がいうより前に関口さんがスマホを掲げます。
「写真撮らせてもらったの。画像検索であなたのインスタみつけた。セキュリティが甘いんだよ。うちの顧客データ検索システムは優秀なんだよ!!」
「会社のやつ使ったの?」
宮本さんの驚きは無視して、関口さん、こんどは周りの大学生たちに向かって叫びます。
「さあ、個人情報丸裸にされて、私に陰湿な嫌がらせされたい奴は誰?!」
『こわ…。』『かわいそうに…。』などと口々に呟きながら、あたりに集まった。ええと…なんだっけ…確か…100人ばかりの大学生が蜘蛛の子を散らすように去って行きました。もちろん、最初の2人もです。
「関口さん……。」
痛みをこらえていた足を抑えながら宮本さんが言いました。
「怖すぎる…。」
「私もそう思う。」
関口さんがにっこりと笑います。コンクリートに刺さった名刺を抜いてカバンにしまいました。
「良かった。あの子のお父さんの名刺まで出さずに済んで。」
「……。仲良くしてね。」
宮本さんが関口さんに手を差し出しました。
「こちらこそ。」
関口さんが差し出された手を握ります。
「会社のシステム、勝手に使ったって、言わないでね。」
この出会いが、この後、更なる波乱を呼び起こすのですが…。今日はこれまでといたしたいと思います。
「宮本さんの送り狼退治」という一席、これにてご無礼いたします。
※これの続きです