ショートショート 泣き虫 【ヒスイさんといっしょ 『帰還』400文字】
姉と弟の兄妹がいました。姉は負けん気が強くて、弟はちょっと泣き虫でした。弟が泣き声をあげると、姉がとんできます。
「あたしの側を、離れちゃだめだよ。」
泥だらけの姉が弟に言います。
「泣き虫なんだから。私が側にいれば守ってやれる。」
泣きべそをかきながら、弟が小さく頷きました。
星のきれいな晩。弟は旅に出ることにしました。カバンには汽車の切符と、絵の道具を持っていました。
弟は、絵が好きでした。本当に好きでした。
姉が気づいていたかはわかりません。どちらでもいい。弟は旅に出ようと思ったのです。ひとりで。
姉が目をさましました。
置き手紙がありました。弟の字です。
「必ず戻ります。」
傍に絵が一枚。似顔絵でした。
泥の汚れも、アザも、擦り傷もない自分。優しそうに笑っていました。
遠くで汽笛が、ぽう、となりました。
「必ず帰れよ。」
姉が呟きました。
「泣き虫なんだから。」
姉の頬に、涙がつたいました。
金曜日は小粋でポップなヒスイさんといっしょです。
お題は「帰還」。
難航しているそうですが、どうなりましたか、ヒスイさん!
リョコウバトのお話ですね。
ふむふむ。
このお話は、永山さんという絵をお描きになるnoterの方への花向けでもあります。詳しくはヒスイさんの記事に。