見出し画像

ショートショート 泣き虫 【ヒスイさんといっしょ 『帰還』400文字】

 姉と弟の兄妹がいました。姉は負けん気が強くて、弟はちょっと泣き虫でした。弟が泣き声をあげると、姉がとんできます。
「あたしの側を、離れちゃだめだよ。」
泥だらけの姉が弟に言います。
「泣き虫なんだから。私が側にいれば守ってやれる。」
泣きべそをかきながら、弟が小さく頷きました。

 星のきれいな晩。弟は旅に出ることにしました。カバンには汽車の切符と、絵の道具を持っていました。
 弟は、絵が好きでした。本当に好きでした。
 姉が気づいていたかはわかりません。どちらでもいい。弟は旅に出ようと思ったのです。ひとりで。

 姉が目をさましました。
 置き手紙がありました。弟の字です。
 「必ず戻ります。」
 傍に絵が一枚。似顔絵でした。
 泥の汚れも、アザも、擦り傷もない自分。優しそうに笑っていました。

 遠くで汽笛が、ぽう、となりました。
「必ず帰れよ。」
 姉が呟きました。
「泣き虫なんだから。」
 姉の頬に、涙がつたいました。

ショートショート No.377

金曜日は小粋でポップなヒスイさんといっしょです。
お題は「帰還」。
難航しているそうですが、どうなりましたか、ヒスイさん!

リョコウバトのお話ですね。
ふむふむ。
このお話は、永山さんという絵をお描きになるnoterの方への花向けでもあります。詳しくはヒスイさんの記事に。