ショートショート キンモクセイ盗賊団の池
「ユピテル」
盗賊団の頭領はそう呼ばれていた。目は聡く、頭はきれ、うっとりするほどの美丈夫。ローマの神様に例えられるのも無理はない。
ある王国に来た時のことだった。城に盗みに入ったユピテルは塔の上にひとりの王女を見つけた。王女も突然現れたユピテルを見つめる。二人の間に稲妻が走った。
どこかの国の王子だっら良かった。しかし彼は盗賊だ。盗賊には、盗賊のやり方がある。たくましい腕が王女を抱え上げ、二人は城を抜け出した。
すぐに追っ手がかかる。国王軍だ。さすがのユピテルも分が悪かった。追い詰められて池に身を投げる。池から魔女が現れて王女に言った。
「あなたが落としたは金の斧? それとも銀の斧?」
「ユピテルを返して!」
王女が泣きながら盗賊の名を呼ぶ。魔女がにっこり微笑んだ。
「正直ものね。金をあげる」
一瞬だった。池が花に包まれた。黄色く芳しいキンモクセイの花だ。王女の姿は消えていた。ただのモクセイ(ユピテル)と一緒に。
ショートショート No.741
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今週のお題は「沈む寺」。
裏お題は「キンモクセイ盗賊団の池」です。