ショートショート 鏡顔
「疲れてる? やばいよ、その顔。」
定時間際に同僚が言った。
「人の顔を『やばい』とか表現しないでいただけますか。」
「心配してるの! 鏡みてきなよ!」
しぶしぶ立ち上がり、化粧室に行く。鏡を見る。いつもの顔だ。
「特に変わりはありませんが。」
席に戻って同僚に報告する。
「違うよ! ほら!」
同僚が手鏡を突き出してくる。覗く。いつもの顔。
「顔、作んないで!」
同僚が笑いながら声をあげる。
「作る?」
「今、鏡覗いた時、顔、作ったでしょ?」
いや。覚えがない。
「鏡見る時用の顔なんだよ。それ。『鏡顔』よ! あ。そうだ。」
同僚がポケットを探る。
「えい!」
カシャリという音。同僚がスマートフォンを私に向けていた。
「写真撮った。見て!」
差し出された画面を見る。
「同じですけど…。」
「ええ?」という声とともに画面を見る同僚。
「今度は、『写真顔』だ。筋金入りだね、あなた。いつもこんなじゃないのに。」
「え? どんな?」
同僚が私の顔を見て苦笑いをした。
ショートショート No.271
たらはかにさんのゆる企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「鏡」「顔」です。