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ショートショート Uターン(しない)

 これ↓一緒に行こ!
 高瀬から久しぶりに送られてきたDMに目を通す。大学時代の友人だ。矢印の先のURLを確認すると久屋大通公園に台湾屋台が来るらしい。苦笑いした。相変わらず女の子が好きそうなイベントをよく知っている。

 社会人になってからすっかり名古屋が遠のいた。地元のおじさんたちにもすっかり馴染んだ。地下鉄の中で気後れする。私、おばさんかな。降りた先で案内板を探した。学生時代、高瀬に習った。「方向音痴は看板の矢印に従いなさい」

「こっちだよー。」
 久屋大通公園に着くと、先に来ていた高瀬が手を振った。高い背がよく目立つ。相変わらずへんてこな服だ。海外ブランドらしい。学生時代よく買い物につきあった。商品の全然おいていない美術館みたいな店。
「こんばんは」
高瀬の隣で女の子が言った。華奢で、長い髪。いかにも上品そうな高瀬好みの女の子だ。
「こんばんは」
にっこり笑って挨拶した。『一緒に』って、『ふたりで』じゃないんだ。滅多に着ないワンピースをジャケットで隠した。テーブルには食べかけの焼き餃子と小籠包が冷めていた。
「小籠包、おいしいですね」
「でしょ。食べてよかったでしょ」
高瀬と女の子が話を続ける。昔高瀬とそんな話をした記憶がある。ため息をついて、二人に言った。
「ごめん。帰るわ」

 公園から道路を渡って、パルコに入る。店の中を通り抜けると近い。昔高瀬に教わった。
 連絡通路、エレベーター、化粧品の香り。綺麗になりたくて学生時代に散々通ったこの道はもう迷わない。
 ガラスの扉を開けた。嫌気がさしていた。街路樹が青く光る。イルミネーションだ。もう見慣れた。
 横断歩道を渡って、立ち止まった。道路の真ん中に矢印がある。反対側に戻れ。「Uターンはこっち」って。
 ふ。
 笑い声が漏れた。そのまま進んだ。もういいんだ。学生時代、楽しかった。高瀬はかっこよかった。でも、それだけ。矢印には従わない。大きく伸びをした。

ショートショート No.684

 昨年開催されたコトノハなごやの応募用に書いた話です(落ちました)。お題の写真に対して800文字。お題の場所が明記されない形でした。
 とはいえ、場所をちゃんとしないとね、と思い写真の場所と思しき場所に自分でも写真を撮りに行きました。

 今回の写真は名古屋の栄。松坂屋のあたりです。近くに100m道路と呼ばれる中央分離帯に公園が設置してある大きな道路があり、よくイベントが開かれます。


 お題の写真は夜頃のもので、多分道路の真ん中あたりで撮られており、標識の矢印が綺麗に見えていたんですけど…どうにも。道路に立ち止まって写真を撮る度胸がありませんでした。

 この辺りは少し前まで百貨店や流行のお店が集中していて、大学生になってこちらに出てきた田舎者の私は時間があれば来ていました。
 生来の方向音痴も関係して、この辺りを迷宮のような、無限に広い空間のように思っていましたが、大きくなって再訪してみるとそこまでの無限迷宮ではないことに気が付きます。歳とった、といえばそうだけど、そういうのもね、悪くはないなと思っているんですよ。

 明日は名古屋の東区、徳川園周辺です。