見出し画像

ショートショート  温熱ソックスの話【ショートショート100|No.35「温熱ソックス」|1,007文字】

 温熱ソックスの話をしよう。
 皆、温熱ソックスについて、もっとちゃんと語るべきだ。

 温熱ソックスのしくみはご存知だろうか。なぜ、ただの繊維なのに暖かいのか。私も詳しくは知らないが、体の水分で発熱をしているらしい。後は体温による反射作用だ。これと似たものが思い浮かばないだろうか。そうカイロ。カイロも空気中の水分で発熱する。これはとっても大事なことだ。

 告白しよう。私は冷え性だ。そして寒がりだ。いつでも手足が冷え冷えだ。

 冬場になると、腰に2つ、肩に1つカイロを貼って過ごしている。仕事外なら温熱ソックスももちろん履いている。冬場の靴は夏場よりもひとまわり大きい。

 そして、私は、冬になると旅行に出る。温泉が好きだからだ。

 一度、真冬に弘前に旅行した時のこと、初日に徒歩で移動するのに、常に暖かい飲み物を補充しながらでないと身体がもたないほど寒い、を実感した私は、次の日ホテルで温熱ソックスの上に足用の貼るカイロをはり、スノーブーツを履いて出かける、ということをした。

 そして、弘前の洋館などを徒歩で巡りながら思ったのだ。

 寒い。

 足元が凍えるように寒いと。

 分かるだろうか。温熱ソックスもカイロも、ある程度の体温と汗がないと、発熱しないのだ。もともと冷え性の私の足は最初からきんきんに冷たいし、汗もほとんどかかない。化学のなせる魔法の防寒具も、筋金入りの冷え性の前になすすべもないのである。

 話はこれで終わりではない。

 弘前市内の散策を終えた私は、次の目的地に向かうべく、ホテルに預けていた荷物を持って、電車に乗った。電車。北国の電車は、暖房が効いている。

 そう。

 極寒の地を散策するためにもこもこに着込んでいた私は、あっという間に車内で汗をかき始めた。足にもだ。
 足の汗はすぐさま温熱ソックスに吸収され、その熱と、さらにしみでた汗がカイロに吸収され化学反応が巻き起こる。生まれたての熱を水の一滴も漏らさないスノーブーツが完全に保温する。汗で発熱、保温。悪循環。

 熱い。熱いっていうか、痛い。

 電車は比較的混んでいた。こっそり座って中のカイロをとる、なんて恥ずかしい真似はできそうになかった。私は耐えた。目的の駅まで。

 皆さん。
 温熱ソックスについてもっと語るべきだ。それと、カイロについて。知らなかった。知らなかったんだ。併用しちゃいけないだなんて。熱かった。とっても熱かったんだよう。二度とやらない。くすん。

ショートショート No.342

NNさんの企画「100のシリーズ」に参加しています。
今回のお題はNo.35「温熱ソックス」です。
前回のお題No.61「舌先三寸」。