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ショートショート クジラ室

 涼しくなると自宅での活動範囲が狭まる。底冷えで板張りの部分なんてもう、冗談じゃない。建物が古いためか小さな和室がついている。これが非常に良くて畳は底冷えがしない。冬の救世主。

 夏の残業代で電灯を買った。欲しかったから、としか言いようがないが、要するに残業続きで頭が朦朧とした夜に衝動買いをした。クジラの形をしたランプだ。真鍮を切り出していて立体的な切り絵みたいで、綺麗だと思った。

 秋になってようやく届いたのを段ボールから取り出す。和室についている旅館にあるような四角い電灯を取り外す。結構重い。厳重に押し入れにしまっておく。クジラのランプをとりつける。お腹からオレンジ色の光がもれてくる。

 机と椅子を和室に運び込む。障子をしめて小さな書斎の出来上がり。クジラ室だ。床の間には魚群を描いた手ぬぐいが掛け軸みたいに飾ってある。手元の明かりを持ち込んで夜中に物語を書く。頭の上でクジラが見守ってくれている。

ショートショート No.160

Novelber No.4「紙飛行機」 | Novelber No.6「どんぐり」

140字版