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エッセイ しょうがないなあ(「オアハカの動物たち VINTAGE OAXACAN WOOD CARVING」ほか感想)

 写真にたまに登場する通り、私のアイコンにはモデルがあって、そのモデルというのは素焼きの招き猫です。白黒で、赤い首輪。いわゆる招き猫とは少しデザインが違いますね。なんというか、ポップじゃないというか。お察しの通り、いわゆる民芸品というか、昔からある手製のものです。ビンテージだとか工芸だとか、や買い物ではありません。地元の神社で売っているようなものです。たまに地域の古民家などに行くと、これと同系列の古いものが飾ってあったりします。「お揃いだな」と嬉しくなります。

 「オアハカの動物たち VINTAGE OAXACAN WOOD CARVING」を読みました。メキシコのオアハカ州の木彫りを収集した作品集です。
 「オアハカン・ウッド・カーヴィング」というものがあるよ、というのは以前からなんとなく知っていました。雑誌で何度か個人の蒐集品の中にまじって見たことがあったと思います。少しとぼけていて、可愛い民芸品だな、という記憶です。作品そのものの写真しか見たことがなかったけれど、この本には蒐集家が実際に手の持った写真も掲載されています。意外とでっかい。子猫くらいの大きさはあります。大の大人が嬉しそうに蒐集品を手に取る様はなんだか微笑ましい。飾られたままの「芸術品」にはない楽しみがあると思います。

 巻末に「メキシコ、オアハカの愉快な木彫りたち」と題して富田晃によるオアハカン・ウッド・カーヴィング、具体的には創始者マヌエル・ヒメネス(1919〜2005)の歴史について語られています。
 今、生没年代見ました? 意外と若いですよね。現在もメキシコを代表する民芸品である木彫りは、1950年代に一人の青年が土産物として売り始めたものですよ、というのが内容です。この土産物は工芸品ブームに乗って、寂しい貧村だった地域に観光客を呼び、土産物産業を起こし、水道や電気、小学校を整備できるようにまでなったそう。美術館に飾られる、等の芸術的価値を認めらたこともあるんですけど、個人的にはこの商業的成功を面白いなと思います。

 自分が意外と歴史の浅い土産物の工芸品、で思いつくのは「木彫りのクマ」です。Wikipediaにもありますね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/木彫りの熊

旭川市では、1926年(昭和元年)にアイヌの松井梅太郎が木彫り熊を作ったことをきっかけに、木彫り熊の生産が盛んになった。当時旭川には第七師団があり、本州から来た軍人家族などへの土産ものとして人気となったという。

Wikipedia 「木彫りの熊」

 これも、個人がわかっている歴史的な民芸品ですね。
 土産物で一儲け(しかも、結構大きな置物)って、今ではあまり考えないと思う。マトリョーシカとか、昔はけっこうありえたのかもしれません。もう二度と来られない遠くまで来たから買っておこうって思うんだと思います。
 私は、子供の頃、両親と北海道に行った際、お菓子でも、オルゴールでも、ラベンダーでも、キツネのぬいぐるみでもなく、木彫りのくまが欲しいとせがんで両親に「なんでそんな渋いものが欲しいの?」と問い詰められたことがあります。

 民芸品を面白いなと思うのは、芸術だとか伝統だとかいう以前に、一時期それがめっちゃ売れて、だからたくさんの人が作った、という歴史があることです。招き猫もそうで、江戸時代に丸〆猫という置物がめっちゃ売れて、そこらじゅうで真似して作ったからたくさんデザインがある、っていうのがなんだか好きな点です。民芸品になっちゃうのは大抵売れなくなってからなんですよね。私のアイコンの招き猫も今はひとりしか作り手さんがいません。

 サムネイルに招き猫と一緒に写っているのは花巻人形の「釜猫」というものです。黒と白の毛並みに朱色の耳。この系統のデザインは古いものですね。うちの猫の親戚だと思います。うちの猫より黒の部分が多いのは炭で汚れているからで、寒い日に釜戸の灰の中に潜り込んで暖をとって汚れて出てきた姿だそう。「結構毛だらけ、猫灰だらけ」も同じ状況だそうですよ。これを調べるまで私、知りませんでした。なんで猫が灰だらけなんだろうって思ってた。

 生意気にも鯛をくわえていやがりますが、この釜猫、手に持って振るとカラカラと音が鳴ります。子供のおもちゃとして売られていた名残だそうです。なんか愛しくなります。

「花巻人形の愉しみ」という本も持っていたりなんかします。著者の菊池さんは花巻人形の保存のために骨董品の収集と、コレクションからの型起こしで、人形の復興に尽力した方です。


 昔からこういう土人形に雛人形のデザインが多いことをずっと不思議に思っていた(子供用のおもちゃのお土産に雛人形なんているのかなあ、と思っていたのです)のですが、「高価な衣装雛を買えなかった庶民たちは、比較的安価な土人形である花巻人形の内裏雛などを購入し、生活を楽しんでいた」とあって、納得がいきました。ちょっとした贅沢、よりももう少し特別な買い物として買っていたんだろうなと思う。金銭感覚も日常感も今とはだいぶ違うでしょうから、想像するのが難しいけれど。

 オアハカン・ウッド・カーヴィング(そう、いきなり話が戻るんですよ)も木彫りの熊も招きねこも、お土産ものだけあって、なんだか愛嬌があるよなあ、と私は思っています。写実的な造形ではありませんよね。
 確か、昔、赤瀬川原平が著作で「猫の置物が好きで、つい買ってしまうのだけど増えてしまうので、基準を設けることにしている」というようなことを書いていたのを見た記憶があります。その基準が、「しょうがないなあ」っていう感じなんだそうです。なんとなく、分かります。オアハカの木彫りもくまも釜猫も、なんか、しょうがないなあ、って顔してる。釜猫なんて灰まみれで鯛くわて振ると音までなるんですよ。もう、しょうがないなあ。どうして私たちは大人になってもこんなもの買って嬉しそうに手に持って愛でたりしちゃうんだろう。わかんない。しょうがないったら。 

エッセイ No.090

埼玉にある本屋さん「つまずく本屋ホォル」さんの「定期便」をとっています。毎月一冊、店の方が選んだ本が小さな紹介文つきで届くしくみです。どんな本が届くのかな、と楽しみにしながら、先月以前に届いた本の感想をこっそり言うエッセイです。

エッセイに登場した本

「オアハカの動物たち VINTAGE OAXACAN WOOD CARVING」
岩本慎史【著】/安彦幸枝【写真】 2023.9 大福書林

ごてごてした可愛らしさとは少し違う、なんかちょっと抜けたような、可愛らしさのある動物たちの木彫り、オアハカン・ウッド・カーヴィングをたくさんの写真で紹介した本です。ちょっと触って、撫でてみたくなるような、そういう愛らしのある作品だと思います。意外に大きいんだよなあ。

「『花巻人形の愉しみ』江戸時代から次世代へ」菊池正樹 著 2019.2 花巻人形工房

著者自身が収集した花巻人形「菊池コレクション」と、著者自身が復元した花巻人形を豊富な写真で紹介した本です。表紙に写っている招き猫も「釜猫」も、泥棒のひげみたいな煤で汚れています。「こいこい」じゃない! って、突っ込みたくなるような可愛らしさです。花巻人形の多くの猫たちは、首輪だけでなく、肩掛け?みたいなものを下げていて、これも地域的なデザインの特徴だろうなと思います。岩手県だから寒くてつけてもらってるんだろうか、と思うと可愛がれてるんだな、と愛おしさが増しますね。

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