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ショートショート 楽園の終わり
甘い香りでむせかえるような花園で、男が一人花を摘んでいる。
ゆり、ひまわり、バラ、金木犀、ジャスミンにハイビスカス。大きな花輪をつくるためだ。
管理人がやってきて、冷酷に時間を告げる。男は罪人だ。長くいることができない。白い服の管理人に促されるまま、黙って後をついていく。
どこまでも透き通る水が流れる川に、人を恐れない魚がゆうゆうと泳いでいる。果樹の全てがたわわに実り、ただ、もがれるのを待っている。景色の何もかもが懐かしい。
ひときわ大きな木。傾くほどに赤い実がなっている。
木陰に、こんもり小さな塚がある。
男がしゃがむ。花輪をおいた。管理人が木の板を男に差し出してきて、男が小さくお礼をいう。力をこめて、塚に突き刺す。板には、たどたどしい字でこう彫ってある。
全ての母ここに眠る。
彼女のせいで僕はエデンを追われた。
けど、もうどうでもいい。
いままで、ずっと、彼女のいるところが僕のエデンの園だった。
板を挿し終わって、男が管理人にお礼を言った。管理人が冷たく、出ていくよう促す。
花園の門が閉じた。男が砂漠に歩き出す。振り返らず、まっすぐ。少しうつむいて自分の脇腹を愛おしそうに少しさすった。エデンは、楽園はもうない。
向き直って、またまっすぐに歩いた。
ショートショート No.109
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