ショートショート 2cmアパートメント
始まりは「T」である。帰宅後机に座るとパソコンのキーボードの「T」のキーの横棒の上に花瓶が鉛筆で描いてあった。
夏休みだ。小学生の息子が落書きしたに違いない。消そうとしてやめた。かわりに椅子を書き足して棒人間を座らせた。
次の日帰宅してみると「E」が縦棒で閉じられて、棒人間が本を読んでいた。鉛筆で「V」のキーを鳥の嘴にして巣を描く。今度は息子が「S」のキーに目と鼻と舌を付け足して、笛を吹く蛇遣いを描いた。
「A」は飛び箱。「H」はダンベル。「W」の牙はバンパイア。キーのひとつひとつが部屋みたいに見える。スペースのキーに入り口を描いてみると、息子が「2」のキーに「cm」、隣の「3」のキーの「あ」に「ぱーとめんと」を足した。「2cmあぱーとめんと」と名付けたらしい。そういえばうちのパソコンのキーは2センチくらいだ。ううん、と唸った。
「入居者入った?」
息子が部屋をのぞいてくる。
「今募集中」
振り向かずに答えた。
たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「リベンジトリートメント」、裏お題は「2cmアパートメント」です。