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エッセイ 朝市は三文の徳(文学フリマ岩手旅行記2024 その2)

 6月に文学フリマ岩手に参加しました。その時、ついでにあっちこっち回ったお話です。

 文学フリマ当日の朝、出店者の入場時間前に朝ごはんを食べに盛岡神子田朝市まで足を伸ばしました。


 というのも、文学フリマ当日が日曜日で、次の日は月曜日だから。神子田朝市は月曜日がお休みなんです。逆を言うと、月曜日以外は毎日やっているのだそう。年間300日以上営業している朝市は全国でここだけなのだそうです。惚れ惚れするほど現役だなあ。訪れた朝もたくさんの人で賑わっていました。

 元気のいい野菜やお花、お漬物なんかも並んでいて見るだけで楽しい。とはいえ、旅行者ですので、あまり大きなものは買えません。お弁当とかお惣菜とかに目移りしながら見つけたのが「ひっつみ」のお店です。こんな料理ですよ。

 ごぼうやにんじん、油揚げの入った汁に小麦粉を練ってちぎったツルツルもちもちの生地が入っています。朝のあったかい汁物は体に染みるおいしさです。
 この「ひっつみ」は岩手県の郷土料理だそうです。農林水産省さんの紹介を引用しておきましょう。

 県央地域は北上川流域で平坦な土地が多く、古くから水田地帯がひらけており米の生産規模は大きかった。しかし寒さが厳しく冷害で米がとれない年もあったため、食生活を安定させるために大麦、小麦、そばの生産も行われていた。そのため米粉、小麦粉、そば粉などを活用する料理が多く、粉に水を入れてこねて作る料理である「しとねもの」文化が発達した。「ひっつみ」はその代表的な料理のひとつであり、米が不作な年に主食の替わりとして多く食された。

農林水産省HPより

 小麦粉を練ってちぎったものが入っている汁ものでは「すいとん」が有名ですよね。すいとんの練り物は団子状のケースが多いと思います。ひっつみはシート状で、すいとんよりも舌触りがつるつるです。短いきしめんみたいな感じ。

 ところで、お店でお椀の横につけてくれた「七味にんにく」ってなんだ…。

 検索に引っかかりました。岩手県花巻市に元祖のお店があるようです。特に誰も何も言ってなかったけれど、岩手県の皆さん(東北の皆さん?)、「七味にんにく」はローカル調味料ですよ。愛知県で見たことないですよ。(お味は七味の後味ににんにくの風味が加わって、ぐっとひっつみがおいしくなる素敵な調味料でした)

 休憩所の椅子で出来立てのひっつみをいただいて、席をたつと「寄席がもうすぐ始まります」のアナウンスがかかっていました。本当に楽しそう。危うく一日いそうになってしまいます。でも、文学フリマに行かなくては。

 朝市を出て、荷物のあるホテルに歩いて帰ろうとすると、道の途中で不思議な場所が目に留まりました。

 公園……?

 中に入ってみます。

 結局何……?

 ずらりと並んだ石像はこんな感じです。

 おおう……。

 うおおう……(結局なに?)。

 近くに看板がありました。これらは「石造十六羅漢」という盛岡市の指定文化財だそうです。

 概要を引用させていただきますね。

江戸時代、盛岡藩の四大飢饉といわれる元禄・宝暦・天明・天保の大凶作によって、領内には多くの餓死者がでました。祗陀寺14世天然和尚は、その悲惨な餓死者を供養するために、十六羅漢と五智如来の合計21体の石仏建立を発願しました。そして領内から浄財の喜捨を募って、1837年(天保8年)工事に着手しました。
下絵は藩の御絵師狩野林泉が描き、石材は市内の飯岡山から切り出し、藩の御用職人の石工7人が3年かかって荒刻みを行い、北上川を舟で渡して、建設場所の祗陀寺末寺の宗龍寺境内に運び入れ.最後の仕上げをしたものといわれています。
こうして、起工から13年目の1849年(嘉永2年)、発願した天然和尚の孫弟子にあたる長松寺13世泰恩和尚のときに、ようやく竣工しました。
しかし、宗龍寺は明治維新後に廃寺となり、1884年(明治17年)の大火で寺院も焼失しました。現在は21体の石仏群を残す、市の公園となっています

盛岡市HPより

 飢饉の死者の供養のために建立→もとのお寺が焼けて石仏だけが残った。ということのようですね。石仏なので石の切り出しから始まって、彫刻にも運搬にもものすごく時間がかかったようです。

「藩の御用職人の石工」が彫ったという解説で思い出すのは、去年の年末に見た「みちのく愛しい仏たち」の仏像たちです。

  東北の民間仏は本職の仏師ではなく、大工などの職人によって彫られており、(「これがいいのだ」という人々の認識から)簡素で優しい顔をしている、という説明がされていました。ここの十六羅漢さんも優しい顔をしておられますよね。個人的にはちょこっと小太りなのも東北の民間仏の特徴だと思います。痩せてたらかわいそうですもん。

 朝からいいもの見ちゃったなあ、の盛岡の朝でした。早起きは、いや、朝市は三文の徳ですね。

(「文学フリマ岩手旅行記2024 その3」に続く)


エッセイ No.124