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ショートショート ちょっと待ってて

 磯場に引き潮になると現れる大きな岩場がある。岩の中央に窪みがあって、海の水が溜まって、ちょうど小さなプールみたいにな場所になる。近所の男の子は最近ここを見つけて、すっかりお気に入りで、毎日やってくる。

 長靴にバケツ、小さな網。小さな生き物を探す。カニなんかがかかれば大漁だ。ヤドカリでも妥協する。何もなければ貝殻を拾って帰る。なるべく綺麗なの。ふと、岩場の下の海中に青いものが揺れた。近寄ってみる。小さな魚だった。

 なんだろう。見たことがない。網で救おうとしてバケツを海に落とした。今は拾ってる場合じゃない。網に集中する。そっと救う。急いで岩場の窪みにそっと放つ。小さな青い魚がくるりとプールの中を泳いだ。

 日が暮れかけていた。海に流されたバケツは取り戻せそうにない。「ちょっとまっててね。」と魚に行って家に帰った。
 「馬鹿だなあ。」呆れたように父親が言う。「すぐに満ち潮だぞ。」
 男の子は慌てて岩場に戻った。潮はとっくに満ちて、岩場は消えていた。

 バケツ代わりの昆虫採集の籠を持って、次の日も男の子は磯部へ行った。何しろ、お気に入りだからだ。岩場によじのぼる。またプールが姿を現していた。何か小さい、青いものが揺れた。

 あわてて駆け寄る。小さな、青い魚がくるりとプールを泳いで回り、止まって、今度は男の目を見つめた。
「……馬鹿だなあ。」
 しゃがんで魚と目をあわせて、男の子が言った。

ショートショート No.162

Novelber No.6「どんぐり」 | Novelber No.8「金木犀」

140字版