見出し画像

エッセイ 箱の中【平尾昌宏「人生はゲームなのだろうか?」感想ほか】

 パズルが好きだ。
 頭から煙が出るほど考えて、考えて、考えて、ぎりぎり、答えが出ないくらいの難易度がいい。

 noteを始めてから、とんと頻度が減ったが、以前は休日によくパズルをやっていた。ニコリのおっきなペンシルパズルとか、零狐春のWeb謎だとか、SCRAPの脱出ゲームだとか。

 最近では、Clue boxをやった。一言で言うと、『箱をあけるパズル』だ。とにかく箱がかっこいい。

なんとなく回りそうなパーツは、その通り、全部回ります。
意味ありげな記号が書いてあったりします。
謎のダイヤル(もちろん回る)。金庫破りの気分が味わえます。

 手のひらにのるこの箱についた、ネジやら、取手やら、ダイヤルやらを、推理しながら弄り回していると、突然、ぽん、と新しいパーツが飛び出てきたり、蓋が外れたりする。インディジョーンズじゃん、こんなの。男の子の夢なんじゃないだろうか。

 平尾昌宏という哲学者の方の「人生はゲームなのだろうか?<答えのなさそうな問題>に答える哲学」という本を読んだ。ちくまプリマー新書の1冊で、哲学の本だが、難しい言葉やいいまわしは使われていない。とても読みやすい本だ。

 私は、ゲーム好きだと思う。パズルだってゲームだ。特に脱出ゲームだと、名前に『ゲーム』がついているし。

 リアル脱出ゲームが、まだできたばかりの頃、東京(もしくは京都)でしか遊べない、ということで、会社を休んで何度か行った。休日届を出すと、周囲に聞かれる。

 「休んで、何しに行くの?」

 適当に嘘をつければいいのだけれど、私は正直者だ。咄嗟に本当のことを言う。

「ええと…ビルの中の牢に…閉じ込められに行きます。」

 上司が戦慄する。それは何かと聞かれる。説明するが、全然メディアに出ていなかった頃のため、伝わらない。懇切丁寧に説明すると、次の質問が待っている。

「……それって、解けると、何かいいことあるの?」

 ない。

 実は、この質問は今でも聞かれる。繰り返そう。ない。頭から煙を出すほど難解なパズルに限って、解いてもいいことは何もない。(懸賞パズルは、たくさんの人が参加しないと意味がないので、難易度が低めのことが多い。)

「それって、何かいいことがあるの?」

 は、実は、このnoteに関しても言われる。何らかの事情で、書いている、とばれた途端に言われる、と言ってもいい。繰り返そう。ない。特にないよ。お金がもらえたり、有名になったり、すごいちやほやされたりとか、特にない。「何でやってるの?」雪崩のように質問が続く。知らないよ。

  「人生はゲームだろうか?」は、人生がゲームかどうかを哲学的に考察した本だ。著者の結論は「ゲームではない」。いくつか理由があるが、そのひとつは、ゲームには、ゲームの外側があるが、人生には、人生の外側がない。その点において、ゲームの『終わり』と人生の『終わり』は異なる、と論じている。

 この結論は本の中盤で出てしまう。その後、どうしてゲームをやるのか、も考察してくれている。

 こう考えると、たぶん我々がゲームをやるのは、「外」を作りたいからじゃないかっていう気がします。ゲームを作る。そうすると「ゲームの内部」と「ゲームの外部」が分けられるわけです。そして、「ゲームの外部」を現実の人生だと見て、「ゲームの内部」は人生じゃないと考えれば、「ゲームの内部」は、人生の方から見れば、実はそれ自体が「人生の外部」であることになります。

「人生はゲームだろうか?」平尾昌宏

 これはちょっと面白い考え方だと思う。

 通常、ゲーム(あるいは本や映画などでもいい)をやる人は、「ゲームに逃避する」だとか、『中に入り込む』ような形容をされる。でも、この論だと、『出て』いることになる。仮想の、人生の外側に。

 いや、やっていることは同じなんだけど、「空想世界に入り込んで、それって意味あるの?」という答えにはなるだろう。「今が息苦しいので、仮想の人生の外に出ているんだよ」。この場合、「『空想世界』に意味がない」自体は論点がずれているということになる。人生に外側が存在しない以上、それは仮想に作るしかないのだから。いや、そんな息苦しいからパズルばっかりやってるんじゃないよ?

 ぱちん。と音をたててClue boxがあく。ネタバレではないと思うので、言ってしまうと、このシリーズの箱の中身は、紙切れ(あるいは磁石)が一枚入っているだけだ。「あなたはこの箱をあけました」的なことと、それが記録できる先のURLが書いてある。

 お昼過ぎに始めたはずなのに、日が傾いていて、忘れていたことを思い出す。アイロンかけなくちゃ、とか、夕飯の買い物しなくちゃ、とか。

 「箱をあけるゲーム」自体は人生の外側だけど、箱をあけた途端に、人生の内側が待っている。
 なんだろう、この箱の中身って、意外と「現実の人生」なのかなと、ふと思う。

エッセイ No.008

出てきた本など

ちくまプリマー新書395
「人生はゲームなのだろうか? 〈答えのなさそうな問題〉に答える哲学」
平尾昌宏 著 筑摩書房

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784480684202

「哲学」の本となっていますが、非常にわかりやすい本です。中高生向けにかかれており、「勉強はどうしてしなきゃいけないんだろう」「マネーゲームはゲームだろうか」「恋愛はゲーム?」といった、その年くらいの子が悩みそうな事柄にも著者なりの回答を示してくれています。

Clue Box ネモ船長とノーチラス号の謎
ドイツの木製おもちゃ。パズル用品店などで買えます。甥っ子が大きくなったら買い与えていい顔したい。慣れていない方のためのヒントページも日本語で用意されていますよ。



この記事が参加している募集

#読書感想文

191,671件