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生活指導(講義等)

少年院は矯正教育を行う場所。

罰としてタダ働きをさせるのとは異なり,健全な社会生活を営むために必要なあらゆることが指導の対象となる。

(生活指導)
第二十四条 少年院の長は、在院者に対し、善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる知識及び生活態度を習得させるため必要な生活指導を行うものとする。(少年院法)

集団生活自体が,生活指導と直結する様々な要素を含んでいるが,改めていくつかの項目に分けて解説する。

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生活指導の概要

少年院における「生活指導」は大きく分けると以下の2つ。

①日常的に行なわれる指導
②特定生活指導

①は読んで字のごとく。日常のあらゆる場面で行なわれるもの。服装やマナーをはじめ,生活様式・行動様式を改善していくためのもの。

②は,共通の課題を持つ少年たちでグループを編成し,集団指導(グループワーク)で展開されるものだ。施設の状況次第で個別指導になっている所もあるが,原則的には少年同士の意見交換などを活発に行う。

以下,簡単に解説する。

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日常的に行なわれる指導

道具や設備の扱いが雑な少年も少なくないため,日常生活の中でタイミングを逃さずスパっと指摘することが大切なように思う。

発達障害等,様々な資質を有している少年たちが集まって生活しているので,個々の特性に合わせて表現方法を変えるなど,工夫も必要だ。

日記に対するコメントなどの指導も,大別すれば生活指導の一部だろうと思う。

矯正教育の目的は健全育成。その主たる内容はざっくり言えば「育て直し」にあたることも多く,教科学習や資格取得以前に,この生活指導が大変で大切だ。

僕はわりと,食事のマナーなども指導していた。(口うるさいわけではなく,食事中の雑談として,偏食や箸の持ち方を話題にしていた)

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特定生活指導

平成26年に少年院法が新しくなって以来,少年院の日課の中で中心にすえられているのがこの特定生活指導だ。

それぞれの特性に応じて受講すべき領域が決められ,出院までに必ず受ける。既に述べたとおり基本的にはグループワークで,おおむね12単元で構成されている。

指導領域は以下の6つ。

薬物非行防止指導
性非行防止指導
暴力防止指導
交友関係指導
家族関係指導
被害者の視点を取り入れた教育

非行やこれまでの生い立ちを踏まえ,この中の1つないし2つを受講することになる。

薬物非行防止指導は認知行動療法ベースの『J.MARPP』というプログラムを行うことになっている。薬物への欲求や自身の中にある依存症的な思考を掘り下げていくプログラムだ。

性非行防止指導は,「グッドライフモデル」という考えに即した自身の望ましい在り方を軸に性的逸脱行動について考えさせていくプログラムが標準。別に,認知機能が低い少年用の『JUMP』というプログラムもある。

暴力防止指導は,アンガーマネジメントとアサーションが軸になっている。感情的になりやすい場面などを題材に,思考・価値観・身体の変化などに着目して自己理解を深め,適切な問題解決の方法を身につけるプログラムだ。

交友関係指導も同じくアンガーマネジメントやアサーションが含まれているが,より交友関係に特化した編成になっている。友人の存在が自分に与える影響などを整理し,悪影響を及ぼす関係を減らし,望ましい人間関係の構築に向けて,自身の価値観や行動様式を掘り下げていく。

家族関係指導は,特に親子間の葛藤が強く,それが非行の引き金になっている少年を対象として行う。家族のコミュニケーションを相互に影響し循環するシステムとして捉え,責任の有無ではなく,自身が改善しうるポイントはどこかに着目させて,関係の改善を促すプログラムだ。

最後に「被害者の視点を取り入れた教育」だが,こちらについては,特に命に関わる事件の加害少年が受講する傾向が強い。文字通り,被害者の視点から事件を見つめ直していくための段階的なワークを行う。

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いずれの領域も,自身の内面に目を向け,言語化を図るとともに,他の受講者や職員との意見交換を通じて,これまでの自分にはなかった視点(考え・価値観)を獲得していくことに重点がおかれている。

集団指導にあたっては,互いの意見に素直に耳を傾け,否定せずに最後まで聞く姿勢を大切にするなど,グループワーク自体が生活指導の大事な要素のひとつとなっている。

少年たちは,少年院にいる間にこのどれかを受講し,ワークに取り組む。さどのプログラムも,最終的に出院後の生活に向けた具体的な計画の立案まで行うようになっている。

各施設の状況などによって,そのままプログラム通りに進めることが難しい場合も多く,改善の余地は少なくないが,少年院の中で個々の問題性に合わせた集中的なプログラムが用意されているという事実は,一般にもう少し知られてもよいと僕は思う。

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参考文献

最後に特定生活指導とは直接関係ないが,個人的に参考になると思う書籍を紹介しておく。どれも,感情論や社会通念とは少し違う視点を提供してくれる。



放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。