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向き合わない子育てのススメ

この記事は現職時代に書いたものです。
法務教官は退職しましたが、原文のまま公開しています。

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こんにちは。へいなかです。
少年院の教官をしています。

大学時代に教員免許を取得。民間企業を経て教採に向けて勉強していた時に偶然今の仕事にめぐり合い、学校教育とは少し違う環境で、日々教育に携わっています。

職場では非行少年を指導し、
家では娘に遊びの指導を受ける毎日です。

教員免許を持っているとはいえ、心理学も教育学も大して修めていない僕ですが…それなりに教育を学び、教育に携わる中で、これまでに何百回と耳にした言葉があります。それは…


子どもと向き合う


です。

子どもと向き合え
子どもと向き合うことが大事だ
きちんと子どもと向き合うことが大人の役目だ…

きっとみなさんも何度も耳にしたことでしょうし、もしかしたら日々自分に言い聞かせているかもしれません。

とっても大事なことです。
決してまちがってはいません。

ただ…

僕は最近思うのです。「この言葉によって苦しんでいる人もいるんじゃないのかな…?」って。


事務に追われて子どもと接する時間を確保できない教員…

家事や仕事に追われてなかなか子どもと遊べない保護者…

圧倒的にまとまりのない子どもたちに振り回される学童の指導員…

煩雑な事務と保安リスクで頭がいっぱいの若手法務教官…


きっと…

頭のなかに「もっと子どもと向き合いたい」という想いがたくさんあることだろうと思います。

そして…

そう思いながらなかなか状況を打開できない自分に「もっと子どもと向き合わなきゃいけないのに…」という焦りや葛藤、失望や落胆が芽生えていることだと思います。

でもね…僕は思うんです。「そんなに思いつめなくて大丈夫っすよ!」って。

確かに子どもと向き合うことは大事。

だけど…

あなた一人が子どもの人生の全責任を追っているわけじゃない。

あなたが今「もっと子どもと向き合わなきゃ…」と思っているのなら、それはきっと…これまでのどこかで「向き合ってもらえなかった経験」をしたからじゃないだろうか。


向き合ってほしいときに 
向き合ってもらえなかった…


そんな経験が今…教育に携わる側になった自分に逆方向で突き刺さる。本当は向き合いたいのに、目の前の現実に打ちのめされて、かつての自分の欲求さえ満たすことができずに自分を責めてしまう。子どもに対して申し訳なさを感じてしまう。

でもね…

いくらそんな風に自分を責めたって、その申し訳なさが子どもを満たしてくれることは残念ながらないんですよ。

だからやめましょう!
向き合う時間が取れない自分を責めるのを。
向き合うゆとりを持てない自分をなじるのを。

向き合えなくたっていいんですよ。
それでもあなたは教育者としてそこにいる。
それで最低限の責務は果たしているのです。


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昨今、学校教育の意味と価値をめぐる議論が盛んです。

やれ学校の勉強は社会の役に立たないだの、肝心なことは教えてくれないだの、いつまでも古臭いことやってるだのと…まぁ賑やかなもんです。

でもね…

文字が読めなきゃそんな批判もできてねぇし、その「文字を読む能力」は学校で教わったんだぞってことだけは確実に言える。

いくら学校教育を否定しても、学校で教わったことを1つも使わずに生きていくことは不可能。

そして…

読み書きくらい当たり前の日常的な技術になると「誰からどうやって教わったか」なんてほとんど覚えてないでしょ?

僕は普通に大学を出たから、小中高大計16年も学校にいたけれど…お世話になったすべての先生を覚えているわけじゃない。全然思い出せない先生もたくさんいる。

昭和生まれの僕だから、近所づきあいもある住宅地で育つ中で当然近所の人から何かをもらったり教わったり、時には怒られたりもしたはずなんだけど…その全てを覚えているわけじゃない。

きちんと向き合ってくれて、僕の人生に大きな影響を与えてくれた大人がたくさんいる一方で、覚えていない大人もたくさんいて…

だけど

そんな大人たちから教わった何かも、今の自分にはきっと生きているんだ。

だって

僕は誰から教わったかわからない文字を使いながら、今こうしてこの記事を打っているんだから。

人は、じっくり向き合ってくれる大人だけに育てられるわけじゃない。

極めて短い時間しか向き合ってくれなかった大人も、本気で向き合おうとはしなかった大人も、忙しさに振り回されながら片手間に接してくれた大人も…いろんな人のいろんな接し方の中で、様々なものを学んできたから今があるんだ。

人は、サプリメントみたいに100%中身がわかるものだけを食べて生きているわけじゃない。じっくり向き合ってくれる大人だけが人を育てるわけじゃないんだ。

向き合えない自分を責めたって誰も喜ばない。

いろんな現実の中で目の前の子どもに向き合えない自分がいたら…そういう自分だからこそできることを探したらいい。

そもそも…

子どもと向き合うって本当に大事なのかい?

僕は…

子どもと一緒に社会と向き合うことの方が大事だと思ってる。

だから…

目の前の仕事に追われてろくに面接もできない時や、疲れ果てて娘の遊びに付き合ってあげられない時…こう思うようにしている。

俺はいま、社会と格闘している。
この経験もいずれ教育のネタにするんだ。

って。

子どもと一緒に社会と向き合う…
そう思えたら少し楽になるかもしれません。

では

今日も一日充実した時間をお過ごしください。
ご一読ありがとうございました。

へいなか

放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。