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体育

少年院は非行少年に矯正教育を授ける場所。

罰を与える場所ではない。

そのため,日課の中心は教育的な科目ばかりで…

職業指導
生活指導
作文・日記・面接など…

様々な活動が行われている。
(細かいところは少年院によって異なる)

平成26年に少年”院”法が改正され,新たな科目も取り入れられたが…

少年院の矯正教育において,恐らくもっとも歴史が古く,かつ重要なポジションを占めているのが,体育だ。

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少年院法
第二十三条 矯正教育は、在院者の犯罪的傾向を矯正し、並びに在院者に対し、健全な心身を培わせ、社会生活に適応するのに必要な知識及び能力を習得させることを目的とする。

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1)非行少年の体型の変化

少年院では,衣食住のすべてがきちんと整う。

夜寝て,朝起き,
三食食べて,身体を動かす。

もちろん個人差はあるが…

太っているものは痩せていくし
ガリガリのものはがっしりしてくる。

院生活を通して標準的な体型に寄っていくのは,恐らくどこの少年院でも共通する傾向ではなかろうか。

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詳しくは「運動」の記事で書くが…

少年院では

「体育」と
「運動」が

区別されている。

体育は課業であり
運動は「機会の付与」だ。

体育か運動かはともかくとして…
少年院ではほぼ毎日,身体を動かす機会がある。

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2)世間の認識は誤解だらけ

少年院の体育は誤解が多い。

理不尽な教官が無茶なメニューで痛めつける…?
自衛隊みたいなゴリゴリの筋トレばかりやらされる…?

確かに,ハードな筋トレをやることもある。
みんなで筋肉痛になることもある。

体育は職業指導と同じ課業だから…
下手にサボれば成績にも響く。

でもね…

そんな理不尽や無茶をさせて…怪我したら大変なんですよ。

少年院では医療も提供する。

でも,

大半の少年院は,病院並の設備があるわけではない。レントゲンは撮れないし,MRIもない。

大怪我したら,外の病院につれていかなきゃならない。手錠して複数の職員で連れて行くわけだから,病院との連携も必須で…要するに大仕事。

何より怪我した本人が痛い。

だから,

少年院の体育も世間と同じ。
怪我をしない・させないが大原則です。

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3)実際の話…

非行少年が軒並み運動神経抜群というわけではなく,むしろ…いわゆる運動音痴も少なくないし,基本的には運動不足な者が多い。

きっちり運動部をやりきった経験のある者もほとんどいない。

だから…

運動後の疲労による痛みと肉離れの痛みの区別もつかず,放っておけば30分後には気にならなくなるような痛みなのに,やれ湿布だなんだと申し出てくる人もいる。

数十人の非行少年で体育をやるのに,軍隊みたいな規律で強制すれば成り立つと考えるのはあまりにも早計だ。

大切なのは,分かりやすい指示によって怪我をしない・させない体育を行うこと。

その上で,非行少年たちが前向きに取り組めるような指導を行うこと。

全員が,心情を乱すことなく,汗だくになりながら,充実した表情で寮に戻っていく…そんな体育が理想だ。

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これはかの有名な『ケーキの切れない非行少年たち』マンガ版の一コマ。

陰険な教官像1

こんな,腕組んで偉そうに指示出す教官の体育なんて,誰が前向きにやるんだよ。

こういう描かれ方もまた…誤解を助長している。

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4)球技などもあるのです…

少年院の体育は,筋トレやランニングなどの基礎的なトレーニングとともに,球技なども行う。

施設によっては水泳も実施している。

球技では…

フットサル
ソフトボール
バレーボール
タグラグビー

などが導入されている。
(施設ごとに違う)

剣道を行っているところもあるはず。

エアロビクスのようなリズムに合わせて身体を動かすメニューを持っているところもある。

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5)体育指導は法務教官の仕事

これらの指導は,基本的には現場の法務教官が行っている。

新人の法務教官が一人前になるための分かりやすいハードルの1つが,この体育指導だ。

(最近は運動音痴な教官も増えてきているので…苦労してる人も多い気がする…)

メニューの組み方だけでなく…

協応運動に困難のある子への配慮や,厳しいメニューをやり切るための動機づけや適切な声掛け,笛を吹くタイミングなど…

体育指導が充実した時間になるためにクリアすべき項目は多い。

極めて個人的な見解だが…

体育指導が上手い先生は,寮でも安定感がある。
極言すればそれは,”間”の使い方が上手いからだと思う。

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6)ひとまず,まとめ。

少年院の体育は重要な教育の場であり,彼らのストレス発散の場でもある。

通常の学校とは異なり家と学校の間に距離はなく,生活の場と指導を受ける場が一体となっていて…多くの少年たちにとっては,その集団生活自体がストレスの溜まりやすい状況だ。

今はコロナでできないことも多いいけれど,大きな声を出して思う存分身体を動かすことは,精神衛生上も必要なことだと僕は思う。

また…

体育は信頼関係の構築の場でもある。

もちろん少年院だから…逃走等を防止するために全体の状況を見ている職員も必要だが,

大抵の施設では…体育の際,法務教官もジャージを着て一緒に汗を流している。

スポーツ大会などに職員チームが出場する施設もある。

ルールに則って本気で勝負し,
勝てば遠慮なく喜ぶし,
負ければ本気で悔しがる…

そういう「教官」を超えた人としてのぶつかり合いを,一番わかりやすく実践できるのが体育だ。

理不尽な,苦しめるための体育…?
冗談だろ。

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7)おまけ〜個人的な実践の話〜

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放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。