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4つの交通課題と奈良公園バスターミナルの当初計画【連載交通③】

来寧4方面作戦。

 前回までの「連載交通」では、奈良市内における地理関係や交通に関する基本的な事柄をお伝えしてきました。

 今回の記事からは、予告記事にもありました通り「奈良公園」を中心とする交通対策の仕組みや現在に至る経緯について解説したいと思います。

 2019年、奈良公園の交通対策に一石を投じる施設ができました。「奈良公園バスターミナル」。この施設の計画時期と同じころ、奈良公園周辺には4つの「交通についてやらなければならない事」がありました。この4つの課題と解決策、そして奈良公園バスターミナルがそれぞれ関連し合い現在の交通対策に通ずる物語となっていきます。

奈良公園バスターミナル

 この記事では、奈良公園バスターミナル計画経緯から現在に繋がる計画当初の奈良公園周辺の交通問題について解説したいと思います。

 尚、この記事における「4つの課題」は、筆者があらゆる資料を基にまとめ、記事化する際にわかりやすさを優先して4つに絞ったものです。関連する団体などが4つに絞っているわけではありませんのでご承知おきください。

奈良中心市街地公共交通活性化協議会

 奈良市中心市街地、とりわけ奈良公園を中心とする観光交通に関する課題について議論をする協議会があります。「奈良中心市街地公共交通活性化協議会」です。

 この協議会については、検討された成果物について紹介するとわかりやすいでしょう。現在の観光交通対策として実施されている「ぐるっとバス」や「パークアンドライド」などです。

 奈良市庁を会長として、奈良県庁や地域の交通事業者などで構成されます。奈良県庁では道路建設課が管轄しています。

奈良公園地区整備検討委員会

 奈良公園内の遊休地の整備に関する検討など、奈良公園内の整備に関する検討を行うのが「奈良公園地区整備検討委員会」です。

 地域団体などの民間の委員によって構成され、奈良県庁では奈良公園室が管轄しています。


産声をあげる「バスターミナル」計画

 筆者が調べる限り、最も古く奈良公園内におけるバスターミナル計画の文字を見ることができるのが2010年3月に開催された「第一回奈良中心市街地公共交通活性化協議会」の資料「奈良中心市街地公共交通総合連携計画(案)」です。平城遷都1300年祭平城宮跡メイン会場の開幕前の時期です。

 ここでは、奈良公園のエントランスとなり、他地域とを結ぶバスの発着場として県営登大路駐車場にバスターミナルを。奈良公園の情報発信機能のある周遊拠点として公園内を周遊するバスの発着場を県営大仏前駐車場にバスターミナルを設置するアイデアが資料記載されています。
 これは後に、登大路に統合されて検討されてゆくこととなります。

 同年の2010年12月「第一回奈良公園地区整備検討委員会」でも登大路駐車場に観光バス発着場、パークアンドライドバス発着場、奈良公園内周遊バス発着場を供えた交通結節点を作るアイデアが資料に記載されています。

 尚、ここで登場する県営登大路駐車場とは、現在の奈良公園バスターミナルの用地となる場所です。

奈良公園内の位置関係(筆者作成)


バスターミナル検討時の諸課題と解決策

奈良中心市街地公共交通総合連携計画

 翌年2011年に策定された「奈良中心市街地公共交通総合連携計画」では奈良公園を中心とした交通に関する諸課題として以下の課題などを挙げています。

  • 自家用車流入による交通渋滞

  • 大仏前駐車場先頭の観光バスの渋滞

  • わかりやすい公共交通が求められている

  • 園内の周遊の向上が求められている

  • 観光エリア間の周遊の向上が求められる

これらの解決策として

  • パークアンドバスライドの設置

  • 奈良公園内の周遊バスの運行

  • 他のエリアとを結ぶ周遊バスの運行

  • 観光バス駐車場予約制度の導入

  • ターミナルの検討

などが記載されています。

奈良市街の観光エリアの分布(筆者作成)


奈良公園地区整備検討委員会でのターミナル検討

 総合連携計画がまとめられた同時期、奈良公園地区整備検討委員会でもターミナルについて検討されています。

 奈良公園周辺での交通課題として以下などを挙げています。

  • 奈良公園を目指す自家用車の市街地への流入

  • 奈良公園内での通過交通、迷走、大仏前駐車場出入口の渋滞

  • 歩行空間/園内移動手段の確保

 これの解決策として

  • パークアンドバスライドの設置

  • 奈良公園内周遊バスの運行

  • 団体バス乗降場の設置

  • 大仏前駐車場の予約制導入

 このバークアンドバスライド、奈良公園内バス、団体バス乗降場設置のために、登大路に新しいターミナルが必要であるとしています。

奈良公園内の観光スポット(筆者作成)


4つの課題と解決策

 バスターミナルができて3年後の2022年現在にこの資料を見てみれば、都合の良い解釈となるかもしれませんが、当時の交通課題とその解決策を以下の4つ+バスターミナルにまとめることができます。

  1. 自家用車の流入抑制→パークアンドバスライドの実施

  2. 大仏前駐車場混雑に関する観光バス対策→予約制導入/乗降場設置

  3. エリア間周遊・移動環境向上→奈良公園と他エリアを結ぶ周遊バスの導入

  4. 園内周遊・移動環境向上→奈良公園内周遊バスの導入

そして、奈良公園内外を繋ぐ交通結節点の設置→バスターミナルの設置

※奈良公園と他のエリアを結ぶ周遊バス(旧ぐるっとバス平城宮跡ルートと解釈しています。)は、この時点ではバスターミナル乗り入れの明記はありませんが、この後の取組にて隣接する場所にてエリア間周遊バス、奈良公園内周遊バスの乗り継ぎ拠点が実験的に数年間実施されました。また、後年にパークアンドライドシャトルバスとエリア間周遊バスが統合され、建設直前の検討資料にはこのバスがターミナル乗り入れが予定されています。よって、「エリア間周遊バス」単体としてターミナル乗り入れを計画していた確かな記録はありませんが、結果的に建設直前には乗り入れを予定することとなります。この経緯については改めて紹介することとします。

2010年~2011頃の計画のイメージ(筆者作成)

 尚、奈良中心市街地公共交通活性化協議会や奈良公園地区整備検討委員会ではこれ以外の課題やそれに対する解決の検討をしています。今回の記事では2022年現在でも象徴的に目立つ施策を中心に、当時の資料を読み若干都合の良い解釈も混じっているかもしれませんが、以上のようにまとめさせていただきました。随分と要約していますのでご興味がある方は是非参考資料そのものをご覧いただくことをお勧めいたします。

実現したもの、しなかったもの

 今回の記事ではターミナル検討初期段階での課題や解決策について紹介しました。奈良の交通事情についてお詳しい方は、2022年現在において実現したものや、そうでないものがあることにお気づきだと思いますが、このようなあらゆる検討が重ねられて現在の交通対策に通じていることが伺えます。

 次回から4回分(たぶん)は、この記事で注目した4つの課題と解決についてそれぞれ深堀したいと思います。そして、奈良公園バスターミナル計画がどのように変遷して行ったかが次回以降に徐々に明らかになります。

参考文献

奈良中心市街地公共交通活性化協議会(県庁サイト内)

元リンク(右リンクより各ページ) https://www.pref.nara.jp/17539.htm

第一回奈良中心市街地公共交通活性化協議会資料より https://www.pref.nara.jp/secure/42633/sanko1-1.pdf

奈良中心市街地公共交通総合連携計画(2011~2015有効分)
https://www.pref.nara.jp/secure/40508/nararennkeikeikaku.pdf

奈良公園地区整備検討委員会(県庁サイト内)

元リンク(右リンクより各ページ) https://www.pref.nara.jp/30696.htm

第一回奈良公園地区整備検討委員会資料より
https://www.pref.nara.jp/secure/94071/siryo1.pdf

第二回奈良公園地区整備検討委員会資料よりhttps://www.pref.nara.jp/secure/94069/siryo3.pdf

地図

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