虚無についての注釈─スタヴローギンについて
ニコライ・フセーヴォロドヴィッチ・スタヴローギンは、ドストエフスキー文学における「悪の主人公」の系譜の臨界点としてーあるいは臨界点を踏み越えたものとしてー過剰なまでに象徴的な存在である。彼は一切を信じない。彼にはなにもない。その巨大な空洞に、その果てしなさに、人々は憑かれたように魅了される。あるものは崇拝し、あるものは屈服し、あるものは憎悪する。けれど彼はそのすべてを冷ややかに眺めている。月が人を見下ろすかのように。その生涯はなにものも生み出さず、衰弱と消耗をしかその様式とせ