(マネックス証券独占)Ark Invest CEO キャシー・ウッドさんとのインタビュー


マネックス証券 チーフ外国株コンサルタント
岡元兵八郎

独占Ark Invest キャシー・ウッドさんとのインタビュー動画の原稿です。米🇺🇸株投資にご興味お持ちであれば、ご存知の方も多いと思います。彼女は女性版ウォーレン・バフェットとも称される、多分今ウォール街で最も注目を得ている方です。

このインタビューは、日本時間2021年1月21日、早朝6時に実施されました。元々は30分でお時間を頂いていたのですが、結局インタビューは43分に伸びてしまいましたが、最後のビットコインについても彼女は心良く回答を続けてくれました。このインタビューが、皆さんの米株株投資のお役にたてば幸いです。聞き手はマネックス証券の私岡元兵八郎です。

インタビューの動画はこちらで↓ご覧になれます。
https://youtu.be/5jlbiTg59Ws



(岡元)
世界の最もイノベーティブな企業のほとんどが、米国で誕生していると思うのですが、その理由は何故だと思いますか?

(キャシーさん)
今まではそうだったと思います。ただ、アジアの挑戦も始まっていると思います。イノベーションについて私たちに興味深いことを教えてくれていると思います。ベンチャーキャピタル業界は、実質シリコンバレーで始まりました。スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などは、文化として学生にイノベーションを理解するためのトレーニングを行い、学生を夢中にさせてきたと思います。しかし半導体が活気づいていたのは、昔の話です。今はイノベーションの機会がたくさんあるので、アメリカも競争にさらされています。イノベーションにインセンティブを与える国は優秀な才能が集まると思います。シリコンバレーの優秀な若者はアメリカ人だけでなく、世界から集まっており、今や母国に戻って母国のために革新を起こすための多くのインセンティブが与えられるようになっています。色々な国で政策立案が始まっていると思います。中国の5か年計画のようなものです。次の5年目に入りますが、イノベーションを戦略の中心に据える計画です。これまではイノベーション、特にエンジニアリングとITに強い世界中の若者達がシリコンバレーに集まりましたが、今後はシリコンバレーだけに優秀な若者が集まるということではないと思います。米国でも、シリコンバレーからテキサス州や資本優遇を行う州へ優秀な人たちが向かう動きがでています。

(岡元)
そうは言っても、米国はイノベーションの分野で主導権を握り続けるのではないですか?

(キャシーさん)
そうですね。私はイノベーションはアメリカ人のDNAにとても深く根付いていると信じています。そしてバイデン政権は移民政策をもう一度緩め、世界中から「ベスト・アンド・ブライティスト」が渡米したくなるよう試みるでしょう。

(岡元)
キャシーさんが調査をされているイノベーションはS&P500指数採用の企業により使われており、今後ますます使用されるようになる訳ですが、これは、過去と比べ、長期的にS&P500指数の将来のパフォーマンスにどのように影響するのか教えてください。


(キャシーさん)
テスラの事例が非常に興味深い例だと思います。
テスラは時価総額が5000億ドルに達してから、やっとS&P500指数に採用されました。その為5000億ドルに達するまでの期間、S&P500指数の投資家、または指数を意識して運用している投資家はテスラの株価の大幅な上げの恩恵を享受していません。今回のことは、ベンチマークを意識して運用している投資家にとっての教訓だと思います。私は、今回の件で、今後S&P500指数の銘柄採用のルールが変更される可能性があるのではないかと思っています。これがいつ起きるかはわかりませんが、テスラがS&P500指数採用されなかった理由は、昨年第3四半期まで、4四半期の移動平均で黒字でなかった為です。多くのイノベーション企業は赤字なのです。なぜなら、彼らは今積極的に投資を行っており、収益を上げるのが現時点での目的ではないからです。今は投資をすべきという判断の元投資を行っています。その時が来たら収益を上げられる準備をしているのです。
今後もテスラのような例、つまり、もっと前に指数に採用しておくべきだったと後悔する事態が起きますと、S&P500指数採用の要件を緩和する可能性があるのではないかと思っています。私がそうなると知っている訳ではありません。S&P指数に採用されていないイノベーティブな銘柄が沢山あり、何とか早めに指数に採用させようとするのは、割と当たり前のことではないでしょうか。


(岡元)
興味深いですね。つまり、キャシーさんが言っていることは、そういったこと(黒字を達成していなくてもイノベーティブな事業を行っている企業)が、長期的に株価指数にプラスの影響を与えるということですね。

(キャシーさん)
長期的ですね。最初に指数採用のルールを変更する必要があり、まだルールを変更していません。ですから、S&P500のような広範なベンチマークは、会社が利益を上げたいと思うところに拡大するまで、多くのイノベーティブな企業を入れることができないのではないかと思います。
代わりに目につくのは、SPAC(特別買収目的会社)の存在です。彼らの目的は企業を早期に買収することであり、今後株式市場では、ベンチャーキャピタルに相当するSPAC指数がでてくるのではないかと想像しています。

(岡元)
同様の質問ですが、これらのイノベーションが長期的に、米国の経済成長にどのように影響してくると思いますか?

(キャシーさん)
ハッチさん、非常に興味深いことなのですが、今日の米国のGDPは、正しく測定されていないと考えています。これは、GDPというものが産業界が主役の時代に誕生したからです。今のGDPが生まれたのは第二次世界大戦後だったと思いますが、政府が経済の成功を測るために、産業界の動きを測定していたのです。今はデジタルの世界であり、これまでのGDPの統計は現状に則していないと思います。
私たちは実質GDP成長率は報告されているものよりも高く、実際にはインフレは報告されているものよりも低いと信じています。こういった統計は時間の経過とともに追いつくでしょうが、そうなるまでは、経済は非常にゆっくりと成長しているように見えると思います。GDP成長率は2〜3%、おそらく2%、インフレは1〜2%の範囲と。これらは後程改訂される訳ですが、その改改訂は今からおそらく5年または10年後になってわかるのです。
イノベーションが経済にとってはるかに重要になってきます。2020年に世界で販売された220万台の電気自動車は、2025年には4000万台になり、5年間でこれは統計に反映されるはずです。問題は、自動運転のGDPに与える影響ですが、これはタイムリーでなく、遅れて反映されることになるでしょう。ただ、これは悪い話ではありません。経済成長は一般に報告されているものよりも本当は高く、インフレは低いという事実、これは良いことだと思います。

(岡元)
興味深いですね。次にお伺いしたいのですが、
キャシーさんは、エネルギー貯蔵、ロボティックス、DNAシークエンシングとブロックチェーン技術といった5つのイノベーションにフォーカスしていますね。このうちどれが、投資家によってまだ完全に理解されていない、よって、今後最も大きな投資機会がある分野とお考えでしょうか?

(キャシーさん)
私にとってその質問は、私の「子供たち」の中から誰が一番良い子か選ばなければならないという質問を受けているのと同じで、お答えするのは余り好きではないのですが、私たちが受ける質問、投資家からの反論から判断しますと、病気を治してくれる能力を持つゲノム革命が答えではないかと思います。
このテーマは、日本人の方が理解をしているのではないかと思います。それは京都大学の山中教授が非常に重要な幹細胞の研究でノーベル賞を受賞しており、ゲノム革命を理解したいという欲求が、米国や他の国と比べると日本では強いのではないかと思っているからです。それは調査の設定方法が違うからです。ヘルスケアセクターのアナリストはテクノロジーをちょっと恐れていることがあります。
アナリスト達はゲノム技術の動きが速すぎるため、規制上の障壁に直面するリスクがあると考えており、彼らは私たちが思っているようにゲノム革命が早く起きるとは信じていません。

私達の考えがおそらく正しいと思っている理由は、過去6か月で初めて、(ゲノム技術を用いた)病気の治療を見てきたからです。鎌状赤血球症を患っていたビクトリア・グレースという人がいます。彼女は、米国でちょっとした有名人になりました。彼女は今まで、少なくとも年に6回病院へ、緊急治療室に行かなければなりませんでした。それが治ったのです。1年間病院へ行っていません。

ベータサラセミアが治った別の男性は、今まで毎年17回輸血のために病院に行かなければならなかったのですが、過去12~14か月間で輸血のために一回も病院に行っていないと言っています。

転換点だと思うのですが、ゲノム革命関連銘柄の時価総額はまだまだとても小さいのです。CAS9(ゲノム編集技術)をより鮮明にするための基本的な特許を持つ3つの会社の時価総額は200億ドルから250億ドルくらいです。3社でたった250億ドル、一方、アップル株は1.5兆ドルです。確かにアップルは私たちの生活を変えたことで時価総額が急激に大きくなりました。ただ、アップルは病気の治療をしている訳ではありません。そういった意味で、ゲノム革命関連銘柄は、時価総額の大きな拡大が期待されると思います。

もう一つは、金融サービス業界への影響として、ブロックチェーン技術を挙げておきます。 DeFiまたは分散型金融と呼ばれるものが、金融サービス業界から多くの中間業者を排除することになるでしょう。それにより一時的な効果として既存の銀行や他の金融機関が劇的にコストを削減できるようになります。そして次に起こることは、DeFiで行われていることの多くがスマートコントラクトを中心としたものなので、今日の金融サービスに付加価値をつけている機会の多くがブロックチェーン技術に置き換わることになるでしょう。その辺りに注目をしてください。

(岡元)
昨年、日本で最も成功したファンドの一つが、日興アセットマネジメントを通じて日本で販売されているグローバル・スペース・ファンドだと思いますが、このファンドの投資テーマの今後の展望について、ご意見をお聞かせください。

(キャシーさん)
はい、非常にエキサイティングな「スペース(= 領域)」です。私たちは最初に日本で先行して宇宙ファンドを立ち上げました。フィンテック・ファンドを最初に日本で立ち上げた際は、米国におけるフィンテックに対する関心度合いを図るための先行指標として役に立ちました。しかし宇宙ファンドについては、その「テイクオフ(= 離陸)」はゆっくりとしたものでした。私たちが今得ているもののいくつかは私たちが当時必要としていたものだと思います。

スペースX社のロケットは宇宙ステーションに到達し、人を送り込み、ロケットは壊れることなく無事に地球に戻ってきて着陸するという、信じがたいような成功を収めています。ではなぜそれが興味深いのでしょうか?それはイーロン・マスクにとっての関心事だからです。なぜなら火星に行くためには、再利用可能なロケットが必要だからです。
再利用可能なロケットが必要なもう一つの理由は、宇宙のどこにでも行けるためのコストを削減したり、世界の最も遠隔地にいる人々がインターネットサービスを受けられるようにするために世界中に衛星を配備するコストを削減したりするためです。現在、世界の半数少々の人しかインターネットサービスを利用していなく、ブロードバンドインターネットサービスを利用している人はもっと少ないというのは信じられないことです。宇宙と衛星、宇宙計画と衛星技術は、世界の一部の地域で、これまでアクセスできるとは思ってもいなかったアクセスを可能にします。ここでは2つのダイナミクスが起こっています。ロケット、衛星、アンテナ、発射台等、これらの技術に関連したコストが劇的に下がること。再利用可能なロケットはその大きな例です。
そして、サービスの必要性です。そのサービスによって地球の最も遠隔地の隅々に現代世界をもたらすことができるという考えは、人々にとって非常にエキサイティングです。

また、月ではなく火星を目指しているという考えも、人々にとっても非常に刺激的だと思います。
現在のイーロン・マスクが収めたテスラの大成功を見るとにわかには信じられないかもしれませんが、テスラがモデル3の生産規模を拡大できるかどうか心配されていた時、私はよく言っていました。
イーロン・マスクがロケットを海の中の「はしけ船」に無傷で着陸させることができれば、彼はおそらく自動車を生産することができるだろうと。今度は、彼は誰も想像もしなかったやり方で自動車事業を拡大しているのだから宇宙事業においても成功するだろうという信頼感が高まりました。その成功がより多くの人々の宇宙事業への関心を高めたと思います。

宇宙開発競争も理由の一つだと思います。イーロン・マスクのスペースX、ジェフ・ベゾスのブルーオリジン、そしてアマゾンでさえ衛星の増加に関与しています。ジェフ・ベゾスは個人的にブルー・オリジンに投資しています。そしてもちろん、宇宙ファンドのトップ株の1つであるヴァージン・ギャラクティックのリチャード・ブランソンもいます。
リチャード・ブランソン自身が、数日前に、数ヶ月内の初の宇宙飛行を楽しみにしていると発言しました。会社側はテストでちょっとした失敗があったので、数ヶ月よりは後になるかもしれないと訂正していますが、私たちは、次の半年以内に、彼が宇宙に行くと信じています。これもまた宇宙と宇宙戦略にとっての強力な後ろ盾となることでしょう。この宇宙関連投資は今始まったばかりで、とてもエキサイティングなテーマです。

(岡元)
現在、このテーマで利用できる株は非常に限られています。スペースXは上場していません。これらの企業が今後数年間で上場企業になると思いますか?

(キャシーさん)
はい、間違いないですね。会社は上場するために列をなしていると思います。実際、私たちが宇宙ファンドに組み入れている株式の1つは、ブレード(BladeからExperience Investmentヘ社名変更: EXPC)と呼ばれている特別買収目的会社(SPAC)です。
ヘリコプターブレード用のブレードなのですが、これらは電動垂直離着陸機(eVTOL)です。 私達はTransport UPという団体から毎年夏にセミナーに招待されて、ブレードをはじめとする企業と会い、会話を交わしたことで、この領域をよく知ることができました。今日もBladeと、電動垂直離着陸機(eVTOL)による人の移動や貨物ドローンがどれくらいすぐに実現可能かについて話しました。
多くのドローン技術が防衛関連企業の中で活用されていることがわかります。Aerovironment(ティッカー:AVAV)のような大企業が宇宙戦略の中で活躍しています。もともと防衛の世界の会社だったのですが、その関係で、米国の規制当局から商業用に宇宙戦略を用いる承認が得やすくなっています。
その事業の一つが、ドローンを使って、例えばアラスカの大きな油田の調査ができるようになっていますし、大きな農地での調査も視野に入れています。このように、私たちの戦略のすべてが経済セクターを横断しているのと同様、宇宙戦略は他の多くのセクターにも関連していると考えています。考えてみてください。
ブレードは、腎臓や肝臓、その他の臓器を移植するためのドローン輸送に関与しています。このように医療の世界にも関わっています。ですから、始まったばかりの、非常に大きいテーマなのです。なぜなら、技術の準備が整い、コストが下がれば、より多くのセクターや業界がそれらを活用できるようになるからです。


(岡元)
私の理解が正しければ、キャシーさんはテスラについて2018年2月に業績予想を出しましたが、大正解ですね。1年前に、2024年にテスラの株価は、(分割後)1500ドルとなると予想していました。これが、基本的なシナリオで、ブルケースシナリオは3000ドルでした。しかし現在、3000ドルの目標株価は、ブルケースシナリオではなく、ベースケースシナリオになっている感じですね? そうだとしたら、なぜでしょう?

(キャシーさん)
ハッチさん、あなたがまるで私たちのリサーチ会議の場にいたみたいに思います。先週リサーチ会議を行ったばかりで、当社のアナリストのターシャ・キーニがテスラの株価予想モデルの最終調整をしています。テスラの配車サービスや、自動運転車の所有者やライドヘイル車の所有者に提供できる低コストの自動車保険、これは非常に収益性の高いものですが、こういったものを分析に含めています。
今はその内容をお伝えすることはできませんが、しばらくお待ちください。数週間以内に新しい目標株価を発表します。先ほど申し上げたように、あなたがまるで私たちのリサーチ会議に参加していたように感じる、とだけお話しさせてください。

(岡元)
それについてのフォローアップの質問です。明確な数字をあげることはできないということですが、テスラは今から約10年後の2030年にどのような姿になっていると思いますか?

(キャシーさん)
私たちは、テスラは世界最大級のタクシープラットフォームの一つになると信じています。テスラは、米国の主要な自動運転タクシー会社になれると信じています。私たちは、世界全体で自動運転の市場は、約10兆ドル程度になると考えていますので、テスラの時価総額をより大きなものにすると思います。ですから、テスラにとってとても大きなチャンスだと思います。そして、もし自動運転が成功してテスラの評価額が大幅に上昇するとしたら、それは自動運転の粗利益率が高い為です。電気自動車のグロスマージンは25〜30%くらいだと思います。テスラはそれを40%に押し上げることができるかもしれませんが、私たちは念のため25〜30%と想定しています。
ただし、自動運転といっても、「サービスとしての輸送(TaaS)」であり、そのモデルは「サービスとしてのソフトウェア(SaaS)」のようなものです。これは、80〜90%のグロスマージンが得られる構造になりえます。したがって、テスラ全体としてのグロスマージンは、おそらく60%台半ばから後半になるでしょう。
テスラの価格モデルにそのような混合グロスマージン構造を設定しているアナリストは他にいないと思います。なぜかというと、彼らは自動運転としての価値を考えているのではなく、今そこにある電気自動車としての価値しか見えないからです。

(岡元)
テスラの株価は昨年大きく上昇し皆を驚かせました。 しかし、キャシーさんはまだ大きなアップサイドがあると信じていますね。 昨年の驚異的なパフォーマンスを考えれば、一般の個人投資家が投資に慎重になるのは当然のことだと思うのですが、 個人投資家は、急騰したテスラ株を今年はどうするべきなのでしょうか。 今後生じうる混乱は無視して2024年、更にはその先まで株を保有すべきでしょうか。

(キャシーさん)
私が個人投資家であれば、私の戦略はしっかり保有し続けることです。もちろん税金やその他考慮しなければならないこともありますが、個人的には継続保有です。ファンドとしての私たちの投資行動は別です。ポートフォリオを見ていただくと分かると思いますが、私たちはテスラ株を売却してきました。それは他のアナリストがどんどん目標株価を上げてきているからです。ある証券会社が今週1400ドルの目標株価を掲げましたが、別の証券会社がこれまでつけていた1000ドルを大きく上回るものでした。つまりこれは、私たちは電気自動車の機会・将来性が多くの人に理解されたことを意味すると判断しています。ただ、今後その彼らの掲げた目標株価に近づくにつれ、彼らは自動運転の将来性を信じていないので、おそらくテスラの評価を下げ、株価に修正が起こるだろうと考えています。もしかすると自動運転の戦略絡みで株価の大きな修正が起きるかもしれません。これまでの株価上昇の局面で株の売却した訳ですが、株価が下がる局面ではポジションを増やしていくでしょう。自動運転車は最大の投資機会の一つであると考えていますので。

(岡元)
ウォール街のアナリストの多くは、キャシーさんのテスラの分析よりもテスラを低く評価していますね。その理由は、テスラ株をカバーしているこれらのアナリストは元来は自動車業界のアナリストであり、自動車アナリストの視点からしか会社を見ていないからだとも言われています。
なぜ、テスラをカバーしているほとんどのアナリストは、あなたが見ているような真の企業価値を見出せないのだと思いますか?

(キャシーさん)
そうですね。自動車アナリストは非常に成熟した業界を担当しています。実際、ガスエンジン業界は衰退していく業界で、彼らはバリュー的に株価の分析をする傾向があります。PBRや配当利回り、あるいは事業ごとの価値の総和(SOTP分析)で株価を判断しようとするのです。
例えば 最近GMのクルーズ・オートメーションの価値を300億ドルと評価をしたアナリストがいました。GMは800億ドルの評価額で、現在GMはそれぞれの部門の評価の総和を反映するような形で株価の評価がされているのですが、同じ手法でテスラの様な企業の価値を算定するのはとても難しいのです。なぜならテスラは旧来の業界には存在しないからです。そのため伝統的な自動車アナリストたちは、テスラをどう評価すれば良いかわからないのです。彼らはソフトウェアアナリストでもなく、ロボティックスアナリストでもなく、エネルギー貯蔵アナリストでもなく、人工知能アナリストでもありません。私たちはそれを、4つの異なる領域の専門知識のモデルに落とし込んでいます。1つの銘柄に、4つの領域の専門知識を持った3人のアナリストがついています。自動車アナリストがテスラを理解するのが難しいのは分かります。テスラは単なる自動車株ではありません。それが最大の問題だと思います。

(岡元)
キャシ―さんは、企業や業界の分析をする際に、大多数のアナリストが理解していないことを見抜かれています。他のアナリストと人とは違う分析ができるのは何故だと思いますか?

(キャシーさん)
理由は2つあります。一つ目は、私たちの調査の取り組みの方法です。これは他の調査組織や金融サービス業とは特に異なるやり方をとっています。従来の世界では、セクターごと、サブセクターごと、サブ・サブセクターごとに責任が切り離されていました。極めてサイロ化されており、専門化されています。それは今日のイノベーションを分析するための正しい方法ではないと考えています。私たちは、アナリストは全員がテクノロジーに慣れていなければならないと考えています。ですから、彼らは全員が技術アナリストでなければならないし、同時にジェネラリストでなければならない。そこで私たちは、アナリストが責任を分担できるように「イノベーション・プラットフォーム」に分割しました。つまり、イノベーション・プラットフォームのエキスパートは、セクター別に見るジェネラリストということになります。そう、これは現実の世界、あるいは伝統的な世界とは全く違うやり方です。イノベーションの収束が次から次へと起きている時代においては今までのやり方の分析では、非常に困難になっていくことでしょう。先ほどテスラの例で説明しましたが、テスラの分析は3つのプラットフォームの融合からなっています。自動運転配車ネットワークはロボット工学、これまでになく費用対効果の高い電気自動車はエネルギー貯蔵、そしてこれらの自動車の動力源となっている人工知能の3領域です。当社のアナリスト3人が1つの企業について協働しているのは、それぞれの専門領域を融合させるためなのです。従来の調査部門で私たちが目にしてきたものは、ある銘柄をカバーしたいアナリストと別のアナリストとの綱引きです。アマゾンを思い出します。テクノロジーアナリストはアマゾン株の調査をしたいと言っていましたが、小売アナリストはノーと言いました。ところがアマゾンはAWSのおかげで、テクノロジー企業としての評価が高まったのですから、本当ならば小売とテクノロジーのアナリスト両方でリサーチをするべきだったのです。
このように私たちは、従来のリサーチ組織にはなかったような形で、アナリスト同士のコラボレーションを可能にし、また奨励するように組織されています。
第二の利点は、ベンチマークを使って銘柄を選別していないことです。私たちは、まずは白紙の状態から、例えば電池技術に関して言うと、自動車や携帯電話の分野ではどのような電池があり、誰がどのような電池を使って何をしているのか、ということからリサーチを始めます。そして、彼らが何をしているのか、どれくらいの速さでコストが下がるのか、他と比較しながら分析します。そういうわけで、テスラがすでにバッテリー技術を進歩させ、バッテリーコストを劇的に削減していた家電業界のコストカーブに乗ることを決めていたことを最初からわかっていたのです。
リチウムイオンを使用した他の自動車メーカーと比較して、どのようにバッテリー技術を使用しているのか、彼らのコストは家電業界よりもずっと高いのですが、それはテスラが正しいバッテリーを選択していたことが非常に早い段階で明らかになりました。

(岡元)
テスラと同じぐらい、もしくは、時点でテスラ以上に気に行っている会社があれば教えてください。

(キャシーさん)
テスラはまだ当社の主力戦略の中で最大のポジションを占めていますので、質問の答えの一つになっていますね。現在ポートフォリオの中で、大きな上昇余地があると考えている銘柄としては、ゲノム分子診断のInvitaeがあります。Invitaeは、他のどの診断会社よりも積極的にDNA配列決定と人工知能の融合を大きく活用しています。
中国にどんな会社があるかわからないということを除いては、Invitaeは最も先を行っていて、おそらく世界最大の分子診断企業の一つと言っていいでしょう。もしこれが人工知能ゲームだとすると、最も多くのデータと最高品質のデータを持っている会社が勝つことになるからです。病気の治療・解決しようとしている多くの機関と協力して、Invitaeが収集したすべてのゲノムプロファイルの量は膨大なものです。例えばてんかんは大きなものです。Invitaeは、データと病識を共有するために、そのような組織のすべてと契約しているので、世界の他のどの組織よりも多くのデータを持っていると思います。また世界で最も重要な研究病院のいくつかと連携して、研究と科学を前進させるために無料でゲノムの配列の解析をしています。つまりデータを得るために、多くのサービスを無償で提供しています。同社は世界で最も重要な診断会社の一つになると思っています。

同じように、デジタルウォレットの分野では、Squareがより早く進化していますね。Wechat、Wechat Pay、Alipayなどのアジアのサービスから多くを学び、非常に高度なマーケティング戦略で急速に成長しています。ゲーム業界に非常に関与しており、その広告は二週間に一回、仮想通貨コミュニティ向けにCashApp Fridayというキャンペーンでビットコインをプレゼントするなど行っています。ここはPayPal等の大手が進出できていない領域です。こういった分野は、伝統的なビジネスの世界よりもはるかに早い速度で成長していくと考えています。サービスを提供するマーチャントに対する戦略と CashApp戦略の中で、二面性のあるマーケットプレイスとなります。その中のプレイヤーが伝統的な金融機関を利用する必要がなく、囲い込み型のエコシステムになり始めると考えています。このような企業は、先ほど申し上げたように、伝統的な銀行を競争上の不利な立場に追いやっていくと考えています。

(岡元)
キャシーさんはビットコインにも非常に強気ですね。10年後ビットコインが私たちの経済に果たす役割をどのように考えていますか?

(キャシーさん)
地球上で最初の、世界のデジタル通貨システムの基軸通貨になると思います。多くの人が、これは不可能だと考えています。政府がそれを取り締まりに来ると考えているからです。実際彼らは仮想通貨のリブラを事実上シャットダウンしました。しかしビットコインがそうはならない理由ですが、リブラには取り締まるべき主体がありました。つまりフェイスブックです。ですが、ビットコインでは取り締まろうとしても取り締まるべき実体がありません。
ですので、ビットコインは世界的なデジタル通貨になり、デジタル世界で最も重要な価値の保存手段になるのではないかと考えています。

また、非常に裕福な人々のためのヘッジ、富の搾取に対するヘッジになると考えています。これには2つのケースがあります。一つはインフレです。インフレが問題になるとは考えていませんが、金融政策が不安定になると見方を変えた場合、インフレとなり、インフレは富の搾取へと変わります。ビットコインはそのヘッジとなります。
そして、もう一つが実際の弾圧、中東で起きたように、富の没収が行われる場合です。皇太子が自分のいとこの富を奪ったように。ますます多くの富裕層が想像しえないことを考えるようになるでしょう。そして、ヘッジが必要だと言うでしょう。これもビットコインの非常に大きな利用の例になると考えています。

(岡元)
キャシーさん、再度、マネックス証券とお客様を代表して、お忙しい中、このようなインタビューの時間をいただき、また、お知恵をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。私たちスタッフ一同、あなたとアーク・インベストメントの今後のご活躍をお祈りしております。
私たちは、将来的にまたお会いできることをとても楽しみにしています。


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