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最強お助け魔女コンビ#02

 

ペティーは自分の部屋に座っている。ペティーの家はアメリカの中流家庭。ちゃんと個室があってペティーのママの好みで飾られてある。壁はミント色で、色彩豊かなキルトカバーがかけられたベッド、センスのいい薄いグレーの勉強机とクローゼットに白いステキな椅子。

その椅子に座ってペティーが真っ先にしていのはスマホ検索だ。ニヤニヤしながら週末に行けそうなお菓子屋さんを捜している。ニューヨークにはおいしいお店がどっさり。机の上にはさっき買ってきたお菓子が仕切りのある透明ケースに綺麗に並べられている。


その様子を崖の「ゆらゆら屋敷」からテレビで見ていたジーンは、またもや深いため息をつく。ため息が出た瞬間、そばの空気が白く凍った。朝食で飲んだ絶望味のエイドのせいだ。


ジーンは感情というものがよく分からない。もともと魔女はそれほど感情豊かな生き物じゃないけれど、彼女は特にそうだ。だから、人間界の本をドッサリ仕入れて勉強している。「ゆらゆら屋敷」の本棚は人間界のカウンセリング本で埋まっているのだ。


テレビを消したジーンは、本棚の前にあるソファーに移動した。深いワイン色のソファーは、傘が大きく開いたキノコみたいな形をしている。そのソファーにすっぽり収まって、ジーンは「怒りと付き合う方法」という本を開いた。

人間の言葉で書かれた本を読む時には必ず眼鏡が必要だ。パチンと指を鳴らすと、眼鏡のレンズが入った大きな箱が現れる。箱にはいろいろな色のレンズが入っていて、その上に重厚な文字の刺繍が入っている。「日本語、韓国語、英語、中国語、アラビア語、英語…」

ジーンは英語のレンズを取り出して、眼鏡に差し込む。これで自動翻訳されて人間の本が自由に読めるのだ。

「怒りを鎮めるには、一度、誰もいない場所で叫んだりするとよい、心にためたままだと病気の原因になる」

ジーンは怒ったりすることもほとんどない。心の芯が冷たいもので覆われていて、怒りで胸や頭が熱くなるということもなかった。炭酸水の「怒り」カプセルで、怒り狂ったことはあっても!


ジーンが本格的に本を読み始めようとした時、トントントン、誰かが「ゆらゆら屋敷」のドアをノックした。麓の町に住んでいる古物商のこびと、ルバンドだ。

マチルダがドアを開けると「ご注文のラジカセを持ってきたよ」とルバンドは言う。ルバンドは、人間界に行ける秘密の扉をいくつか知っていて必要な時、人間界に行き、いろんな中古品や本を仕入れてくる。人間界の研究をしている魔法界人にはそれらが必要だからだ。

ルバンドは魔法を使えるわけじゃないけど、その人間界に通じる扉を通ると人間のおじいさんに変身できる。紫のドラゴンの皮で作られた魔法の財布があって、そこに魔法界の金貨を入れて3日3晩寝かせておくと、人間界のお金になるのだ。

たまにお金がない時は、「ツケか銀行振り込み」というものをするらしい。人間界にはほとんど行ったことのないジーンは、ルバンドの話を聞くのがいつも楽しみだった。

マチルダがルバンドに金貨を支払い、「お茶とお菓子はいかが?」と聞いた。テーブルにはマチルダが作った特製のマフィンがある。庭に生えている野生のリンゴを薄くスライスして、シナモンをかけじっくり焼いたあと、マフィン生地に練り込み、上には水玉赤トカゲの粉を溶いて色を付けた真っ赤なクリ―ムがのっている。今日のお茶は、老眼のルバンドのために目にいい、ケツメイシをドラゴンの炎で煮立てたお茶だ。

ジーンはそっと2人のそばに近づいて、話を聞いている。「最近は、見たこともない新しい機械がたくさん売っとってな、スマホとかアイパッドとか言うそうだが、もうビックリじゃよ。ついに人間界も魔法界に追いついたかのう。ラジカセなんて売ってる場所もほとんどなくて見つけるのに苦労したんじゃよ」とルバンド。


「そうなのね、こっちの世界の時間はゆったり流れてるけど、人間界は魔法界の3倍のスピードで時間が過ぎるものね。人間界のカセットテープがたくさんあるから、ぜひ音楽を聴きたいと思ったけど、大変なお願をしちゃったのね。ごめんなさい、ルバンド」


ジーンは思った。「スマホって、さっきペティーが持ってたやつね、すごく便利そうだった。うちのテレビも時代遅れなのかな」

ルバンドは「ちょっとラジカセに細工をして、音がよく出るようにしといたから、お楽しみに」そう言って、次の配達先があるからとお茶を一気に飲み干し、出ていってしまった。

早速、ジーンはラジカセにカセットテープを突っ込んだ。コンセントは人間界の電気が必要だから魔法の変電器につなぐ。いろいろと手間がかかるのだ。

なんだかよく分からない、ジャカジャカしたうるさい音楽が流れてきた。人間が歌を歌ってる?ハープやバイオリン、ピアノなど楽器じゃない人間の声が流れてくるテープは初めて聞いた。

「悪くない」まあ、ただ叫んでるだけにも聞こえるけど。眼鏡をかけてテープのタイトルを見ると、「ボン・ジョビ」と書いてあった。あとで調べてみよう。

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