平出なつき

好物は、書物史、ナラトロジー(物語論)、貨幣とミーム、海外SF、絵巻物とマンガ 移り気…

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好物は、書物史、ナラトロジー(物語論)、貨幣とミーム、海外SF、絵巻物とマンガ 移り気な好事家です

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大衆本の世界史(4) ヨーロッパ編③ : 書いた人・読んだ人

 ヨーロッパ編のラストは、大衆本を書いた人と、読んだ人にスポットをあててみます。 印刷工房とジャーニーマン  まずは、当時の印刷工房の様子から見てみましょう。  イギリスでは18世紀、田舎の小さな家が50ポンドで買えましたが、木製の印刷機は20ポンド、活字は1セットでその10倍以上の300ポンドもしました。初期投資が高額だったので、書店や薬屋など他の業種の経営者が多角経営で始める場合が多かったようです。  投資を回収するには、印刷機をフル回転させる必要がありました。このた

    • 大衆本の世界史(3) ヨーロッパ編② : 「バラッド」 − 伝承からネタの宝庫に

       今回は少し脇道にそれますが、ヨーロッパの大衆本と浅からぬ関係にある「バラッド」について紹介します。  バラッドは中世以前に起源を持つ詩の一種で、欧米の音楽や文芸を支える基層のひとつといわれます。ネットには専門的な研究や情報もたくさんあるので、ここでは大衆本との関係から今につながる歴史をみてみます。 バラッドと大衆本の関係  実は近世ヨーロッパの大衆本は、200年以上にわたり、コンテンツの多くを他からのパクリに頼っていました。庶民が買えるようコストを下げるためで、大衆本オ

      • 大衆本の世界史(2) ヨーロッパ編① : 人気コンテンツは?

         今回から近世ヨーロッパの大衆本を3回に分けて解説します。  まず、国ごとの人気コンテンツとその違いをご紹介します。国によってはほとんど資料がないのですが、いくつか面白い発見もありました。 みんな物語が大好きだ!  まず18世紀のイギリスの大衆本「チャップブック」の分類を元に、庶民が求めたコンテンツをさぐってみましょう。なお、子供むけの童話、字の書き方などはそれぞれの分類の中に含まれています。  現代の書店に近い品揃えですが、これだけでは人気コンテンツはわかりませんね。

        • 大衆本の世界史 (1) : 17世紀の謎・ヨーロッパと日本で大衆本が同時発生

           江戸時代は、大衆本の文化が花開いた時代です。江戸には1000軒以上の貸本屋があり、武士も町人も新刊本を求めて詰めかけていたといわれます。  しかし、17〜19世紀の同時期にイギリス、フランス、中国など洋の東西で、よく似た大衆本ブームが起きていたことは、あまり知られていません。面白い現象だと思うのですが、近代の大量出版が始まるとほぼ忘れ去られてしまったため、これらを比較した研究はほとんどないようです。  本稿では、17〜19世紀のヨーロッパと中国の大衆本を日本と比較したう

        大衆本の世界史(4) ヨーロッパ編③ : 書いた人・読んだ人

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          なぜプーチンは支持されるのか? ロシア人の価値観の特異性

           2022年2月のロシアのウクライナ侵攻は世界を驚愕させました。しかし、戦争が長期化するにつれて深まる疑問は、厳しい経済制裁と世界的な非難の中で、多くのロシア人がプーチン大統領を支持し続ける理由です。  ロシアでもSNSやうわさですでに侵攻の実態は知られているようですが、それでも多くの人々が主体的にプーチンを支持しているように見えます。  西側諸国からは理解しにくい行動ですが、ロシア人の心の深層にある価値観を知ることにその手がかりがあるかもしれません。 「進化論的近代化論

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