雑誌「広告批評」で連載されていた時評コラム。
1996年12月〜1999年8月、作者(=橋本治)が50歳前後の時期に書かれたものが収録されています。
私が最初に橋本治の名前を知ったのがこの連載なのだけど、新書でベストセラーになった「上司は思いつきでものを言う」(2004)で知っている人も多いかもしれない。
芸能ネタから
(太字=傍点表記)
よく「〇〇症候群」みたいな造語を使う人がいるが、それは使わず「症状」と書いてあるのが大変良い。
「欠落している記憶を埋める」で思い出したのが、学園系の作品が好きな友だちが「自分はこういう学校生活を送りたかった(のに叶わなかった)からフィクションで補完している」と語っていたことがあって、妙に感心した記憶がある。
江戸時代のドラマ
江戸時代の文化の解説は「たとえ世界が終わっても」にもあった。
・管理社会なので調和を乱さない=我慢することは美徳
・あからさまな自己主張をするのは悪役
ところで江戸から飛んでエヴァンゲリオン(テレビ版)について言及されている箇所もありました。
主体思想と平安時代
▶️ 主体思想の黄長燁(ファンジャンヨブ)が亡命したとき、彼について「金正日の家庭教師で、国家の序列は26番目だが本当はNo2くらいの大物」のような説明がなされた。「日本であれば〇〇みたいな人」という説明がしづらく、全体主義国家には思想的元締めが居るが、日本にはそういうものは無いという話。
▶️ ナチスであればゲッペルスが宣伝大臣をやっていたが、軍国主義の日本にこういう存在がいたかというと、いない。
江戸時代の儒学者、林羅山を開祖とする林家がそれにあたるかもしれないが、朝廷と幕府で別れていたため北朝鮮のような一元的な“国家序列”というものが成り立たない。しかし平安時代にはそういったものがあった。
▶️ 平安時代の政治機構は2つに別れており
・神祇官=神道の宗教儀礼をつかさどって、全国の神社の神官を統率する
・太政官=行政・立法・司法を担当する
祭政一致の当時、神祇官は太政官の上にくることになっていたが、不思議なことに身分制(正一位とか)で見るとねじれがある。
太政官トップの太政大臣は正一位か従一位(身分制度の1番目か2番目)だが、神祇官トップの神祇伯は従四位の下で、これは「上級貴族」にも入らない。(上級貴族は三位から上)
神仏混淆(しんぶつこんこう)↓
「禅と戦争」を読んだとき個人的に気になってた、明治よりも前の日本の宗教(神道+仏教)について色々書いてあったのでメモを兼ねて。官僚制度が平安時代の朝廷っていう説明もあって、それも面白かった。
その他
1997-1999年ということで、アジア通貨危機、山一證券、大蔵省の不祥事、長野オリンピックなども登場します。
ジジェクのイデオロギー映画でも、ベートーベンの第九が共産主義国家に好まれたという話が出てたような。
江戸時代についてはこちらのnoteも↓