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『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』 ピーター・ターチン

国のような複雑な組織は、内乱と平穏な時代が交互に繰り返されており、その平穏が崩れ去るのは、エリートになれなかった人(椅子取りゲームで座れなかった人)が増えすぎた結果である、という趣旨の本。

エリートをより説明的な言葉で言い換えるとすれば、「権力の保持者」となる。

公式noteで序盤が公開されています↓


歴史

安定的な段階(統合期)と不安定な段階(崩壊期)は100年で入れ替わるケースが多いが、一夫多妻の文化圏ではエリート過剰の段階が早く訪れるためサイクルが早く50年ほどになる。

① 潜在大衆動員力へとつながる大衆の貧困化
② エリート内の対立を引き起こすエリート過剰生産
③ 財政の健全さの悪化と国家としての正当性の低下
④ 地政学的要因

p47

中世フランス/イングランド

13世紀フランスは黄金時代だったらしい。
 ・フランス王権が直接統治する領土は3倍に
 ・人口2000万人に到達
 ・ゴシック様式の建築、パリ大学に人が集まり欧州文化の中心に

イングランドとフランスで起きた百年戦争などを例にあげ、両国でどのように人口がバランスされ(死傷者、飢餓、疫病)内乱と復興がくり返されたか分析されている。

海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』

エジプト

サラーフッディーン(サラディン)によるアイユーブ朝。彼はクルド人で一番有名な人らしい。パレスチナで十字軍と戦い、エルサレムから十字軍を追い出した。

・一夫多妻の文化圏では4世代ほどで王朝が終わることが多いが、マムルーク朝は長続きした。

マムルーク朝は三世紀近くにわたってエジプトの支配を維持した。そのような偉業を達成するために彼らは、マムルークの息子たちが父親の地位を受け継ぐことを禁じた。

奴隷市場で購入され訓練された兵士たちのことを「マムルーク」というが、その制度を堅持し権力を世襲しなかったため、軍隊も効率的で強かったらしい。モンゴル帝国の侵攻も阻止した
(1260年のアイン・ジャールートの戦い)

中国

・200年前の中国は繁栄の時代だった
・1644-1912年 清王朝の、太平天国の乱(1851年 )について
科挙の試験を目指す人数は4倍にも増えたが、ポストはそこまで増加していないため椅子取りゲームの敗者が数多く生まれた。洪秀全もその中の一人

・中国は官僚制帝国で、その制度は2000年も続いている。億万長者を「管理」することは、権力者(官吏)にとって当たり前という感覚

中国の王朝史を通じて高級官吏たちは商人階級を厳しく管理してきたが、紅朝にも同じことが当てはまる。二〇二ー年八月一七日、現在の中国の統治者である習近平は雄弁な演説のなかで「共同富裕」を呼びかけ、過度な高所得者層を規制する必要性について強調した。

アメリカ

・アメリカの権力ピラミッドは、企業コミュニティが頂点に位置している。
2021年には37億ドルがロビー活動に費やされた。民主党と共和党、どちらの陣営にも献金してる企業も多い。

・富の二極化について。中産階級は貧困化し、教育費の値上がりなどにより、階級の移動が難しくなってきている。

一九七六年と比べて二〇一六年になると、低学歴の「労働者階級」の親は子どもを大学に通わせるために四倍長く働かなければいけなかった。

・移民の弊害

高度なスキルを持たない移民が大量に流入すると、自国生まれの低学歴労働者の賃金が下がる。大学教育を受けていない黒人アメリカ人など、もともと不利な立場に置かれている集団にはとりわけ深刻な影響が及ぶ。
しかしそのような賃金の低下は、移民を雇う側である企業のオーナーや経営者により高い利益をもたらすことになる。

急進右派の人々も(今は)とくに組織化されていないため、脅威ではないという話も。

おわりに

オリガルヒやロマノフ朝の話も8〜9章に書かれています。
『アメリカは内戦へ向かうのか』がディスられている箇所も

それを踏まえると、『アメリカは内戦に向かうのか』でのバーバラ・ウォルターの分析はしばしば嘆かわしいほど不適切で、ときに浅慮であることがわかる。

中国共産党体制が崩れると言われながら何年も続いているのは、椅子に座れなかった人々が国内にとどまらず(半ば自主的に)海外に分散したため、カウンターエリートが国内で結束しなかったからだと思ったりしました。

あと、暴力についての話を読みながら
民話によく登場する
 「妖怪にお供えをすると、守り神になる」
 「毎年一人、女を生け贄として差し出す」

というパターンは、野蛮な人々(山賊など)と集落のあいだの「手打ち」がモチーフになっている?ような気がしました、、

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