精神科医が見た投資心理学
著者のブレット・スティンバーガー氏は現役の精神科医で、トレーダーでもある。彼のクライアントは、普段はハードなスケジュールをこなしているが、何かの問題が起きて困っている人々で、彼らのための短期セラピーが専門である。
本書の中で最も強く印象に残ったのは以下の2カ所だが、500ページ全体としても得るものが多く、「負けるのは本当はそうしたいのだ」というような、精神分析にありがちな〈解釈〉ではない、状況の捉え方、解決策などが書かれていて、投資+心理の本の中では一番好きかもしれない。
(各章のタイトルは書籍のものではなく、ざっくりした説明として私が勝手につけたものです)
第1章 「問題」ではなく「解決策」に集中すること
著者は投資を始めたころ、きちんとしたデータ、頼りになるソフトウェアを準備し、本を読みセミナーに足を運び、熱心に勉強した。そしてもちろん失敗した。
トレード記録から自分の失敗を分析した結果、以下のすべてにおいて「一貫性がなかった」と述べている。
・投資規模(ロット)
・準備
・投資の実行(時間軸)
・観点(ティックに集中して大きなトレンドに注意を払っていなかった)
・市場離脱(手仕舞いのルールにシナリオがなかった)
逆に、上手くいったトレード(細かい上下に振り回されず、落ち着いて戦略通りに行動できた)は、建玉が小さいときだった。規律を守れない原因を見つけるには、上手くいったトレードのパターンを探すと良い。
第2章 失敗は敗北ではない
損切りは失敗のように見えても、損失が膨らむポジションを放置したままチップが全てなくなれば敗北する。目の前の事象を捉え直すことで、逃げていた決断を実行できるようになったケース。
また、マイナスの感情から切り替えるための方法がいくつか紹介されていた。2つ目の「一定の手順」のところは、条件反射制御法と似ている感じがした。
第3章 感情を情報として利用する
ポジションを取ったあとリラックスできず、身体がこわばり、前屈みになり、手に汗を握っているならば、もしかするとそのポジションは間違っているのかもしれない。自分でも気がついていない「何か」を、 脳が無意識が見つけている可能性があるからだ。
トレード中の感情が問題なのではなく、感情に没頭してしまうことが問題になってくる(マーケットに没頭しなくてはいけない)
不安をコントロールする方法のひとつとして、EMDRに由来するやり方が紹介されていた。
第4章 何が欲しいのか
ダイエットに失敗する原因は、健康になろうと決意した人格と、甘いものを食べようとする人格は「別人」であり、それぞれの願望を理解しなければいけないという話。
例えば上記の場合であれば、エキサイティングな体験を投資以外の場面で行えば、投資では興奮を求めなくなる。何かをただ「やめさせる」ことは難しいが、別の願望にシフトさせることはできる。
また、過去の成功体験もトレードの役に立つ。例えばゴルフなどで、失敗したプレイを忘れて「今」に集中したことがある人は、投資でも同じようなモードを解決策として使えるはずだ。
第5章 反復すること
パターンをくり返すことは、 オペラント条件付け(正の強化、負の強化) が行われている状態である。
ストップを守れない、ロットを入れすぎる、利食いが早すぎる、などの悪いパターンも「良いパターン」を繰り返すことで上書きすることができる。
古いパターンを踏襲しようとしているその場面で、意識的に「新しいパターン」を実行し、それを何度も繰り返して定着させること。
犬に芸を覚えさせるように何度も反復して、ようやく自分の一部にすることができる。
第6章 大きな変化を使う
・片目を閉じた場合、左脳と右脳を個別に使うことになるので違った視点見ることができる。
・デスクから離れて運動してみる。姿勢を変える
・大きな声を出す。スポーツ選手も気持ちを切り替えるためにこのような手法を使う
極端な変化を取り入れることは自信をつけるための良い方法らしい。ポジションを取りすぎる場合に取引を1日1回に絞ったり、普段のロットを拡大する場合に、少しずつではなく一気に増やす。
逆に、たとえばアナリストの言葉を鵜呑みにしてポジションを取ることは投資に不可欠な自信を失わせ、自ら「決断できない人間」であることを認めていることになる。
第7章 相場にボコボコにされる
アルコール依存症の患者が本気で断酒しようと思うのは、当人が本当に「もうたくさんだ」と実感したときで、一般的に〈底つき体験〉と呼ばれる。
投資家も、現在の失敗から新しいパターンを「ほんとうに」獲得したいと思って努力するためには、一度は退場寸前まで追い込まれる必要がありそうだ。
おわりに
努力について、こちらの動画で印象的な部分があった。
「くたくたに疲れているときに、さらにパズルを解くような訓練をする。身体と同じように脳も鍛えることができる」
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