『知らずに入り込み、知って出ていく。』(エッセイ)
まだ上京する前の頃。
ある日、ショッピングに行こうと思い、電車に乗り込んだ。
その電車は、新幹線のような座席タイプではなく、地下鉄のような座席タイプだった。
時間的に正午近くだったこともあり、車内はガラ空きで、座ることができた。
同じ車両にいる乗客は、まばらだった。
そして、僕の前の座席には、1人の老婦人が座っていた。
閑静な車内と、ポカポカした陽気とで、僕はウトウトしていた。
そんな中、僕の前に座っていた老婦人が、下車するために立ち上がり、僕の横に並ぶ位置に来た。
すると、その老婦人が言った。
「お兄ちゃん、ここ、女性専用車両やで」
そう言い残して、その老婦人は去っていった。
扉が閉まり、僕は唖然とした。
ここが女性専用車両だなんて、全然気づかなかった。
別に慌てていたわけでも、いわんや乗りたくて乗ったわけでもない。
ただ、空いていた車両だったから、乗っただけだ。
さっきまでのリラックスした気分はどこへやら、俄然、居心地が悪くなったので、目的地ではないのに、次の駅で降りたということは、言うまでもない。
〈終〉
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