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【短編小説】#4 夢

私は後ろにいる誰かに見られないようにノートPCの蓋を閉めると、しばらく横になって眠りにつくことにした。

* * *

スマートフォンの着信チェックをしてから寝ようと画面を覗くと未読のメールが1件あった。タイトルには「当社を装った料金支払いを促す不審なメール…」と書いてある。はいはいなるほどわかりましたよ。自分はフィッシング詐欺にひっかからないって思っている人がほとんどだと思うけど、あれは数打てば当たるくらいの博打で、騙そうとしているすべての人を相手にはしていない。しかし忙しかったり体調が悪かったりと悪条件が重なったときに人間は正常な判断ができなくなる時があるから、普段から気を付けている人でもその点では注意が必要だ。

そういえば明日は家業の事業経理を手伝う日なのでタイムカードの整理をしないと。そういえば家業ってなんだったっけ。考えようとすると急に記憶が曖昧になりどっと疲れが出てきた。頭の中はすっかり寝るモードに切り替わっている。家主が確認をする声が遠くから聞こえてくる。はいはいわかりましたよ。大丈夫ですよ。スケジュールはいれてありますよ。無職の作家である私にとっては毎日が休日のようなものだ。スケジュールもなにもないだろう。そう自問自答すると急におかしくなってきて声を出して笑ってしまった。

実はここ数日前から寝ながらタブレットで英会話を聞くという習慣ができていた。筆記はある程度理解できるんだけど、リスニングともなると話は別。覚えたいという気持ちが強いけど、覚えないにしてもその心地よい耳障りに身を委ねたいという目的もあるのだ。私が利用している英会話のリソースは動画投稿サイトのものなので、画面スリープをなしに設定して有線のイヤホンを耳にねじ込んでからタオルケットの中に潜り込んだ。睡眠中に英会話を聞くことで頭の中にすりこまれるかはマユツバだったが、レム睡眠に移行した(と思われる)タイミングで聞こえてくる言葉は目覚めてからもなんとなく覚えていることを体感できた。

その日起きてから覚えていた単語はただ1つ。

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I see.

* * *

I see.
I see.
I see…

わかったよ、もういいよ。

* * *

追憶

ああそうか。この日見た夢にはもうひとつ理由があったのだ

初夏のある日、出社するために私は同僚と先を急いでいた。なぜ同僚と一緒にいたのかいくら考えても思い出せない。記憶はそこから記録されていたからだ。

https://note.com/yoyo_cetacea/n/n6b67f5b4e205


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