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【短編小説】#11 コーヒー

私が常習的にコーヒーの味を覚えたのは高校生の頃だ。

部活やアルバイトの帰りに仲間とお店の前に立ち寄ってカップ式の自動販売機でコーヒーを選ぶとき、砂糖多めとかミルク多めのボタンが嬉しかったことを覚えている。

やがて成人するとお酒の味を覚え、いつしか毎朝職場の近くのコーヒーチェーン店に立ち寄ってコーヒーを楽しむようになった。一緒についてくる砂糖やミルクは入れずジャーマンドッグと一緒にブラックで飲むようになったのはいつからだったのだろう。

あの頃は仕事場や家でドリップバッグ式のコーヒーを淹れるとき、時間も気持ちにも余裕がなかったせいか淹れ終わるのが待ちきれず、いつもアメリカンのような薄い味になってたっけ。とにかく毎日夢中で働いていた時期だった。

今は・・・

3LDKある間取りの自宅は、今はひとり居間だけで生活するようになった。
トイレットペーパーだってなかなか減らないし、熱を出してもジェル水枕を自分で枕元にもってきて右に左に体を動かしながら唸るばかり。

私にはコーヒーのような生活はほろ苦すぎたみたい。

そう思いつつも、心に余裕も時間もある今の生活ではゆっくり・・・・ゆっくり・・・・ドリップすることで本来のコーヒーの美味しさを実感している。なるほど、コクも苦みもアメリカンのようだった私の人生は実に薄っぺらかったということだ。

そんなコーヒーも最近はあまり口にしなくなった。子供のころは顆粒のレモンティーやアップルティーが好きだったこともあって、ここのところティーバッグで淹れたストレートティーや紙パックのアップルティーをよく飲んでいる。紅茶は苦みを感じないけど、かわりにお茶のようにざらっとした少々の渋みがアクセントになって美味しい。

どうやらいまの私には紅茶や緑茶の渋みのほうが合っているみたい。

けれどね、たまに無性にコーヒーを飲みたくなる時がある。そろそろコーヒーを覚えられるようにと買ってあげたラテのスティックコーヒー、いまでも買って飲んでいるかな? ブラックの味も覚えたのかな? 夏はアイスコーヒーだよ!

もう終わった話だしね。毎日そう自分に言い聞かせる生活の中でたまに思い返す思い出は、ブラックコーヒーのようにあいかわらずほろ苦い。

砂糖少なめ、ミルクなし。高校生の頃にバイトをしていたお店の前の自販機でコーヒーを飲み干してカップを握り潰すと近くのゴミ箱の中にぽいっと捨てた。みんなのおかげで楽しい時間を共通できたし、ずいぶん遠回りしてきた人生だったけど。今は高校生の時からたった数年しか経っていないような錯覚を覚えている。それがちょっと面白くておかしい。そのせいか体温が少し上がった気がして、長袖の服を脱いでTシャツになった。

店の外に出ると、日本はもうすっかり夏だ!

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