体が持ち上がる、跨る、揺れる、空と大地が広くなる

 馬に乗りました。

 通りかかった公園に馬がいることに気づいて、ちょっと撫でるだけでもと思って近づいたらあれよあれよと乗せてもらえることになりました。
 馬が繊細で賢いこと、そんな馬と触れ合うセラピーもあることを知って、いつか馬と触れ合ってみたいなぁとずっと思っていたんですよね。


 おじいさんと言っていい年代の気のいい飼育員さんと、歩きながら飼育員さんの背中をお鼻でつんつんつついて遊んでもらおうとするような甘えん坊の女の子(馬)。

 馬に乗れることになったとして(サービス的な意味で)、どう馬に乗ろう(物理的な意味で)。
 と思いながら言われるがまま鐙に左足をかけ、右手で鞍の取っ手を握ると、唐突に体が軽くなって上に持ち上がった。視界が急激に高くなった。
 体が持ち上がった勢いで右足を反対側の鐙に掛けて、鞍にお尻を収める。

 どうやら体を持ち上げてくれたのはあの飼育員のおじいさんらしい。
 この方がこんな力仕事をしていることに驚き、力仕事とはいえ、熟練の技術によって最も負担が少なく効率のよい方法で持ち上げられたことを実感して、しばし感動で目が点になる。


 馬が歩き出す。
 左右に揺れる。振り落とされやしないかと肩と足が硬くなる。
 それを予知していたかのように、どうか力を抜いて楽しんで下さいね、と飼育員さんの声。
 こんなに揺れるとしたら自分で手綱を取るのは本当に大変だろうと容易に想像できるけれど、ともかく今だけは飼育員さんの言葉に甘えてお任せすることにする。

 揺れはするけれど、振り落とされるようなこわいものじゃない。一定の周期で、穏やかな振動。
 乗馬は下半身の筋トレにもなるらしいことを思い出して、ちょっと姿勢を良くしてみたりする。
 自分を乗せてからは、馬は飼育員さんに甘えたりはしない。ただ静かに歩く。

 馬に乗ると視線が高くなるでしょう、なんて声をかけられるけど、視線が高くなるのを一番感じたのは飼育員さんに持ち上げられたあの瞬間だった。馬に乗っている時はむしろ、空と大地が広くなったように感じる。


 辺りを一周して、写真も撮ってもらって、片足を鐙から外しつつさあどう降りよう、と思っていると、またも体が軽くなって地面に両足が付いていた。やっぱり飼育員さんが体を支えてくれたらしい。さっきの逆再生みたいに。
 ジャンプして高い所から着地したような下乗だった。
 何から何まで、ありがとうございました。

 乗せてくれてありがとう、と馬の女の子にもお礼を言う。
 どこを撫でてもいいらしい。首は温かかった。鼻先を撫でさせてもらった。とってもいい子。



 馬から降りて、お礼を言って、自分たちが離れたところで、馬がまた鼻先で飼育員さんにじゃれついていた。

ここまで読んでくれたあなたがだいすき!