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「袴DE☆アンビシャス!2022」について

※本記事はいち舞台好きの、あくまで素人の感想です。
また、ネタバレを含みます。閲覧の際はご注意ください。


「スポ根」の王道×独自の要素

本舞台は「袴女子×スポ根×グズグズコメディ」と銘打っているように、とてもストレートなスポ根モノであった。だが特筆すべきは「王道を往きながらも新しい」点だ。

まず王道な要素として、全て挙げるとキリがないものの個人的に好きな点は
・主人公が挫折や葛藤を抱えながらもそれを乗り越え、持ち前のバイタリティが敵味方問わず周囲に影響を与える。
・最初は敵だったキャラクターが次第に味方になり、目的達成に貢献する。
・悪役が映える。目的や人格、悪になった経緯が見える。
の三つだろうか。
これらは類似している作品が多くあり、何度見ても胸が熱くなる要素である。
その上で本舞台を新鮮にしている要素はやはり「スカッピー」「女学生」だと思う。

一見なんとも絶妙なタイトルのスポーツだが、かなり奥が深いと感じた。5種類の役割とアタック/ブロック時の特性など、ありそうでなかったシステムである。ひいては演出の観点においても「舞台上で物理的に紙風船が動く」「フィールドが360度」、更には「センターポジションに入った時に明確な得点演出がある」などの斬新さが挙げられるだろうか。これらの点が視覚的、演出的にとても見ごたえがあった。舞台上で演者が紙風船をパスし合うシーンは終始ハラハラしながら観ていたし、ブロック時の「わっしょい!わっしょい!」も手に汗握る演出だった。

また、こうしたスポーツを女学生がやっているというのも面白い。袴の着方やカラーリングが個性的でありながら、そのままユニフォームにもなれる。顔のいい女優たちと袴のベストマッチに「スポ根」が掛け算されている点も本舞台ならではの魅力だと思う。

「雷宮慈リュウレ」+「千歳まち」さんについて

続いてキャストの方々についても何人か特筆したい。本舞台は特にどのキャラクターも十人十色の描かれ方がなされており、正直なところ印象が薄いキャラが思いつかない…という、かなり秀逸な舞台だったと思う。その中でも個人的に印象に残ったキャラクターを挙げる。

まずは私自身が本舞台を観劇させていただいた理由である「千歳まち」さん演じる「雷宮慈リュウレ」だ。

「職人肌」のナギナー/ポイントゲッターの矜持

リュウレはチームデンジャラスの中でも、特に純粋に「勝ち」にこだわったキャラクターだったと思う。例えばツルギは「ウメノ先生を超える」という明確な意思があったし、サジコは「支配欲」に囚われていたキャラクターだった。そんな中で、リュウレはただ得点のために純粋に薙刀を振るっていたように見える。
主に選考会本番において「平常心に勝るものなし」と言いながら薙刀の刃こぼれなどを気にしていた点がとても象徴的であるし、スカッピーの花形ともいえるポジションでありながらも試合では戦略的に体力を温存する冷静さをも持ち合わせていた。また、チームアンビシャスの底力を見抜くとすぐにツルギに「奴らは強い」と耳打ちする場面もよかった。そこにあるのは「勝つためにはどうすればよいか」という純粋な思考である。ストイックを体現した正に「職人肌」な、とても魅力的なキャラクターだった。

加えて悪役としての役割…特に引き立て役としても大きな役割を果たしている。それは、同じナギナーのクルネ、ノゾミよりも格上の存在という点だ。クルネに対しては登場時から「弱いやつほどキャンキャン吠える!」と一喝。これ見よがしにすぐに紙風船を叩き割り、クルネの薙刀を弾き飛ばすシーンは鮮烈だった。ノゾミにおいても薙刀勝負では圧倒的な力の差を見せつけ、作中のナギナーとして最強であることが見て取れる。だからこそ二人にとっては「超えるべき存在」となり、結果的に二人の魅力を相互的に引き出すに至った。

その他にも魅力的な点は多くある。特に選考会での連携技、「天地雷鳴」(セリフを聞き取っただけなので間違っているかもしれない…)は文字通り痺れるほどにカッコよかった。
また、得点が決まった時に素直にガッツポーズをして喜んでいる姿が可愛く、ツルギが得点した際も笑顔で拳を突き出している姿もよかった。
ひいてはラストシーン、一点差でデンジャラスが敗北を喫する場面では、拳を握り、頭を抱えてとても悔しがっていた。自分が「ナギナー」というポジションだからこそ、一点の差は縮められたのではないだろうか……そんな心の声と歯ぎしりが思わず聴こえてくるような、まちさんだからこそ表現できた、真に迫った演技だったと思う。クールでストイックでありながらも繊細な部分が見えるリュウレは、まちさんだからこそ表現できたのではないだろうか。リュウレというキャラクターをまちさんの演技で観ることができて、とても嬉しい。
(今回は素敵なブロマイドに加え、観客への投げキッスを二回もいただいてしまった。またもや生きる活力とかけがえのない思い出を貰ってしまい感謝してもし切れない。これを書いている最中も手元のブロマイドを眺めてしまっている。かっこいい………)

「石小露カヲル」+「若林倫香」さんについて


本舞台の主人公、カヲルの凄かった点は「埋もれなかった点」である。前述したように、本舞台は全てのキャラクターが「立っていた」といっても過言ではない。そんな中でも主人公であるカヲルは決して目立たないということはなく、輝いていた存在で居続けた。
序盤からウメノ先生の想いを感じ取りスカッピーにのめり込んでいく様は見ていて分かりやすく、「アルバイトの掛け持ちで学費を稼ぐ」「手あたり次第スカッピーのメンバーを勧誘する」など、一見すると後先を考えない行動も「自分が選んだことからは逃げたくない」という彼女の思考の根本が見て取れる。これを象徴するシーンはもちろん選考会の決戦前、脚の怪我が発覚するシーンである。無理をしてでもウメノ先生に嘆願し、フラフラになりながらも「逃げたくないから!」と啖呵を切るシーンがとても象徴的であり、このシーンの後、音楽をベースにチーム全員が練習するシーンでは思わず涙が出てきていた。

このカヲルを完成させたのは若林さんの演技力の賜物ではないだろうか。声の通りがとても主人公向きで、動きや立ち回りなどの全体の雰囲気にとても愛嬌があったように思う。
コメディ要素を多く担当しながらも要所ではしっかりと決める、というバランス感覚が求められる役割を見事に演じられていたのではないだろうか。

「五所瓦ノゾミ」+「鶴田葵」さんについて

(これは私自身の好みの部分が大きいだろうが、)ノゾミは特に雰囲気が完璧なキャラクターだった。立ち振る舞いの柔らかさやお嬢様口調があまりに自然で、エレガントのリーダーとして相応しいキャラクターだった。
全ての行動に品があるキャラクターでありながらも、その本質は決して浮世離れしたものではない。「声を出していきましょう!」とチームを鼓舞する姿は自然で、特に中盤、チームデンジャラスのホームに乗り込んだものの試合すらさせてもらえず、仲間を傷つけられた怒りを発散できない悔しさ、自分は何もできない不甲斐なさから地面を叩くシーンはとても印象的だった。

他にも、(鶴田さんご本人の顔の良さも相まってか)「エレガントっ」と得点を決める姿は非常に様になっていて可愛く、リュウレと同様に、得点を決めた際には素直にガッツポーズをして喜ぶ姿はとても年相応で可愛かった。いかにもフィクションな設定のキャラであるにも関わらず、本当に現実世界に存在してそうな妙なリアリティがあり、非常に魅力的なキャラクターだった。

おわりに

大変な情勢の中でも、ここまで面白い舞台を作って下さったキャスト及びスタッフの皆様、本当にお疲れ様でした。
素晴らしい舞台をありがとうございました!

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