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デマに屈した愚かな人間社会 信用しないことからはじめるデマ対策

コロナ禍のデマを前に、私たち人間は恐ろしいほど無力でした。けちょんけちょんです。SNSを開くと、そこには不正確な情報や陰謀論、突飛な極論がたくさん溢れていました。

そんな現状にウンザリしつつも、「まぁ世の中にはいろんな人がいるもんね」と、どこか納得してしまう部分もありました。日本国内には1億2000万人もいます。その一人ひとりに対して「デマを流すな!」「真偽を確認しろ!」というのはどうしても限界がある。

人間の知性を信じたいけれど、その無力さを痛感した今、考えを改めないといけないように感じます。人間はマジで愚かな生き物だと僕もあなたも。

なぜ、デマに屈してしまったか。人間の「バグ」を整理してみます。

情報の拡散とは、「知る・教える」の連鎖

まずデマを考えるときは、拡散の仕組みに着目してみましょう。

情報拡散とは、つまり人間が行うインプットとアウトプットのバトンリレーです。SNS上で知った情報を、リツイートや投稿を通じて教えていく。この連鎖こそが、情報拡散の正体です。

下の図では、Aさん→Bさん→Cさん→Dさんへと情報を伝達するフローを示しています。AさんがBさんに情報を伝達するときは、Aさんがアウトプットし、Bさんがインプットすることになります。

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SNSでは、インプットとアウトプットが表裏一体で隣接しています。

このフローを通して情報を正しく伝達するには、Aさん〜Dさんが正しくインプットし、正しくアウトプットすればいい。これが理想的なあり方です。ところが、コロナ禍では正常に機能しませんでした。

ここで、人間を1つのソフトウェアと見立てみましょう。

SNSには、日本だけで数千万もの「ソフトウェア」(ユーザ)が稼働しています。しかも、すべて種類が異なるソフトウェアです。

そのソフトウェアが、コロナ禍では明らかに機能不全を起こしていました。いくつものバグが生じてしまい、不正確な情報を拡散してしまったのです。インプット時にバグる場合も、アウトプット時にバグる場合もありました。

奇しくも、私たち人間には致命的なバグがあることをコロナが証明してしまったのではないでしょうか。

バグ① 人間は、文章をまともに読めない。

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厚生労働省がPDFで公開しているこの資料。文中には、(新型コロナウイルス感染症とは)「ウイルス性の風邪の一種です。発熱やのどの痛み、咳が長引くことが多く、強いだるさを訴える方が多いことが特徴です。」と書いてあります。

これを見た人たちが、「厚労省がコロナはただの風邪と認めた」と大騒ぎしていました。もちろん、これは誤りです。

確かに、新型コロナウイルスはコロナウイルスの仲間です。でも、だからといって、COVID-19は風邪と同じではありません。その理屈で言うと、SARSやMERSも「ただの風邪」になってしまいます。

バグ② 人間は、正しく表現できない。

SNSの特徴の1つに、「各ユーザは発信者である」ことがあります。一人ひとりの投稿は、回り回ってさまざまな人に影響を与えます。

そのとき、それを正しい表現で伝えなければ意味がありません。ミスリードや誤解を招く表現は、途端に不正確な情報となって一人歩きしてしまいます。

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加えて、プラスアルファをつけた情報は、過ちの伝言ゲームとなって責任者不在のデマへと発展する場合も。

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SNSには、過度に感情的な表現や、わざとミスリードを誘う表現が多々あります。また、本人は正しく記述したつもりでも、表現力の欠如によって、正しく記述できず誤解を生んでしまう場合も。

バグ③ 人間は、見たいものだけを見てしまう。

TwitterやFacebookでは、独自のコミュニティが発達しています。「○○クラスタ」なんて呼び方もします。今回のコロナ禍では、そのコミュニティの存在が大きく影響を与えました。

下の写真は、とあるFacebookページのディスカッションの様子です。この人たちは、「マスコミが生み出したデマウイルス」だとする自分の意見を強く信じています。

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正体の分からないコロナについて、特定のコミュニティでは「コロナはただの風邪」「超監視社会に向けた布石だ」などと盛り上がっていました。

狭いコミュニティで得た情報が、自分の信念を強化してしまう。こうした現象を、エコーチェンバーといいます。

似たもの同士がつながる閉じたネット環境で、同じ立場の意見をかわしあううちに強化され、「自分たちが正しく、多数派だ」と勘違いすることを指します。このエコーチェンバー現象はとてつもなく怖いもので、現代ネット社会では大きな問題となっています。
この現象によって、普通の人がひどく偏った情報を狂信的に信じて、他人から見たら信じられないような行動をとってしまったりします。
エコーチェンバー現象の恐ろしさ

傍から見ると、なんじゃそりゃ…と思うことが、中にいる人たちにとっては大真面目だったりします。それが怖いところ。

バグ④ 人間は、すぐ極論に走る。

コロナ禍では、超楽観論も超悲観論も多く見られました。でも、世の中にある問題は、白黒はっきりしないものがほとんどです。問題が問題であり続けているのは、とても複雑で解決が難しいからです。

まったく正体がつかめないコロナは、たくさんの人にストレスを与えました。人に会えない寂しさ。ウイルスへの見えない恐怖。経済への不安。見通しが立たないもどかしさ。

こうしたストレスによって、過度に悲観したり、過度に軽視したりする人は少なくありません。

そうした心理状態が、過度な極論へと走らせてしまうのでしょうか。

バグ⑤ 人間は、すぐ正解を求めてしまう。

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専門家解説 新型コロナ対策、イソジンなどのうがい薬に飛びつくべきでないのはなぜ?

現代は「VUCA時代」だと言われます。ざっくり言うと、誰も答えを持っていない、不透明な状況だということです。

VUCAとは、社会やビジネスにおいて将来の予測が困難になっている状態を示す造語です。予測が困難な要因として4つの時代の特性をあげ、頭文字を取って作られました。
V:Volatility(変動性)
U:Uncertainty(不確実性)
C:Complexity(複雑性)
A:Ambiguity(曖昧性)
https://hrnote.jp/contents/editorial-vuca-20200226/

新型コロナも、まさに不透明でよく正体が分からない存在です。だからこそ、より不安を掻き立てられてしまいます。

正解なんてないのに、「イソジンがいいぞ!」と誰かが言うと、ガーッと飛びついてしまう。これは集団心理のバグです。

バグ⑥ デマを見分ける自信と、実際の能力は一致しない。

フェイクニュースを見分ける自信がある人のほうが拡散に加担してしまう、というデータがあります。

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日本におけるフェイクニュースの実態等に関する調査研究ユーザのフェイクニュースに対する意識調査

つまり、その人が「これは正しい」「真偽を見分けられた」と思っても、その自信はまったくアテにならないということです。私たち人間の自己評価は頼りになりません。

よく「真偽が怪しいものを拡散しないように」と言いますが、このデータを見る限り、そもそも怪しいと判断する前に決着がついているのです。

バグ⑦ 人間は、誤った結論を導いてしまう。

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コロナ流行と5Gを結びつける例が世界的に続出しました。当然、一切関係がないことです。意外なことに、信じる人がそこそこいます。

奇妙なことに、こうした陰謀論の多くは「真実」から生まれます。小さな「真実」の先に、誤った結論を導いてしまう。因果を見出しすぎるのが人間の性なのでしょうか。

陰謀論は、不透明であいまいな状況や、知識不足ゆえの不安を、憶測や推測で満たしてくれる都合のいいツール。

中途半端に真実を含んでいるからこそ、陰謀論を支持する人は絶えず、陰謀論への信頼を強固にしてしまうのです。

バグ⑧ 能動的に収集した情報を鵜呑みにしてしまう。

新聞・テレビのようなプッシュ型の情報を疑うくせに、ちょっとでも能動的に収集した情報をすぐ鵜呑みにしてしまいます。例えば、ググったり、SNSで得たりした情報を過大評価してしまう。

近い概念に、イケア効果(自分が作ったものや関与したプロジェクトに対して、その価値を過大評価する心理効果のこと)があります。

そもそも、能動的に情報収集して真偽判別し、重要性を判断するなんて、大半の人にとっては難易度が高すぎる行為です。

はっきり言って、それならNHKや厚生労働省のサイトを見るほうがはるかにマシ。

バグだらけの人間を"信用しない"ことからはじめよう

このように、人間のインプットとアウトプットはバグだらけ。

「デマを投稿しないよう心がけよう」や「デマを見抜くスキルを身につけましょう」とよく言いますが、明らかに限界があります。だって、その人間そのものがアテにならないのだから。

デマ投稿や拡散を踏みとどまれる人は、客観的かつ中立的に置かれた状況を判断できる人です。各人が真偽を見極めようなんて、多くの人間たちには高等すぎるスキルなのです。

だから、「愚かな人間社会は、これからもデマに翻弄される」。断言してもいいくらいです。

それでも「武装」したい人は

デマに翻弄されないためには、まず認知的余裕を確保しなければなりません。なぜなら、デマを流さぬよう心がけるときには、自分が置かれている状況を客観的に理解する余裕が必要だからです。

デマ対策にはリテラシー教育が必要とよく言うけれど、それよりもまず、認知的な耐久力が必要なのでは…と思ったりします。

【コロナで重視したい 認知的耐久力】
・すぐに結論付けず、自分の視野にないものを点検する力。
・何かと何かをすぐに結び付けず、簡単に断定しない力。
・誰かと意見が対立したとき、自分の意見を見直す力。
・誰かと同調したとき、違う意見を持っている人がいるかもしれないと想像する力。
・自分にとって都合の悪いことから、逃げずに向き合う力。
・自分に強くバイアスが働くものを、客観的に処理する力。

非常に想像力を伴うスキルなので、全員に求めるのは酷だと思います。でも、インフォデミック下を生き抜くときにはとても役立つと思います。

(参考)過去に書いたnote


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