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エコーチェンバー現象の恐ろしさ

ネットでみられるエコーチェンバー(共鳴室)現象というのをご存知でしょうか?

似たもの同士がつながる閉じたネット環境で、同じ立場の意見をかわしあううちに強化され、「自分たちが正しく、多数派だ」と勘違いすることを指します。このエコーチェンバー現象はとてつもなく怖いもので、現代ネット社会では大きな問題となっています。

この現象によって、普通の人がひどく偏った情報を狂信的に信じて、他人から見たら信じられないような行動をとってしまったりします。

例えば、がん患者さんでも抗がん剤(がんに対する薬剤)に関して不正確な情報を強く信じてしまう人がいます。「アメリカでは抗がん剤は使われていない」「WHOは抗がん剤を禁止している」「効かない抗がん剤を使っているのは日本政府や製薬会社の陰謀だ」のような明らかなデマを頑なに信じて、がん治療をやめてしまい、食事療法のみでがんを治そうとしてしまったりします。

なぜ、このような明らかなデマを信じてしまい、命を失いかねない危険な行動をとってしまうのでしょうか?これには多くの問題が複雑に絡んでいますが、この重要な原因の一つがエコーチェンバー現象です。

人は周囲の人に判断を求める

人は何かの情報が入ってきたときに、それが真実かどうかを自分だけで判断できない場合には、周囲にいる人がそれを信じるているかどうかをみて、真実かの判断を下したりします。

さきほどの情報のようなものを手にすると、周囲の家族・親戚・同僚・友人などに聞いてみて、もしも周りの多くの人が「そんなのありえないよ。ひどい嘘だろ」といわれると、これは嘘なのかと信じません。

しかし、現代のネット社会では、人と人との繋がりがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でできるようになって、この相談相手は周囲の現実社会の人ではなくなっています。その情報をSNSで繋がる人が、どう思っているのかをみて、真実かどうかを判断するようになってきました。

ここで怖いのがSNSやネットでの繋がりです。この繋がりというのは自然な現実社会の意見を反映していないからです。

閉鎖的コミュニティーの怖さ

ネットには同じ趣向の人を繋げようとする仕組みが存在します。例えば、Youtubeで何かの動画を見ると、その関連動画をどんどん勧めてきます。FacebookなどのSNSでは、何かに「いいね」すると、それを「いいね」する人たちが好む書き込みやコミュニティーを勧められたりします。つまり、どんどん一つの偏った方向に誘導されていきます。

また、Facebookなどの閉鎖的コミュニティーの存在も大きいです。実社会ではなかなか集まれないような極端な意見を持つ人々が、簡単に集うことが可能となりました。

このようなSNSの仕組みによって、その人は何の意図をしていなくても、気がつけばとても偏った意見を持つ人に囲まれて、毎日毎日、極端な意見をみさせられてしまいます

そうすると最終的に、普通の人にはかなりおかしな情報でも、当たり前の真実だと信じこんでしまいます。さらには、それを否定する人々が事実をねじ曲げようとする悪い人にさえ見えてきます。

一度偏った方向にいくと、修正される機会は得難いです。閉鎖的コミュニティーでは、「そんなのはありえない嘘だ」という人が出てきても、それを狂信的に信じている人の集団ですので、その人を袋叩きにして、結局コミュニティーからはじき出してしまいます。なかなか修正される機会は得られず、どんどん極端になっていきます。

スマホだけで過激派になる時代

極端な思想を持つ人はどの時代でもいたわけですが、そんなに数が多いことはありませんでした。なぜなら、エコーチェンバー現象に置かれるような環境に入ることが多くありませんでした。実社会の関係がメインである時代に、狂信的になるには過激派のアジトに入って、同じ思想の人と共同生活するなどまでしないと、簡単にはならなかったからです。

しかし、現代のネット社会では違います。電車で毎日スマホをみているだけで、いなかの机の上でパソコンを何気なく見ているだけで、とても偏った意見を持つ集団の中にどっぷりと入ってしまう時代になったのです。

これは医療分野に限らず、政治、金融、経済、民族主義など、あらゆる分野で大きな問題を引き起こしています。医療分野ではワクチン・がん・アトピーなど多くの病気の分野で、問題となっています。偽情報を強く信じてしまい、健康被害を受ける人が世界的に増加しています。

医療世界はその恐怖を認識し始めています。WHOは「世界の健康に対する脅威」トップ10の一つに、『ワクチン忌避』を選びました。これも偽情報を信じる人の爆発的増加が背景にあります。

どう対策すれば良いのか?

残念ながら、人類はこの問題への明確な対策をまだ見つけられていません。ネット大手の中には少しずつ対策に乗り出して、あまりに事実に基づかない意見を広げる集団のページを閉鎖することや、反対する意見を混ぜて表示するなどの対策を行いつつあります。しかし、あまりに急拡大する情報のなかで対策は遅れています。特に、英語ではない言語圏では対策遅れが目立っていて、日本語圏への対応はひどく遅れています。

現時点で我々個人ができることは何なのでしょうか?あくまで私の個人的な意見ですが、「そんな実態があることを知って、エコーチェンバー現象にはまっているのではと、客観的に自分で自分をかえりみる」ことが大事かと思っています。

疑うキーワードは「陰謀」

自分がはまっているのではと疑うために大事なキーワードが「陰謀論」だと思っています。極端な意見がやりとりされるところで、頻繁に出てくるのがこの論法です。

極端な意見の特徴は客観的なデータ不足です。出てくるデータがとても個人の感想レベルのものだったり、とても古いデータだったりします。要は強い裏付けデータがありません。そのデータ不足を補間して説得するために多用されるのが陰謀論です。

「データがないのは陰謀だ。彼らは隠している」というと、データ不足が陰謀のせいになって、データ不要になるからです。データがなければないほど陰謀に真実味があるようにも見えます。

陰謀論を少しでも言っている人だから、嘘をついていると必ず言えるわけではありませんが、極端な情報がでるところには本当によく出る論法ですので、一つの注意ワードとして認識してもらいたいと思います。

もし自分が強く信じるコミュニティーが陰謀論を頻繁に持ち出すようでしたら、一度距離をおいて、自分はエコーチェンバー現象にはまっているのではと疑い、自分が反対意見と思っているものに目を通してもらいたいです。

そんな人へのやさしい言葉を置きたい

私はがんの情報発信をしています。私がここで、そんな怪しい情報にハマってしまった人たちへのメッセージを届けたいと思っています。

がんは治療せずに食事で治せると思っていた方が、自分は間違っていたのではと疑えた時に、私のブログにたどり着いてくれたなら、考え直すきっかけになるような情報を用意しておきたいと思っています。

その情報は「そんな情報を信じる人はバカだ」とかではなくて、「人は間違えることがある。今からでも遅くないから、あなたや家族のために治療を受けて欲しい」とやさしく問いかける情報でありたいと思っています。

もしかして、私はがんについて、エコーチェンバー現象にはまっていたかもと思った方は、ぜひ私のブログやこのnoteの情報をみて、考えていただければと願っています。

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アメリカ在住のがん研究者。ひどい医療情報が広がる世の中で、どうしたら患者さんを救えるのかと考えています。