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陰謀論は「小さな真実」から始まる。

コロナは「ただの風邪」?

SNSを見ていると、たくさんの陰謀論が拡散されています。「コロナはただの風邪」「メディアが作り出した幻想」。皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

こうした陰謀論は、一定の人気を獲得しているようです。例えば、こうしたツイート。1000以上のいいねが付いています。

他にも、「厚生労働省はコロナを風邪の一種と発表しているのにマスコミは取り上げない。報道に騙されるな」といった投稿もよく見かけます。

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こうした言説を一切信じていない人からすると、正直「うわっ、近寄らないでおこう」と避ける人も多いのではないでしょうか。こんなものを信じる人はおかしい、バカげている、と。

ただ、そうした姿勢は、最終的に分断を生むことになってしまいます。

そして誰も手当てせずに野放しにしてしまうと、陰謀論者同士が結託してアクションを起こすことに繋がってしまう。先日のクラスターフェスをはじめ、欧米でも反自粛運動が見られました。

彼らはなぜ陰謀論を信じるのでしょうか。そして、彼らとどう接するべきでしょうか。

陰謀論は「小さな真実」から始まる

「こんな陰謀論、一体誰が信じるんだ?」と思う人も多いかも知れません。

実は、陰謀論のすべてが間違えているわけではないのです。陰謀論には、少なからず事実に即した一面があります。

例えば、厚労省サイトに掲載されている資料を見てみましょう。

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資料には確かに「(新型コロナウイルス感染症は)ウイルス性の風邪の一種です。」と書かれています(2020年8月17日現在)。

これを見た人たちが、「コロナは風邪の一種と厚生労働省も言っている」「テレビの洗脳から解放され、普通の生活に戻しましょう」などと投稿しています。

これらは正しいのでしょうか。

まず「コロナウイルス」とは、風邪などを引き起こす一群のウイルスです。そして近年、重篤な感染症を起こす新型のコロナウイルスが出現しました。その1つがSARSコロナウイルスであり、2つ目がMERSコロナウイルスです。

今回の新型コロナウイルスは「SARSコロナウイルス2(SARS-CoV2)」と呼ばれ、いずれもコロナウイルスの仲間です。

つまり「新型コロナウイルスはコロナウイルスの仲間」「コロナウイルスは風邪をもたらすウイルス」「それが厚労省のサイトにも書いてある」はいずれも正しいのです。

ただ、それが飛躍して「新型コロナはただの風邪」「テレビでは厚労省サイトの情報を報じない」「不安ばかり煽って騒動をわざと作っている」などと結論づけてしまう。つまり、結論を導くプロセスに致命的な誤りがあるのです。

「小さな真実」の先に、一気に飛躍して誤った真実を見出してしまう。そして、陰謀論が内包する「小さな真実」が陰謀論への信頼を強固にする

これが陰謀論の特徴です。

(アメリカの歴史学者リチャード・ホフスタッターによれば)一握りの真実がどこかのタイミングで否定できないものから信じられないものに飛躍してしまう。
陰謀論と新型コロナウイルス、言い争わないように話すには?

文章を都合よく解釈したり、論理を歪曲して認知してしまう人がたくさんいます。このように、事実誤認や自説に都合のいい証拠で構成することをチェリー・ピッキングと呼びます。

なぜ陰謀論を信じてしまうのか

人が陰謀論を信じてしまう背景には、満たされない精神状態による可能性が示唆されています。

彼は、陰謀論が社会的排除に対する「完璧な解毒剤」として機能していると看破している。

「特別な情報にアクセスできている自分たちは特別な存在」と信じることによって傷ついた自尊感情を救済するのである。
https://toyokeizai.net/articles/-/368770

新型コロナによって、経済的ダメージを受けた人も多いでしょう。鬱憤が溜まっている人も多いはず。その負の気持ちを発散する手段が、その人にとっては陰謀論を唱えることなのかもしれません

こうした偏見に最も影響を受けやすいのは、最も情報に注意している人たちだ。

結局のところ、私たちは事実に照らして正確でいたいのではなく、私たちは楽になりたい、安心したいのだ。
陰謀論――なぜこれほど大勢が信じるのか(BBC)

特にこのコロナ禍では、たくさんの人がストレスを抱えている様子が容易に想像できます。

漠然とした不安、恐怖、満たされない気持ち。それが陰謀論に走ってしまう原因だとしたら。受け入れたくない現実を肯定する手段だとしたら。

こう考えると、彼らへの接し方が変わってきます。

陰謀論を語る人との具体的な接し方

SNSを見ると、真っ向から否定してしまう人が多いようです。しかし、それでは相手の気持ちを逆撫でするだけで、何も解決できません。

相手の気持ちをうまく汲み取り、柔らかく解決すべく対話してみましょう。

①正面から否定せず、対話すること。
②なるべく中立的で正確なデータを提示すること。
③考えを深堀りし、不安のタネを抽出すること。

彼らを「諦めてはいけない」。

BBCの記事では、「陰謀論は単なるインターネットの馬鹿げた側面ではない。重要な公衆衛生のメッセージに損害を与えるリスクもある」と説明しています。

誰も傷つかない流言ならまだしも、新型コロナに関する誤った情報は、デマやフェイクとなって公衆衛生に悪影響を与えることに繋がります。

だからこそ「コイツは頭おかしい、触れないでおこう…」と目を背けてはいけません。回り回ってデマやフェイクの温床になってしまうからです。

もし、あなたや周りの人が陰謀論にとらわれていたら、まず会話を始めてみてください。不正確な情報が命取りになる時期だからこそ、みんなで考えたいテーマです。

(補足)デマや陰謀論から身を守るための基本姿勢

なるべく断定しない、決めつけない。
・最新の情報を知りましょう。
1ヶ月もすれば状況は変わります。
安易な超楽観論や超悲観論に飛びつかない。
誰か特定個人を盲信しない
たまにはコロナ以外のことも考えましょう(←超大事)

(補足)デマや陰謀論を広めないための基本姿勢

SNS上のオープンな場で会話をするときは、不正確な情報を含まないよう気をつけましょう。リプライも立派な「投稿」です。
・同じ思想の人だけで話さない
ようにしましょう。
SNSに投稿するときは、確実なこと以外は断言しないようにしましょう。
・根拠があるかどうか、しっかり見極めましょう。
無意識に決めつけてかかっていないか点検してみましょう。
不正確な情報が根拠に基づく場合、拡散に加担しないようにしましょう。
・興味本位、冗談のつもりで投稿しているのであればやめましょう。

(参考)情報デザインで正しい情報を広く広めるための取り組み


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