仕事で動いているから運動はしなくてもいい?
体を動かすことは健康を維持するために大切であることは周知の事実であると思います。
ただ、みなさんは周りの人から運動を勧められたとき、以下のように考えたことはありませんでしょうか?
これは、運動指導をしているとよく聞く、運動を行わない理由なのですが、これには大きな勘違いが含まれています。
今回は、”仕事で体を動かすこと”と”運動として体を動かすこと”の特性の違いについて、1つの論文をもとに考えていきたいと思います!
はじめに
身体活動量を増やすことは筋力や体力の維持には大切であり、将来的には生活習慣病の予防にもつながることが明らかとなっています。
しかし、余暇における身体活動(運動として行う身体活動)と職業上の身体活動に分けて考えてみると、双方には違った特性があることが報告されており、職業上の身体活動に関しては、健康増進に関連する一貫された見解が得られていません。
近年では、就労活動における高い身体活動量は生命予後を悪化させるとの報告が出ており、これを”Physical activity paradox”と呼ぶようです。
Physical activity:身体活動量
paradox :一見正しそうに思える理論のなかで明らかに成立しない
条件を見つけたり、受け入れがたい結論になったりする状態
以下に、Physical activity paradoxの存在を明らかとした論文について紹介を致します。
研究の紹介
タイトル:The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults
対象:コペンハーゲン在住の男女104046名
方法:選択式の質問により余暇活動・就労活動の双方における身体活動の強度を聴取し、ベースラインから10年間の追跡調査を実施
結果:余暇の身体活動が多い場合、心血管疾患の発症率と死亡リスクが低下した。一方で、職業上の身体活動が高い場合は、心血管疾患の発症リスクおよび死亡リスクの増大が確認された。この結果は、基礎疾患、経済階級、ライフスタイルなど交絡因子を調整しても変わらなかった。
研究の限界:①身体活動量に関する情報が自己申告によるものであるため、ある程度の誤差を考慮する必要がある、②研究参加率が43%、③仕事と余暇活動の異なる特徴までは明らかにできていない、④高所得地域と低所得地域を含むコペンハーゲン地域でサンプルを集めたため、異なる地域特性を持つ国では適応できない可能性がある
個人的な驚き:座りがちな仕事のほうが、活動量が高い仕事よりも心血管疾患および死亡リスクが低い(就労中の机上作業は定期的な休憩や、会議、プリンターの使用などで席を立つことが多いため、余暇における座位時間とは異なる特徴を持つことが影響している?)
以上の結果より、本研究はphysical activity paradoxを支持する結果となり、”仕事で体を動かしているから運動はしなくてもよい”とはいえないことが明らかとなりました。また、仕事における身体活動が健康に対して悪影響を及ぼした要因に関して筆者は、先行研究の踏まえて以下を挙げています
①有酸素運動として十分な強度を持たない活動が長く続く
②十分な休息時間が得られない
③24時間の血圧・心拍数上昇
④静的で活動に制限がある
やはり、健康増進を目的とした運動には適度な負荷と休息が必要なのですね。
まとめ
最後にまとめです!
運動をしなくても、仕事で体を動かしているから健康維持はできる?
この問いに対しての答えは以下になります。
健康を維持する上で重要な身体活動の条件は
①十分な強度で一定の時間持続できる
②休息を挟みながら行うことができる
③心理的ストレスがない状況下で行うことができる
この条件を満たした身体活動量が就労内容に含まれているのであれば、その仕事は、健康維持に有効であると考えられます!
ただ、そんな都合の良い仕事はなかなかないので、やっぱり運動は運動としてしっかり時間を取って行うことが大切だと思います!
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
参考文献
Holtermann A, Schnohr P, Nordestgaard BG, et al. The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults. European Heart Journal 2021, 42: 1499–1511
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