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奈良クラブを100倍楽しむ方法#028 第28節対長野パルセイロ ”がんばれ兄ちゃん"

情熱と期待を胸に船出した、中田一三監督率いる新生奈良クラブ。変わったもの、変わらないもの。僕も含めて見ている人にはさまざまな感情があるはずだが、大事な大事な2戦目だ。前節は準備期間の短さもあったが、なにより新監督の初陣ということで奈良クラブには「なにをしてくるのかわからない」というアドバンテージがあった。今節はある程度の手の内を明かした状態での一戦となる。奈良クラブを見る側にとっても、前節と比べて何がどう変わり、何をしようとしているのかを確認する意味でも重要な試合だ。中田監督の手腕、やりたいと考えていることを把握する必要がある。

相手は長野パルセイロ。今期は第二節でホームで奈良と激突。1点を先行した奈良が逃げ切ったかにみえた後半のアディショナルタイムに同点打を献上した。思えばあのあたりから、今期の苦しみは始まっている。中田新監督にとっても2試合目での対戦。なにか因縁めいたものを感じてしまう。長野も順風満帆というシーズンを過ごしているというわけでない。しかしながら、絶対に諦めないという姿勢はどの試合でも見せているのが長野だ。相手がどこであろうが、とにかく勝ち点をもぎ取りに来るだろう。タフな試合になることは十分予想できた。


注目のスターティングメンバー

注目の先発メンバーはこのようになった。飯田選手が初先発。めでたいことだ。ただし、これだけでは今日の布陣ははっきりとわからなかった。表記だけでいくと4−3−1−2のような感じもするが、中盤の並びはどのようになるのか。変な詮索はなしに、試合開始を待つことにした。
試合開始の直後に布陣は判明。堀内を左のセンターバックに起用する3−4−2−1。形は前節と変わらず。ただ、堀内のセンターバックの起用というのは、積極的な理由だったかどうかは怪しい。おそらくセンターバックの三名は、前節の澤田、伊勢、鈴木がファーストチョイスになると思われる。澤田は前節の試合後に腰を気にしながら戻っていったので、もしかしたら怪我をしているのかもしれない。伊勢も同様に何らかのアクシデントがあったとも考えられる。生駒選手はもともとがセンターバックだからわかるとして、もう一枚を堀内にしたのは、できるのが彼だけだったからではないだろうか。
おそらく、監督の意図として、移籍してきた飯田選手をどこかで使いたいという思いはずっとあった。そのなかで、怪我人やコンディションの部分で飯田を使うチャンスが回ってきた。下川は両サイドできるので下川を右に回して、飯田を起用。出場停止明けのフレッシュな中島を使うとなると、必然的にこのような選手起用に落ち着いたように思う。なので、堀内のセンターバックはあくまでも臨時だろう。前節の堀内の活躍は目覚ましく、「一家に一台」どころの活躍ではなかった。また、のちにも述べるが、中田体制の奈良には「前線の数が足りない問題」というのを常にはらんでいるのだが、それを解決するためには堀内がもっと前に出てくることが重要になる。澤田や伊勢、そして小谷の早い復帰が待たれる。

安定するチーム、岡田の決定力

試合開始のときは奈良クラブの布陣に目が入ったが、確認が終わると別のところに気づきがあった。芝生がボコボコなのだ。特に中央付近の損傷が激しい。ここを経由するボールがイレギュラーなバウンドになり、選手たちはどちらもやりにくそうな素ぶりが見られた。
こうなると、奈良クラブは綺麗にパスを繋ぐという展開は諦めて、松本選手へのロングボールからの打開を目指す方が安全だ。が、長野もそうはさせじとディフェンスライン、特に鈴木へのプレッシャーをかなり厳しくすることで対応。「横には蹴らせても前には蹴らせないぞ」という明確な意思表示のあるディフェンスを見せる。奈良クラブはなかなか松本にボールを届けることができない。
どちらかというと長野ペースで試合は進むが、長野のチャンスシーンでも奈良クラブは非常に落ち着いて対応することができていた。ディフェンスラインの枚数が多くなったことと、非保持の時のラインの高さもそこまで無理をしてあげているわけではないので、相手がボールを持っていても常に奈良クラブのディフェンスは前向きに構えることができている。前節の記事でも述べた通り、裏のスペースを通されて、ディフェンスがスライドする間に入り込まれるという心配はほぼなかった。相手選手を確実に捕まえて、フリーを作らせず、無理をしたところを確実に奪い取る。奪ったボールは横方向のパスで逃がせるのでキープにも入りやすい。先制すれば負けることはないだろう、という感じの印象で前半は進む。
飲水タイムが終わったあたりから、逆に奈良クラブにもボールが持てる時間が生まれ始める。そして待望の先制点。決めたのは(我らが)岡田優希だ。中田体制になり、松本の周りで動き回る岡田選手。右サイドで前向きで松本選手からのレイオフを受け取るとドリブル開始。前へ前へという意志の強いドリブルは一旦相手に取られたかと思われたが、再び岡田選手の前へ。キーパーとの1対1も冷静に制してゴールへと流し込んだ。
このシーンでもわかるのだが、どうあっても岡田優希選手は相手にとって脅威だ。岡田がドリブルを開始すると3人、4人と彼に引きつけられる。加えて松本選手も入ってくれば、相手ディフェンスがこの二人に釘付けになるのは不可避だ。この試合でもそうだし、前節でも國武選手がフリーになる機会が多かったのは、彼らが相当ディフェンスを引きつけているからだ。特に、中田体制からの岡田はどこにでも現れる。古典的なウィングとしての岡田選手の活躍が大好きだったのだが、これはこれで彼の魅力が出ているのではないだろうか。得点が増えれば尚のこと良い。
また、これは本当にどうでもいい情報なのだが、ゴール後大の字に寝転がって喜びを表現する岡田に松本、そして國武が折り重なっていくのだが、國武が来たところで岡田が重そうなそぶりをする。松本が乗ってきた時点でかなり重いはずなのだが、そこへ國武。「え、國武も乗ってくるの?」というリアクションに構わず乗っかる國武。きっと重たかったはずだ。それもかなり。松本だけでもまあまあ重たいだろう。そのあと二人にヒョイと起こしてもらってベンチに向かって決めポーズ。ずっと待っていたが、こういうのが見たかったんだ。
ここから立て続けに奈良クラブにチャンスが到来。相手ボールを奪い取ってからカウンターの形からチャンスを作る。ボールも奈良クラブがコントロールし、奈良クラブのペースで前半が終了。期待の持てる展開で試合は後半に突入する。

意地のぶつかり合う後半

後半開始早々、長野が同点打。右サイドからチャンスを作られてシュートを打たれるが、これは堀内が跳ね返す。ただしクリアが小さい。ボールが流れて左サイドからの攻撃は「狙い通り」ではないにしても、小西の足元へ。ここで彼へのチェイスがほんの少しだけ遅れる。堀内は詰めに行くが、その堀内の股の下を潜ってボールはゴールへと吸い込まれた。
実況も言っているとおり、奈良クラブのディフェンスは数は揃っていた。センターバックの3人はゾーンディフェンスということで、「人」ではなく「場所」を守ることが決まりになっている。ので、こういうごちゃっとしたシーンで対応が遅れてしまうことがある。本職のディフェンダーならこういうときはルールを破ってでも危ないところに飛び込んでいく嗅覚で守れてしまうが、堀内は本職ではない。それでもあそこにすぐに飛び込んでいくのはさすが。飛んだコースは不運だった。ああいうところからボールが飛んでくるとキーパーからは全く見えないので反応することは難しい。どちらかというと、長野の選手の気持ちで捩じ込んだという方が正しいように思う。やはり、このチームの諦めの悪さは讃えなくてはならない。奈良クラブは、この試合でそれを超える執念を見せなければならない。
ここから奈良クラブの反撃。岡田が積極的にシュートを放ち、國武はキーパーとの1対1の場面を作るが決められない。特に國武はとても悔しいだろう。前節も2度決定機があり、「あれが決まっていれば」という流れだった。今節も試合を決める場面で決めきれなかった。ただし、フリアンのときとは違い、彼のところに前向きでボールが入ってくるシーンが多くなっている。一度ゴールを決めてしまえば、もっとリラックスしてシュートを流し込むことができるはずだ。彼のところは必ずチャンスになるように全体が動いているので、めげずにシュートを打ち続けてほしい。彼に関しては、打たずにパスで逃げるより、打って外したほうが彼の成長につながるように思っている。この辺りは試合の中で磨いていくしかないだろう。
ここからはお互いに攻撃的な選手を投入し、勝利へ向けてのぶつかり合いとなるが、どちらも決め手を欠いてドロー。中田新体制、初勝利はお預けとなった。

見えてきた中田体制の奈良クラブ

前節のカターレ富山戦が「負けなかった」という引き分けなら、今節は「勝てなかった」という引き分けだろう。前節よりもより勝利に近づいた感触があっただけに、悔しい引き分けだ。それでも、僕はこの感触こそが前向きなものだと思っている。前節は「とにかく負けたくない」という気持ちだけだった。内容や展開はどうでも良く、とにかく「負けない」ことが最優先だった。いわゆる「勝ち筋」、こうしたら勝てるかもというゲームプランは全く描けなかった。今節は「勝ちたい」という気持ちが強かったし、勝つためのゲームプランもある程度は見えた。選手たちもそこに向かってプレーしているように見えた。2試合でこの変化はとてつもなく大きいものだと思う。ただし、内容が良くなっても結果が伴わないと、また疑心暗鬼がむくむくと大きくなる。次なる相手はテゲバジャーロ宮崎。絶対に負けてはいけない相手だ。彼らも全力で奈良クラブにぶつかってくるだろう。相手にとって不足なし。こうなれば毎試合が決勝戦だ。1試合も落とすことができないが、ここで新監督になったことで起きた変化をここでもう一度整理しておこうとおもう。

①ディフェンスの安定
これは誰が見てもわかる通り、ディフェンスが見違えるように安定した。もちろん、枚数を増やしたわけだが、今回のメンバーであっても3バックを採用していたので、基本は3バックと考えて良いだろう。
ラインもそこまで高くあげることはないので、裏を取られるシーンが激減している。常に前に人を見ておくことができているので、フリーで打たれるというシーンはほとんどない。役割がはっきりしたのだろう。また、奪った後も3バックの効果がある。3バックと2人のウィングバックが横方向にいるおかげで、奪ったボールを逆サイドに運ぶことが簡単になった。ボールを奪った時というのは、必ず相手も近くにいるので、保持しようとすると相手のいないところにボールを逃していかないといけないのだが、今の布陣だと、とりあえず隣へ隣へとボールを繋ぐだけで、ボールを逃すことができる。ベンチからの声でも「フリー!」「フリー!」と声が飛んでいるが、奪ってからトランジションで攻め返すだけでなく、キープのところでも安定感がでている。呼吸する間が生まれたのだ。
おそらく、この安定感が90分間戦える集中力の持続にもつながっていると思われる。前節、今節、両方ともゲームプランは破綻していないし、相手と互角以上にやりあえている。メンタルがしっかり保てているので、フィジカルがきつくてもなんとかなっているという様子も見える。試合終了後、勝てなかったことを心の底から悔しがる選手の姿がある。中断開けは「がっかり」という印象の選手が多かったが、今は「悔しい」に変わっている。試合中に見える情熱がはっきりしているのも、こうした配置によるメンタルの変化という部分も大いにあるだろう。
ちなみに、フットボールのディフェンスの仕方はさまざまにあるが、かなり大雑把に仕分けすると「人」を守るのか、「場所」を守るのか、「ボール」を守るのかの3パターンになる。フリアン体制では「ボール」を守る=奪うことを目的にしていたので、ボールの動きに対してポジションをかなり細かく修正することが必要だった。うまく回るとめちゃくちゃ効果的ではあるが、ボールや相手の場所から常に最適解のポジショニングが求められる方法でもあり、難易度は高い。今は「場所」になったので、ボールがどこにあっても、とりあえず自分の持ち場を守れば大丈夫ということになっている。役割が明確になった、と皆が口を揃えるのはこのあたりだ。細かい局面でこれらは切り替わるのだが、大原則が「場所」に変わっていることは確認できた。

②前線の流動性
松本、國武、岡田の3人は変幻自在にポジションを変えて攻撃を繰り出している。一応決まりはあるようで、松本はできるだけ真ん中、ゴールの幅を基準に動き、ボールと松本を結んだ線に上あたりに岡田や國武がいることが多い。松本と岡田が距離を縮めると、相手ディフェンスも4人から5人はこれに対応しようとするので、そこでできたスペースに國武が走り込む。チャンスの数は少ないが、フリアン体制から変わった攻撃の枚数が一枚少ないという部分を、相手により多い数で対応させることで、相手の攻撃を削るというのがこの関係性の意図だと思う。
その上で、攻撃の厚みを握るのは両ウィングバックとボランチだ。この試合で見ていて思ったが、やはり下川は左で使いたい。右でも抜群のテクニックがあり、何度か股抜きや抜群のプレーを見せていたが、攻撃に関しては左にいた方が相手は嫌だと思う。特にクロスだ。左右同じレベルでクロスが上げられるので、下川と対峙する相手ディフェンスは立ち位置が中途半端になることがある。松本という絶対的に空中戦が強いフォワードが前にいることから、相手にとってはクロスをあげられること自体がリスクになるが、下川には切れ込んでシュートという魅力もある。となると、やはり下川は左だろうか。飯田は奈良クラブ初陣ということもあり緊張もしたはずだが、そつなくこなしていたように思う。ただし、「これが自分のプレーだ」とい強烈な印象を残すまでには至っていない。ここから彼の持ち味がどれぐらい出せるかにかかっている。守備の安定感でいけば、下川は右の方が良い。
もう一つ、前線の枚数を補充する作戦はボランチの上がりなのだが、やはりこれを解決するには堀内の起用だと思う。堀内は360度どこからボールが来ても大丈夫な選手で、パスの出し手と受け手の両方ができる。中島や神垣はパスを出すことは上手いが、相手の間に入っていって受けるというシーンはあまり見られない。むしろ彼らがボールを受ける時はフィニッシュのシーンが多い。クライフも言っていたとおり、一流の選手はペナルティエリアの中からラストパスを出す。堀内はタイミングとテクニックで密集の中でもキープしてラストパスの出せる選手だ。今の陣形の一番最悪なパターンは「とりあえず松本に蹴っておけば良い」となることだ。これだと、そもそも奈良クラブとしての方針そのものが揺らいでしまう。ディフェンスラインで奪ったボールを逃し、堀内を経由して岡田や松本が関与している間に両サイドが上がる、そしてクロスや中央での崩しから、確実にゴールへと繋げるような攻撃になれば、フリアン時代に培ったテクニックの部分も生きてくるはずだ。本当はもう少し待ちたいところなのだが、なかなかそうも言ってられない勝ち点差なので、ここは早いところ形に仕上げてほしい。
あとは、前線3人はペナルティエリアの中からシュートを打ってほしい。例えば田村は後半にかなり惜しいシュートを打っていたが、ギリギリエリア外から打っている。岡田のシュートもそうだった。鈴木がミドルシュートを狙うのと、前線の選手がシュートは意味が違う。これからああいうシーンはもっと増えるはずで、その時シュートではなく、一歩ドリブルで踏み込んでからの方が得点への期待は高まると思う。おそらく、相手としては打ってもらったほうがありがたい。あの距離からだとそんなに入らないし、入るシュートは止めようがない。田村や岡田、嫁阪、西田といった奈良クラブのアタッカーたちはドリブルが持ち味だ。あそこから仕掛けてこられた方が相手は絶対にいやなので、チャレンジするところが見たい。前線の枚数が減った分は、チャンスの期待値で補うという方法もある。
また、今回はパトリックのセカンドトップのような起用があり、これはこれでおもしろかった。おそらくベンチ入りの部分で難しいかもしれないが、百田、松本、パトリックという並びにするのも面白いように思う。百田もセカンドトップの方が持ち味はより発揮できるはず。また、百田は守備もサボらずにしっかりとスライドできるので、後ろへの負担もそこまでないだろう。彼の得点感覚が残留に向けては一つの鍵になるはずなので、調子があがってくれば是非とも見てみたいと思う。

まとめると、奈良クラブのフットボールはバルセロナ型のポゼッション志向から、一旦アトレティコ・マドリーっぽいプレッシング&カウンター型に変更されたとまとめることができる。「今シーズンだけは」という但し書きをつけた上で、この変更は有効だと思う。以下の動画でアトレティコの守備戦術をまとめてくれているので、みてもらえたら「ああ、奈良クラブもこんなことやってるなあ」と感じるはずだ。


だれかに「がんばれ」と言えること

今節を見て、やはり奈良クラブは変わったのだなと思った。とはいえ、変わらない部分というのも確かにあり、奈良クラブが好きという気持ちに限って言えば全然変わらない。不器用でもかっこいい、「がんばれ兄ちゃん!」な奈良クラブだ。
ただし、今回は対戦相手の長野パルセイロについても言及したい。非常に負けん気の強い、泥臭くても諦めることを絶対にしないチームだった。奈良の時も最後まで戦いぬく姿勢があったし、この試合でも全く変わらなかった。特に試合後の長野パルセイロの監督の言葉にこの試合、そしてこれからの両チームの姿勢が集約されていた。

「我々は結果で評価されるものです。例えば、誰かがクリアミスをしてやられたとしても「あいつのクリアミスだ」ではなく、チームとしてクリアミスをしたわけです。そういう当事者意識を持っていくこと。決して同じ選手がミスを繰り返している訳ではなく、チームとして繰り返されてしまっている。もっと言えば、必死に一生懸命にやっている中でもそうなってしまっていることが、より問題を難しくさせてしまっているのかなと思います。」
(中略)
「みんながバラバラな方向を向かないことだと思います。恐らく選手一人ひとりは、自分の課題だったりいろんな考えはあると思います。そうしたものを、僕は顔を合わせて話したいです。なかなか全員を一人ひとり呼んでとはいかないかもしれません。でも然るべき時に一人ひとりと向き合っていきたいと思っています。」

髙木 理己監督(長野パルセイロ)
※試合後記者会見より抜粋

これだけしっかりと選手たちに向き合い、責任を引き受ける監督に率られているのが長野パルセイロだ。納得しかない。最後まで諦めるはずがない。素晴らしいスタジアムだし、素晴らしいサポーターたちの後押しがある。もしかしたら、「勝てなかった引き分け」と最初に書いたが、スタジアムにいたら別の感想を持ったかもしれない。やはり画面越しでは伝わらない何かがスタジアムにはある。
なにより、相手チームであっても、こんな人のもとでプレーしてみたいなあと思わせる言葉をもつ監督がいらっしゃるチームなのだ。最大限の敬意を払ってもあまりある。J3というカテゴリーは、選手や監督が近いが故に、彼らの人間味が伝わりやすい。「がんばれ兄ちゃん!」と、近い距離で励ますことができるし、それが醍醐味なのだ。

選手同士でもそうなのかもしれない。この試合、前半の早い時間に長野パルセイロ、進選手が負傷交代をした。負傷の仕方から言って、怪我の程度はかなり深刻なものだろうことはすぐにわかった。これに駆け寄っていくのが、奈良クラブの主将鈴木選手だった。進選手は怪我から復帰してようやくできた先発の機会。選手ならわかるはずで、進選手が今シーズンピッチにもう一度立つことはほぼ不可能だろう。鈴木はそんな進の胸に手を当て、なにか励ますようなことを伝えていた。進もそれには感極まったようで、鈴木選手に言葉を返す。その目に光るものがあった。こういうときに、「早くピッチから出ていけ」ではなくて、相手のことを思いやる姿がしっかりみられることの尊さだ。ここは敵も味方も関係なく、誰かに「がんばれ」と伝えられることがどれほど素晴らしいかを再確認させられた。進選手の怪我が少しでも軽傷であり、1日でも早く復帰できることを願っている。

J3だからというわけではないだろうが、このリーグを見ていると「下手したらファンになっちゃうよね」というチームに溢れている。サポーターの熱量もそうだし、選手たちの直向きさにはいつも脱帽される。「自分もがんばらなくては」と思わされるチームや選手がとても多い。トップリーグにはない別の豊かさがJ3の魅力なのではないかと思う。

この記事を書いてるなかで、宮﨑が琉球に勝利した。勝ち点では宮﨑が奈良クラブを上回ってことになる。もはや、ここからは気持ちの強さが最大の武器になる。さあ、泣いても笑ってもあと10試合。先にも記した通り、ここからは全てが決勝戦。J3生き残りをかけた宮崎との大一番は来週に迫っている。

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