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奈良クラブを100倍楽しむ方法#021 第22節対FC琉球 ”Movin' On Up"

 夏が来た。でも、来すぎた。暑すぎる。なんだこの熱波は。僕の車の温度計は41度を表示している。逃げ場のない暑さだ。奈良の夏は暑い。いや、熱い。連日のように熱中症アラートの通知がくる。そんな通知をされなくても、もとより外出することなど無理だ。この暑さの中どこかへ出かけようという気も起こらない。
 しかし、夜となると話は別だ。それでもまだ暑いが、少しだけマシになる。そして、夜と言えば奈良クラブの夜間練習が公開されている。練習場の奈良ディーアは山間部の中腹にあるのと、風が抜けるので少しだけ涼しい。ここで練習の様子を見るのが最近のルーティーンになりつつある。
 先週のFC岐阜戦でセンターバックに堀内を起用する新しい布陣を見せたフリアン監督率いる奈良クラブだが、今節の琉球戦に向けても入念な準備をしてきた。しかしより注目すべきは、内容よりもその練習の雰囲気だ。熱い。とにかく熱い。紅白戦では実戦さながらの接触もあり、むしろこちらがヒヤッとすることもあるのだが、それでもぶつかり合いを選手たちが辞めることはない。バチバチの練習風景に、この試合への意気込みや、このシーズンへの賭けるものが何も失われていないことを感じることができる。
 夜間練習が公開された当初もバチバチやっていたが、特に今週の練習は熱量がすごかった。もちろん笑顔も溢れるときがあるし、楽しそうにプレーはしているのだが、何かが違った。球際の激しさ、強度、勝利への欲求。そいういうものがワンランク上がったような印象だ。前が悪かったわけではないが、別のチームの練習のようだと言っても過言ではないくらいの違いを感じた。「これは琉球戦、すごいものが見れるんじゃないか」という大いなる期待を胸に、日曜日の夕方を迎えることになった。


琉球戦の展望

 FC琉球との対戦は開幕戦以来である。まだ寒さの残る開幕戦。昨シーズンの印象もあって「さて、開幕戦はいただいてスタートダッシュだ」と意気揚々とロートフィールに向かった僕が見たのは、昨シーズンとはまるで違う完全に整備された琉球の姿だった。後半の最後に奈良クラブは猛攻をしかけたが、そこまでは完全に琉球に嵌められていた。点差こそ一点だったが、内容としては完敗だった。
 そんな琉球を牽引してきたのはフォワードの白井だったが、J1の札幌に移籍。これはずっと見ている人からすると「そりゃそうだろう」という感想だったと思うが、チームとしてはかなり痛いものだったはずだ。なにより、彼を頂点にした前向きの守備とサイドアタックが今シーズンの琉球のスタイルだった。前向きの守備のトリガーの役割、そして最後のところを決め切る決定力、この戦術の最も重要な部分を担っていた選手が抜けた穴はそんなに簡単に埋められるものではない。白井がいない新しい形を模索しようと、今は迷いが出ている。
 前節の富山戦もそんな迷いが出た印象だった。この連載でも戦術について色々と書いているし、そういうnoteも多い。ただし、戦術そのものが勝因にはならない。重要なことは、どのような戦術を取るにしても、それが選手や監督として「この戦術で行こう」と信じ切らせるような、ワクワクさせるようなものであるかどうかだ。どんな素晴らしい戦術も、これがないと絶対に機能しないし、勝てない。そういうメンタリティは、試合の随所で見つけることができる。特に琉球の選手は、前節の富山戦で立て続けに失点した際、どこか「心ここにあらず」というような表情をしている選手が多かった。「あがいてはいるが、どうしていいかわからない」という印象を受けた人も多いのではないだろうか。これは監督やチームへの不信感ではない。むしろ、いろいろ考えて自分たちのためにしてくれていることがわかるからこそ、上手くいかないことが受け入れられない、ということなのだと思う。つい最近まで、奈良クラブも似たような事情だったので、このあたりはよくわかる。どんなチームも必ず陥るところなのだろう。
 琉球の迷いが一番出ているのはサイドだ。特に最近使っている4−4−2の最終ラインの4のサイドバックとセンターバックの間が妙に空いていて、ここを使われることが多い。理由は先の迷いと不安だろう。サイドから攻められた時4−4のブロックが必要以上に下がってしまい、相手に無抵抗に侵入を許してしまう。また、4−4−2というのはチーム全体で一つのブロックのように固まることで機能するのだが、選手同士の距離が少しだけ離れている。ここは4−4ー2を使うには致命的な弱点になりうる。おそらく、こうしたところから白井がいるときは3−4−2−1で、弱点を見せないように布陣しても得点することができたが、今はその得点ができない。富山戦でもこの4のブロックの両脇を徹底的にやられて失点していた。もちろん、奈良クラブも狙うならここだ。

センターバック堀内、再び

 奈良クラブのスターティングメンバーはFC岐阜戦と変更なし。3−4−3の変化系の4−3−3。センターバック堀内、再びである。チーム全体としてもあの試合運びに手応えがあったのだろう。
 この発表で「お!」となったのは控えの選手の充実だ。ゴールキーパー、センターバック、サイドバック、中盤の前後、フォワード、全てにかなり高いクオリティの選手が揃い、どのような試合展開になっても打開できるような面々が揃っている。先発もかなりクオリティが高いが、控えまでこれだけの厚み。ここにきて盤石の布陣が組めるようになってきた。
 2試合連続のセンターンバックを務める堀内の役割について補足しておく。これまでのアンカーポジションでは、例えば相手が4−4−2の場合、前線の2で堀内を挟みこむようにセットし、そこへボールを出させないようなはめ方をしているのをよく見た。こうなると堀内は、もしボールを受けてもワンタッチでセンターバックに返すだけで、有効なボールを出すことはできなかった。堀内が前向きにボールを持つためにた一度國武や百田に当てて、そのリターンを受ける必要があった。
 しかし、センターバックならボールをもらった時点ですでに前を向いている。パスコースをほとんど間違えない堀内を前にして、相手は選択を迫られる。堀内のところまでボールを追うべきか、自分のスペースに待つべきか。琉球は試合開始当初は堀内までプレスをかけようとしていたが、彼はそれをことごとくいなし、パスを散らし続けた。こうなると選手の心理として「堀内まで追うのは無駄だ」となる。するとチーム全体のラインが押し下げられる。前が上がらないと後ろも上げられない。全体的に後ろ重心になる琉球に対して、奈良クラブは鈴木、中島、堀内が3人でバックラインを形成し、サイドバックや神垣が前線まで不安なく上がることができるようになる。堀内の試合での振る舞いだけで、試合全体の趨勢を決めてしまうほど、この日の彼のプレーは冴え渡っていた。ハイライトでなく、試合全体を見返すと、どんどん堀内がフリーになっていくのが見えると思う。後半選手交代をして琉球は堀内へのプレスを再開するが、それはそれで対策してきたので、全く動揺することはなかった。

爆発する攻撃

 前述の通り、試合開始すぐは出足の良かった琉球だが、前述のセンターバック堀内への対応策が見つからないままにずるずると後退してしまう。その下がった分だけ奈良クラブのサイドが前に出る。特に岡田優希と下川の左サイドは今シーズンで一番の輝きを見せた。下川は中に外にポジションを変え、相手の的を絞らせない。岡田もタッチラインまで張って相手を間延びさせ、そのできたスペースに下川を引き出すとゴール前に位置どりゴールを狙う。左サイドの守備から琉球は常にずらされているので、選手はいるのだが全く守れていない状態になる。ちなみにこれは開幕戦と完全に逆パターンである。
 先制点も左サイドからだ。「プレスに来ないのなら前に出ますよー」と堀内が前進。これで中盤が一枚多いのと同い状態になるのだが、琉球は誰が彼に対応するのかが決められない。左サイドバックは岡田を見ている、ミッドフィルダーは下川をみている。誰も堀内のチェックにいくことができない。かなり遅れてフォワードがアリバイのようにプレスをかけるが遅い。ミッドフィルダーが堀内の方を向いて下川が死角に入ったタイミングで、狙い澄ましたスルーパスが下川へと通る。実際にはここで勝負ありだ。サイドバックが慌てて下川に寄せるがこれも遅れている。ほぼフリーで下川はクロス。ニアの岡田優希に合わせてゴール。奈良クラブ先制!結果的に岡田が決めたが、その後ろのパトリックも、なんなら田村もフリーだ。下川に出た時点で勝負は決まっているというのは、そういう意味だ。完全に崩し切ってのゴールに、あの練習のときの「何かが違う」という感覚が蘇る。そう、これこそ奈良クラブらしさじゃないか。
 フットボールにおける攻撃や守備というのは、野球とは全く違う。野球は攻守が完全に入れ替わっているので「攻めるとき」「守るとき」が完全に別だが、フットボールに置いては流れでそれが入れ替わる。さらに最近では自分たちでボールを持っていなくても攻めることができる「ストーミング」という高強度のプレス戦術も編み出された。昔よりも、今見ている状態が良いのか悪いのかを判断するのが難しくなっているのは否めない。ボール保持率=勝率とは言えないのが現代フットボールだ。どちらかというと、そうやって体力勝負になりつつある現代フットボールにおいて、奈良クラブは逆行した戦術を採用した。ボール保持率を高め、相手を圧倒し、たくさんゴールを奪って勝つフットボールだ。うまく行くこともあるが、いかないこともある。彼らのしようとしていることを「現実的でない」とみなすか、「ロマンチシズムだ」と賞賛するかで、奈良クラブの好き嫌いはほぼ決まると言っていい。ちなみに、これは好き嫌いの問題であって、良い悪いの問題ではない。ちなみに僕の答えは「大好き」の一択だ。

ロマンチシズムの体現者、岡田優希

 そんなロマンチシズムの表出の一つがセンターバックに堀内を起用するという布陣なのだが、もう一人いるのが左ウイングの岡田優希選手だ。フリアンは彼の獲得を熱望したと聞いているのだが、確かによく分かる。岡田優希という選手は、極めて特定の限られた戦術の中でしか彼の良さが発揮されないが、ハマれば手が付けられないという類の選手だ。フットボールにおけるサイドの選手の主要な役割はセンターにいる選手へのパスの供給だが、彼はそれ以上にドリブル、シュートという魅力を持っている。そのための利き足とは逆のサイドが主戦場という「逆足のウィング」なのだ。彼は自陣のゴール前で献身的に守備をするような選手ではない。もちろんサボらずに帰陣しているが、それは彼本来の姿ではない。彼をできるだけ相手ゴールに近いところでプレーさせるためにどうするかを考えるのがチームの役割だ。何度も書いているが、彼が相手のゴールに近いところに位置どると、相手は2枚のディフェンスを下げる必要がある。すると、前線の枚数が足りなくなる。「相手に守備をさせる」ことが、彼の守備力でもあるのだ。なので、彼のところまで、オシム的な表現をするとどうやって「水を運ぶ」のかが課題になる。しかし、これは特定選手の調子にチーム全体の命運を預けることとも同義であり、監督によっては嫌う人もいる。奈良クラブは彼に賭けた。なかなか活かしきれない時期もあったが徐々にチームにフィットし、堀内や下川という「水を運ぶ選手」を得たことで、まさに「水を得た魚」のごとく、岡田選手はこの試合躍動する。先制点と追加点で、終わってみればハットトリックの達成。このハットトリックは奈良クラブがJリーグ参入後初とのことだ。浅川でもできなかった偉業をやってのけた。

影のMVP、神垣

 もう一人、センターバック堀内という戦術を支えるのが神垣だ。彼は空いたスペースを埋めることが仕事なので、ボールに直接絡むことが少ない。しかし、彼が「ここ」という場所にポジショニングすることで、チーム全体の風通しが良くなる。ときには中島の隣へ、時には前線へ。ボールに関わることが少ないのであまり実況で名前が呼ばれることが少ないのだが、この戦術では非常に鍵になる役目を高次元でこなしていることはここに明記しておきたい。彼がボールを欲しがって動いてしまうと、本来ボールが届くはずの國武や岡田、田村といったところへのパスコースがなくなってしまう。例えば彼が前線まで上がることで神垣にマークが付き、それゆえに國武へのマークがルーズになってそこに届くというふうに、彼が直接ボールに関与しなくても、ゴールに関与するようなプレーを続けている。より堀内のパスが相手にダメージを与えられるよう、彼は隙を作らせるようなプレーをしている。前半31分、堀内からエグい楔が國武に通るシーンがあったが、その時神垣は前線までオーバーラップしている。得点にはなっていないし、彼はボールには関わってないのだが、彼がいたから生まれた決定機だ。このシーンは左から神垣、岡田、パトリックと並び、國武が降りてきてボールを受けるというこれまで見たことないような並びになっている。琉球のディフェンスは全くマークにつけていない。
 試合全体を通して、いわゆる「Box to Box」(自分と相手のペナルティエリアへのアップダウンの連続をする役割の選手のこと。代表選手はジェラードやランパード)という動きを忠実にしている神垣の貢献も無視できないポイントである。表のMVPが堀内なら、影のMVPは神垣だ。

まさかのバージョン2発動

 後半、琉球は前掛かりになり堀内にもプレスを再開する。1トップだったところを2トップ気味にし、「両センターバックからプレスをかけよう」「実は人の少ない中央から攻めよう」という意図を感じた。これに応じて奈良クラブも非保持のときの4−4−2を収縮気味にさせて一旦は相手の攻撃を受ける。後半の真ん中あたりまでは防戦一方と言っても良い展開だった。普段なら、ここで決壊して失点が重なるところだが、奈良クラブにはこの試合パターン2が存在した。キーマンは森田選手と山本選手だ。

 押し込まれるとみると、奈良クラブは堀内からの丁寧なビルドアップ作戦ではなく、出てきた相手の裏をつくロングボール作戦に切り替える。このとき、サイドバックは上がらずにゴール前を固め、4−4−2のトップ2枚と両サイドを押し上げた4−2−4のような形になり、裏へ裏へと執拗に攻撃を繰り返す。百田が控えなのはこのためで、ゴールへの丁寧なお膳立てが必要なパトリックを前半、カウンター重視の裏抜けには百田を後半にというチームの作戦はばっちりとはまっている。
 単純なロングボール作戦ではないのは、両翼も一緒に前線まで上がるところだ。これを繰り返すと相手は5枚は帰陣しないと一人余らないので、全体を押し下げることができる。これまで奈良クラブは、劣勢になったときにフォワード一人が前に残り、全体が自陣ゴール前に釘付けになっていまっていた。鳥取戦、YSCC横浜戦、ロートフィールドで同じ光景を見たと記憶している方も多いだろう。奈良クラブの改善策はこれだった。このために百田や西田を温存するという作戦だった。こうした激しい上下動を繰り返すうえでは、テクニックの田村よりも運動量とインテンシティの高い西田のほうが適任だ。今自分たちが持っている手札の中で、おそらく最も最善のものを出してきたという様子である。
 ただし、このバージョン2において最も重要なのは森田と山本である。このロングボールの出し手と受け手という部分で、彼らは後半の生命線だった。神垣と違い、森田にはスケールの大きさという武器がある。彼のドリブル、パスには「おお!」と思わず唸らせるようなセンスがあり、特にミドルレンジのパスには彼にしか出せないコースと精度がある。岐阜戦の起点となったパスのバックスピンのかけ方なんて、なかなかああいうものをお目にかかることは少ない。割とサイズもあるが、足元はとてもうまいし、得点のセンスもある。これまで「ただクリアするだけ」だったロングボールが、彼の登場で危険な裏へのスルーパスへと変化した。押し込まれ気味だった奈良クラブは前進するための推進力を、もう一度得ることができた。
 そして、その前進するボールを受けるのが山本だ。彼の真骨頂はワンタッチプレーだ。決して難しいことはしない。しかし、確実にボールを受けて、味方に返す。ただそれだけなのだが、シンプルなプレーこそ最も難しく最も美しいプレーなのだと実感させる山本が帰ってきたことで、堀内や森田から、足元ならば山本へ、スペースならば百田へという2つの選択肢が生まれる。相手も高精度のボールが来ることがわかっているが、ケアするべきは失点に直結する百田が優先だ。となると、琉球のディフェンスはラインの駆け引きよりもカバーリングをして守るようになるので、山本はよりボールを受けやすくなる。こうして岡田の追加点が生まれたというわけだ。
 終わってみれば4−1。岡田優希による奈良クラブ初のJハットトリックを記録した、記念すべき試合はこうして終了。奈良クラブの良いところだけが全面に出た、結果も内容も完勝であった。

My light shines on!

 セカンド・サマー・オブ・ラブなんて、もはや誰が知っているんだろう。音楽の世界では、何度か感性の開放のようなムーヴメントが起こる。もしかするともう起こることがないのかもしれないが、音楽やスポーツというのは人間の感性を爆発させるなにかがある。グラスゴー出身で今も現役のロックバンド、プライマル・スクリームは、80年代に英国圏で流行していたアシッド・ハウスにロックを融合させた歴史的名盤「スクリーマデリカ」を1991年に発表。この名盤の発表を機に「セカンド・サマー・オブ・ラブ」というポップカルチャーのムーブメントが始まる。91年といえば、折しもバルセロナではヨハン・クライフがドリーム・チームを指揮していた時期と重なる。おそらく、この時代の覚醒と開放という人類最後の感性の爆発と、クライフイズムというのは相性が良かったのだろう。こうして振り返ってみると、時代の雰囲気とフットボールというのは切っても切れない関係があるのだなあと思う。
 セカンド・サマー・オブ・ラブというのがダンス・ミュージック由来であるというのも面白い。奇しくも鳥取戦では村上春樹の名作「ダンス・ダンス・ダンス」から引用した。ペップ・グアルディオラのFCバルセロナのドキュメンタリー映画のタイトルは「ボールを奪え、パスを回せ」だったが、いうなればこれは「踊り続けろ」ということだ。言葉は違うが、きっとこういうムーブメントで示される価値観というのは同じものなのだろう。
 そんな名盤「スクリーマデリカ」は「Movin' On Up」という曲で始まる。軽快なアコースティックギターのカッティングから始まるこの曲が歌うのは自分自身の覚醒だ。

 光は自分自身から発せられる。誰かに照らしてもらうのではなく、自分の中にある光を見出すことで道は開かれる。奈良クラブは自分たちの理想を信じることで道を開いた。この勝利は大きい。これまでも自分たちのやりたいことをやろうとした試合はあったし、それは感じられたが、今回ほど強調したことはなかった。理想に全振りしたことで見出した自分たちの光を見つけた勝利は極めて大きい。

「ちがう、命は闇の中をまたたく光だ」

「風の谷のナウシカ」第8巻

 「On Your Mark」の宮崎駿のMVは「風の谷のナウシカ」の変奏曲であることは割と有名だと思う。その「ナウシカ」には原作のコミックがある。実は劇場版のナウシカは原作コミックの2巻途中までの内容なのだ。原作にはさらにその続きがある。ただストーリーは一言で言えないほど込み入っているで、興味のある方は図書館などで読んでみてほしい。紆余曲折あって、ナウシカは最終局面で対峙する「墓所の主」というキャラクターに上のようなセリフを言う。「墓所の主」と対峙するナウシカは議論では完全に負けている。論理的には「墓所の主」のほうが正しい。フットボール的に言うと、「守ってカウンターのほうが勝てるやん」と「墓所の主」はいう。「どこかからお金をひっぱってきて、強い選手を集めたら勝てるやん。」「弱いところじゃなくて、強いところを応援したほうが楽やん」という墓所の主。翻ってナウシカは「だからどうした。自分たちはこのフットボールが好きなんだ」と言い返す。そう、好き嫌いの問題である。議論としてはなんの根拠も示さずに、反論というよりも暴論だ。でも、あなたはどうだろう。奈良クラブでなくても良い。どうしてそのクラブが好きなのだろう。それは多分、勝ち負けだけではなくて、なにか自分の願望やロマンをフットボールチームに託しているからじゃないか。きっとFC琉球のファンだって同じだ。こうしたフットボールが好きと言えること、それが地元のチームが体現しようとしていることは、とても(最近の言い方でいうと)、尊いことなのではないかと思う。
 ウィングの岡田優希がここに来て完全フィットの様相だ。累積警告で出られなかった嫁阪も帰って来る。西田や田村も好調を維持している。翼を大きく広げた奈良クラブはかなりやりにくい相手だろう。岡田優希は試合後のインタビューで「まだ昇格を口にする段階ではない」と言った。しかし、それは「そこまで追いついてやるからな」という決意表明でもある。
 次節はこの光の価値が試される。相手はアスルクラロ沼津。ほぼ五分のなかから3失点で完敗だった相手だ。あの悔しさはまだ忘れていない。間違いなく両サイドの攻防が鍵になる。強い向かい風が吹くだろうが、そういうときほど翼は風をはらんで高く飛ぶのだ。中断期間を前にした最後の試合、翌日はファン感謝祭も控えている。夜の奈良をイメージしたユニフォームを着用する試合だけど、そんな奈良を照らすのは奈良クラブの選手たちだというところを見せてほしい。奈良の夏はまだまだこれから。熱い夏は終わらない。

追記 スペースをしました。

 この試合は、ギラヴァンツ北九州戦から二度目のX(旧Twitter)でのスペースでのゆるい解説という形で配信させてもらった。誘っていただき段取りをすべてしていただいた加湿器さんには感謝である。僕はただ、気ままにリアクションするだけでの簡単なお仕事だった。なかなかアウェー遠征には行けないので、こういう形で盛り上がりながら試合を観戦するのも悪くないですね。(なお、おしゃべりと文章は人格が違うのでずいぶんテイストが違いますが、間違いなく同じ人間がしています)

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