奈良クラブを100倍楽しむ方法#031 第31節対大宮アルディージャ ”バイタルサイン"
10月4日は「新世紀エヴァンゲリオン」の初回放送が放送された日だそうだ。一番最初に登場する使徒サキエルに対して、碇シンジの乗るエヴァンゲリオン初号機は一方的に攻撃を受け活動を停止する。そこから、いわゆる「暴走=動けないはずの状態なのになぜか動く」が始まり、使徒を殲滅するというのが1話〜2話の流れだ。アニメが大好きな人なら「親の顔よりも見た」というシーンだろう。エヴァンゲリオンの監督を務める庵野秀明の作品には「動かないはずのキャラクターが原理不明の要因で動く」という描写が時々あって、エヴァンゲリオンの前の作品、「ふしぎの海のナディア」でも同様のシーンがあった。物語でもキーになるシーンである。
J3リーグ第31節、大宮アルディージャ戦。まさにこれを実写で見るようなシーンが最後の最後で繰り広げられた。後半、アディショナルタイム。この日は右ウィングバックで先発し、上下運動をなん度もなん度も繰り返した生駒選手。途中からは左のセンターバックへとコンバートされ、粘り強い守備を見せるも、大沢選手への対応で足が攣って座り込んでしまう。心配して声をかけるマルク・ビト。しかし、試合は途切れない。奈良クラブの攻撃はひっくり返されて大宮のカウンターへ。奈良クラブのディフェンスは混乱している(どうして混乱しているのかは後で説明するが、それを踏まえても生駒はすごい)。放たれたシュートにビトは反応できず見送る。「やられた」おそらくスタジアムにいた人が全員がそう思った。が、シュートにはいるはずのない奈良クラブの選手が体を投げ出してブロック。そのまま倒れ込む。誰だ?鈴木か?いや、生駒だ!動かないはずの痙攣した足をひきづりながらカバーに入った生駒のプレーに、メインスタンドは「とんでもないものを見た」という、安堵感や高揚感、解釈不能の感情で騒然となる。そのまま交代となり担架で運ばれて帰ってくる生駒選手に送られる拍手。
僕たちが見たのはある種の奇跡だった。首の皮一枚のところで繋ぎ止めた生駒のビッグプレー、これがこの日一番のハイライトだった。
極めて印象的なシーンがあったわけだが、首位を独走する大宮アルディージャに対して一歩も引かずイーブンに戦った奈良クラブの戦術、戦略についてもきちんと振り返っておきたいと思う。前節も書いた通り、中田監督になってから1試合に必ず1つ以上の積み上げが見られ、同じ引き分けでも明らかに内容が向上している。特にこの日は攻撃面でも変化があった。これらを確認しながらこの試合を振り返っていこう。
決戦、ロートフィールド奈良
先発メンバーはこちら。前節からの変更は、怪我で離脱をした堀内選手との入れ替えで森田選手。出場停止明けで先発と思っていた下川選手はベンチスタートに。左のウィングバックは前節に引き続き西田選手が務めることになった。
対する大宮もいつも通りの豪華メンバーだ。しかしここ数試合の様子を見るに、守備の集中力があまり高くない様子が見える。失点してから本気になって攻撃に出てくるような印象だ。前線の圧力はこのリーグのレベルを超えているので、前がかりになったときの威圧感はかなりの脅威ではある。脅威というよりも、ほとんど恐怖だ。が、付け入る隙がないわけではない。奈良クラブがどのようなプランで彼らに挑むのか。サポーターの感情はなかなかに複雑なものだったと推測する。
現在の奈良クラブの順位から言っても、相手がどこであれ勝たなければならないが、それがもっとも困難な相手であること。前に出なければ勝てないので、松本戦のままだと引き分けが上限だろうが、ここで大敗を喫するとここ数試合の積み上げが水の泡になること。それでも、この相手をもし倒すことができたのなら、残留への強力な追い風となること。冒頭のエヴァンゲリオンに準えるならば「逃げちゃだめだ」と碇シンジのように自分に言い聞かせ、キックオフの時間の時間はやってきた。さあ、決戦だ。
拮抗する前半
キックオフ。立ち上がりペースを掴んだのは奈良クラブだ。対面する相手のセンターバック市原に対して松本ケンが高さで圧倒する。そして今日は攻撃時の全体の押し上げが良い。7分には左から右へ展開し、森田が惜しいシュートを放つ。試合への入りは悪くない。
この日は松本ケンが一番ボールに絡むことのできた試合でもあった。試合を通して空中戦はほぼ完勝。改善された部分は2点である。
一つ目は、後方からのフィードの受け方だ。ゴールキックやロングフィードには、中央ではなくサイドに流れてボールを受けるようになった。ボールが相手ゴールへのまっすぐな軌道ではなく、コーナーフラッグ方向への斜めになったことがわかるだろう。こうすることで、まずはキッカーに利点が出る。仮にキックをミスしても、相手のスローインでの再開となるのでミスを恐れずに蹴り込むことができる。また、より深いところにボールを差し込めるようになるので、嫌な場所に蹴り込むことができるようになった。松本は相手ゴールを背にしてのキープではなく、サイドに体を流しながらキープできるので、相手の動きを制限しやすい。また、キープに成功したときはウィングバックやインサイドハーフが割と近くにいるので、サポートもしやすくなる。まだまだ精度を上げていかなければいけないところだが、これまで正直に松本ケンに蹴り込んでは跳ね返されるというのを繰り返していたなかで、明らかに狙ってやり方を変えてきたな、という印象を受けた。
クロスへのポジショニングも改善された。松本山雅戦の生駒のゴールの際、松本ケンはボールに近いサイド(ニアサイドといいます)にポジションしているが、この日は徹底してボールから遠いサイド(ファーサイドといいます)でクロスを待ち受ける。ファーサイドに陣取ることのメリットは、クロスが蹴られてから時間の余裕があるため、助走をつけたジャンプができることだ。背の高い選手の利点を最大限に活かすための工夫だろう。この形からこの日は惜しいシーンが何度かあった。クロスが届かなくてもここに向かって松本ケンは走っていたので、狙ってやっていることがしっかりと伝わった。なお、背の低い選手はクロスに対してニアサイドに飛び込むことが多い。ニアサイドは相手よりも前に出てボールに触れば一点もののチャンスになる。下川が岡田優希に蹴るときと松本ケンに蹴る時では明らかにクロスの質が違うのだが、同じモーションで蹴り分けているので、相手からはかなり厄介だと思う。
攻めるだけではない。この日の奈良クラブはしっかりとボールを後方で保持し、試合のペースを自分たちでコントロールするんだ、という意思を感じた。大宮のような個の力で圧倒的なチームとの対戦で重要なことは、「個人対個人」の勝負に持ち込ませないことだ。ボールが前へ後ろへと忙しい試合になると、全体のカバーリングが追いつかなくなるので個人の力量に頼った白兵戦になる。大宮が望むのはそういう試合だ。奈良クラブはそれには乗らない。ディフェンスラインで、あえてゆっくりとパスを回す時間をつくり、焦らずじっくりと試合を進める。あくまでここは、奈良クラブのホーム。試合の主導権は自分たちで保持するんだという意思表示だ。
この日に抜群の安定感を出したのは「進撃のサワンゲリオン」こと澤田選手である。彼はオリオラ・サンデー選手をマークするのが日本一上手いのではないか。今年前半の奈良クラブが初勝利をあげた八戸戦でも、彼はオリオラのマークを担当し完璧に押さえ込んだ。この日も彼を完璧に押さえ込んで試合から消すことに成功する。立ち振る舞いにも落ち着きが見え、プレッシャーをかけられても自信をもってパスを出しているように見えた。彼の調子が良くない時は、明らかに自信をなくしてオロオロしているように見えるのだが、この日そんな様子は一切なし。ここが安定すると生駒がオーバーラップしやすくなる。
15分あたりから大宮がボールを保持するようになり、奈良クラブは自陣に押し込められる。それでも攻撃にそこまで怖さを感じない。選手の名前の威圧感で「ミスをしたらやられる」という危機感はあるものの、鋭さで言えば富山や宮崎のときの方が怖かった。おそらく大宮は3−4−2−1の陣形をほぼ崩さず、立ち位置があまり変わらない状態での攻撃だったからではないだろうか。ボールを持たれても、そこまで混乱する様子はない。ピリピリした緊張感のなか前半終了。勝負は後半へ。
さらに拮抗する後半。そして…
後半開始。奈良クラブは國武選手に替えて下川選手投入。西田が前線に出る。試合後の社長の話では、下川は高強度の試合のときは75分くらいからばててしまうので、この日は後半勝負ということで温存したとのことだった。國武は前半までのつもりでフルガスで走り続けることが求められていたわけだ。そして西田がウィングバックとして不慣れな守備も懸命にこなし、前半を無失点で抑えたことが素晴らしい。特にここは、前節以上に鈴木のフォローが効いていた。
後ろが安定することで前に出るときは躊躇のない奈良クラブは、ここから大宮と互角に渡り合う。59分、60分と岡田と松本ケンが立て続けにチャンスを掴む。何より後半は前線の人数が多い。ボールホルダーを追い越して前のスペースへとどんどん走り込む。
大宮はオリオラに替わって後半出場しているファビアン・ゴンサレスを中心に奈良クラブを崩しにかかる。奈良クラブとしてはオリオラよりも、フィジカルに強く周囲と連携することも上手いファビアンの方が脅威だ。それでも小谷、澤田が体を寄せて自由にシュートを打たせない。枠に飛んだシュートはマルク・ビトがしっかりとセーブ。両チームとも無得点で試合は進み、後半アディショナルタイムの決定機に起きたのが、冒頭の生駒のスーパープレーだったというわけだ。
生駒のプレーにはルール上でも重要な点がある。色々な角度から語ることができるが、僕なりにまとめると①試合続行を判断したのが奈良クラブであること(だから試合を止めるのは主審しかできない)、②オフサイドラインがGKになること、の2点だ。
まずは①について。生駒は足が攣ってから自らゴールラインの外に出たが、気づいているのがマルク・ビトだけで試合が続いている。特に生駒が痛んだあとに下川が前線にフィードを送り(おそらくコーチングが聞こえていない)それを大宮がカットしてカウンター返しをしているので、奈良クラブとしては試合を「止めることができたのに止めなかった」と解釈されてもおかしくない。また、負傷して倒れた選手がいて治療のために試合を止めるかどうかを決めるのは審判だ。大宮の選手は、自主的にボールを蹴り出すこともできるが、試合を続けることそのものはルールに抵触しない。経緯から言っても、フェアプレーの精神にも反しない。大宮がプレーを続行することは、全く問題無いのだ。さらにそれが②につながる。そうなると生駒はプレーを続行しているという解釈になるので、ゴールライン上にいる生駒が一番後ろの選手となり、オフサイドラインが1番後ろから数えて2人目の選手、つまりGKマルク・ビトの高さに設定される。大宮としてはどこからでもシュートが打て、奈良クラブの異議申し立てはほとんど不可能という状況であった。奈良クラブの選手の対応がばたついて見えるのは、オフサイドラインでの駆け引きができないので、とにかくボールホルダーへアプローチする以外にこの状況を止める術がないからだ。鈴木、澤田が外され都並もかわされたところで万事休すだと誰もが思っただろう。倒れ込みながらシュートコースに入り、間一髪のところでボールをかき出した生駒。文字通り、彼にしかできないブロックだった。このプレーはシーズンをかえるかもしれない。
生駒の献身的なプレーに触発されたのか、奈良クラブは最後の攻撃にでる。ビトの蹴ったゴールキックを山本がフリック。ここに奈良クラブの選手は松本ケン、岡田、田村の3人が集まっている。特に松本の前に田村がいることが重要だ。競り合いに勝った松本ケンのパスを田村が受けてゴール右隅にむけてシュート。惜しくもポストを叩く。決まっていても判定はオフサイドだったが、こういうシーンが出てきたことで、もっとゴールは奪えるようになるはずだ。
そして終了のホイッスル。走りに走った神垣はその場に倒れ込み、鈴木は悔しさでピッチを叩く。それでも、試合を終えた選手の表情は、これまで一番得たくて得たくて仕方がなかった自信が確かに感じられた。あの大宮相手に互角でやりあった。負けなかった。しかし、同時に勝てる試合でもあった。大宮に一泡吹かせるなら、この試合が一番それに近づいたように思う。だったら、この経験を次に是が非でも繋げないといけない。
「奈良クラブ補完計画」
この日は午前中に日本フットボール界のレジェンド金田喜稔さんによる子供達のサッカースクールがあり(次女が参加)、その流れで試合後に濱田社長と金田さんによる試合解説会が行われた。こんなん、絶対いくやつやないか!ということで、参加して話を聞いた。質問しようと思っていたことはすべて金田さんと社長から話されたのだが、それを事前にポストしてまとめているのでこちらでご覧いただきたい。
「俺は奈良クラブのことは全然知らないよ〜」という一言から始まった金田さんのお話だが、しっかりと的を得たことを話されていた。さすがとしか言いようがない。「スーパーサッカー」を見ていた世代にはたまらない時間だった。金田さんは特に攻撃面での課題を指摘され、社長も同意していたのだが、これに関してはここから手を入れていくということだ。ただし、ここにはフットボールというスポーツの特性がかなりあるので、そう簡単に解決できるだろうか、という問いはある。
フットボールは攻撃と守備が同時に行われるスポーツだ。野球やアメリカン・フットボールのように、攻撃と守備が完全に入れ替わるということがない。バスケットボールやハンドボールも近いが、手でボールを扱うスポーツではないので、極めて得点が入りにくいという性質もある。最近、攻撃や守備という言い方ではなく「保持(ボールをキープしている状態)」や「非保持(ボールをキープしていない状態)」という言い方をするのは、ボールをキープしている状態=攻撃ということでもなく、同様に非保持=守備でもないという戦術的な解釈がメジャーになってきたからだ。奈良クラブに寄せて具体的に話すと、中田監督に変わり守備は安定したが、その代わりに前線の枚数を犠牲にしたわけだ。ウィングを削ってディフェンスラインを5人にした分、攻撃には人数が足りないという様子が大宮戦までは多かった。いわゆトレードオフの関係にあるわけで、守備がよくなったからあとは攻撃だけが課題だ、という意味ではない(ものすごく高額なフォワードを買ってくればそれが成立するかもしれないが)。現状の守備をキープした上で、どこにリスクをとって、どのように得点をするのかをチーム全体で考えないといけないということになる。
ポイントは金田さんもおっしゃるように、松本ケンとその周囲の問題、そしてどのようにシュートを打つのかという共通認識の部分だ。察しの良い方はお分かりだろうが、この両者は別物ではなく、ピッチ上では同時に起こっている奈良クラブの課題なので、どちらかだけを解決するのでは不十分なことになる。両方とも解決しなければならない。言うなれば「奈良クラブ補完計画」である。
まずは松本ケンを狙ったロングフィードに関しては、この試合でもあったようにサイドで構えてフォーメーション上の数的優位を活かすという方法がある。リスクの取り方については前述した通りで、失敗しても大丈夫な環境に持ち込むことで解決できる。まずはここでマイボールの時間を作り全体を押し上げる。特にウィングバックがボールよりも前に出ていくことが重要だ。これで相手の攻め手を押し下げることに繋がる。ボールサイドでない方のウィングバックもボールの高さくらいまで押し上げられれば攻撃に厚みが増す。松本山雅戦であった生駒のシュートのようなシーンを増やしていかなければならない。
加えて、サイドからのクロスには松本ケンの高さを生かすため、彼がファーサイドに構え、ニアサイドにインテリオール、岡田や國武が入る。しかし、もう1人サポートが欲しい。堀内がいれば彼のセンスでポジションが取れたが怪我で戦線離脱中だ。森田は自分から動くよりも、周囲を動かすタイプ。中島も同様だ。となると、こういう場面で期待できるのは神垣になるだろう。
キーマンは神垣と百田
どこかの試合で書いた通り、神垣はボールがなくても大丈夫な選手だ。彼の運動量は半端ではない。シーズン序盤こそ、居場所を見つけれられずにいた神垣だが徐々に存在感を発揮。特に中田監督になってからは彼の運動量とボール奪取能力、キックの正確性と、なくてはならない存在になっている。この日も美しいターンから攻撃に繋げる素晴らしいプレーがあった。
松本ケンにクロスを蹴った時に相手ディフェンスに迷わせたいのは、彼がシュートを選択するかどうかだ。シュートではなくパスを選択した時、ゴール正面で待ち構える選手が必要になる。ここに1人いるだけで、相手ディフェンスに迷いが生じる。加えて、ファーサイドで構える松本ケンにはふわっとした滞空時間の長いクロスが多く蹴られる。ボールに勢いがないため、もし相手が競り勝ったとしても一発で遠くまでクリアはできない。そのボールを回収し、シュートや2次攻撃に繋げるのが彼の役割になるだろう。今はバランスをとることに能力をかなり配分している神垣だが、攻撃の厚みを加えるためには彼がもう一列前でプレーする勇気を出すことが必要になると思う。
また、彼が前に出た分のスペースはセンターバックが前進することで埋めていきたい。神垣が出た分を放置しておくと、ディフェンスラインの前に大きなスペースができてしまう。このカバーを隣のセントラルミッドフィルダーではなく、センターバックがする。こうやって全体が前へ前へと押し上げることで、結果的に前線に人数がそろっているという状況を作り出すというのはどうだろうか。鈴木は守備範囲もかなり広くなったし、ロングフィードも恐れずに蹴ることができている。彼には自信をもって前に前に出てほしい。
リードしている場面ではそれはハイリスクなので選手起用のところでも解決策を考えたい。前線からプレッシングをサボらずに継続でき、得点能力の高い選手、百田選手のセカンドトップの起用である。リードしている場面では、松本の近くに百田を置き、松本ケンは落とすのではなくどんどん後方にボールを逸らす。百田は反応速度はかなり高いので、松本ケンの前ででこれに合わせて展開する、あるいはゴールを奪うという流れはどうだろう。松本ケンよりも前でボールに合わせる選手が重要だ。こうすることで、松本ケンへのディフェンスもゆるくなる。相手に迷いをもたらすことが必要なように思う。パトリックでもおもしろいのだが、彼はシューターなのでもっとゴールに近いところで待ち構えることで一番特徴が出せる選手だ。狭いスペースを見つけて走り込んでくるイメージであれば、百田の方が合っている。
今の奈良クラブの攻撃は、厳しく言うと「個人技の偶然性」にしか根拠がない。おおよそフットボールのチームは多かれ少なかれそうなのだが、奈良クラブはこれまでかなりシステマチックにしていた分、余計にそれが目立つ。大宮戦ではそうではなく、チームとしてどうするかが見え始めた。それでもまだ「フットボールでよくある得点パターンをなぞるもの」であり、結果的に「個人技の偶然性」の域を超えていない。松本山雅戦ではウィングバックを前線に走らせるというバリエーションがあった。おそらくいくつかパターンがあると思うが、チームとしてどうするかを積み上げる段階である、という濱田社長のお話の通りである。むしろ負けることなく、ここまで積み上げられたことはかなりラッキーであった。
ぼくはまだ歩いてるよ
ダゾーンの実況の方も試合前に言っていた通り、そして鈴木選手も富山戦後に熱く語った通り、奈良にJリーグのクラブがあるという灯火を消すわけにはいかない。僕にとっては、奈良クラブのおかげでいろんな人との出会いがあったり、毎週末の高揚感や喜怒哀楽を感じることができている。誰かを応援することは尊いことだ。
こんなnoteをずっと書いていると、声をかけてくださる方もいる。多分、奈良クラブを応援してないと出会わなかった人たちだ。奈良クラブ以外のファンの方とも繋がりができた。人と人との繋がりは人生を豊かにする。スタジアムで皆で声をあげて応援し、ある時は歓喜し、ある時は落胆する。一人ではない、というのが良い。そういう祈りのような気持ちの後押しが奇跡のプレーを生むように思う。
生駒選手があのシュートをクリアした瞬間の雰囲気を表す語彙力を僕は持っていない。どうしても負けたくないという執念が発露したというより、もう彼は執念そのものだった。彼の姿に多くの人は感染し、感じるものがあったと思う。大宮のファンも思わず拍手をしていた人がいた。こういう感覚は大宮アルディージャという絶大な相手だから味わえることなのだろう。降格するとそうはいかない。このヒリヒリした感じを一度覚えてしまったら、最後まで諦めることはしない。
順位こそ19位となり降格圏には入ったが、悲壮感というよりもワクワクする感じの方が強い。負ける気がしないとまでは言わないが、どこが相手であっても互角以上の戦いを奈良クラブが見せるはずだという確信はある。大宮相手にこれだけやれたのだ。どこにも臆することはない。むしろ背水の陣から、奈良クラブの選手たちがもっと成長するのではないかという期待もある。
とにかく、選手たちの雰囲気が以前とまるで違う。勝つことに飢えている。降格するチーム特有の悲壮感がまるでない。これはどんな結果でもしっかりと声援を送り続けたゴール裏のサポーターの方々の力もあるだろう。バラバラになってもおかしくないところで踏みとどまったのは、サポーターの力だ。中田監督はさらにその上をいく。試合後の会見でも語っていた通り、もっと飢えなければならない。もっと貪欲にならなければならない。そういう雰囲気にしないといけないし、そういう選手を後押ししなければならない。
それこそ「シン奈良クラブ」だ。僕たちはまだ歩いている。残り8試合、まだ終わらない。彼らの見せる勇姿を目に焼き付けよう。
次節は因縁の相手、FC大阪を迎えての生駒山ダービー。勢いをつけるにはうってつけの相手だ。さあ、見せてくれ。いや、見せましょう。奈良の力を。
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