書評:「アフター・ヨーロッパ」、パンデミックが加速化させる欧州の解体
本書は、あまり明確な答えは提示してはくれない。ただ、移民やグローバリゼーション、EU官僚に対する反感によって増幅したポピュリズムなど、ヨーロッパないしはEUを分裂・解体させかねない要素があちこちに散らばっていることを、東欧・ブルガリア出身者の視点で訴えかける。
グローバリゼーションと移民によって、社会から忘れ去られ、取り残されかねない人々が、右派ポピュリズム政党を勢いづかせ、さらには2015年ごろからパリやブリュッセルで立て続けに発生したテロは、イスラム教や移民を排除させる思想を加速化させた。
著者は移民に対する人々の不安を念頭に「開かれた国境は自由の印ではなく、今や不安の象徴」と指摘するが、この指摘は奇しくも昨年から始まった新型コロナウイルスによるパンデミックにずばり当てはまる。ウイルスは「開かれた国境」を通じた自由でグローバルな人の移動によって、極めて効率的かつ迅速に全世界に届けられたわけである。
EUという一つの地域単位内であれば、自由に移動ができ、生活・仕事が叶うことが重要な存在意義であるはずが、今回のパンデミックはその重要な意義すらも(今もなお)凍結している。
移民とポピュリズムがグローバリゼーションとリベラリズムを否定し、その守護者たるEUを瓦解させかねないと本書を出版した2018年時点で筆者は憂いていたわけであるが、新型コロナウイルスは同じ構図を衛生上の危機という観点から、さらにEUを苦しめている。
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