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コーヒー煎り豆の鮮度について

前回、最近のコーヒーが美味しくなった理由として、鮮度の維持を挙げた。その中でも、コーヒーを淹れてからの話であれば可能な限り新鮮なほうが良い、というのは多くの人が同意するところだろう。

さて、問題は煎り豆の鮮度である。これについては1週間から1か月までいろいろ異論があるところで、前回はこのように書いた。

ブルーボトルのような鮮度を売りにしたところでは長くて1週間と主張していますし、焙煎豆を通販で売っているような店では2週間から1か月と主張しています。私が見た中では1か月ほどでちょうどいい味になるといっている消費者も見ました。これは理由がないわけではなく、焙煎直後はコーヒーらしいというよりは大豆を煎ったようなにおいがすることがあり、時間とともに香りの質も少々変わってくるため、好みのポイントがある可能性はあります。ガスクロマトグラフィーなどを用いた試験では4日目あたりが香りのピークではないかとしています。

2~4日後から飲みごろとなり2週間程度、というのは多くの人が言うところであるが[例1例2]、私の個人的経験として、焙煎が間に合わないときにしばしば煎って1日程度の豆、場合によっては煎った直後の豆さえもあまり問題なく飲めると感じていた。焙煎直後でも、豆を挽いて粉にして1時間程度瓶の中で放置しておけばそこそこ炭酸ガスも抜け、ゆっくりハンドドリップすればむしろ風味は良いと感じることが多かった。

しかし、最近それに該当しないケースに出くわした。今冬は早川コーヒーが苫小牧地震で被災しスペシャルティのセットが欠品したため、ブラジルのモンテ・カルメロ産コーヒーを中心に購入していた。このブラジル豆は今までと異なり、焙煎後1週間程度してやっと甘い香りを感じるようになるのである。

私個人は中米産のフローラルないしフルーティな、華やかな香りものを好んでいたのだが、ブラジル豆はナッツ香やキャラメル香などが強い。果実香のような華やかな香りは芳香族などが多いのに対して、キャラメル香などはフラノン類が中心になっていることが多く、香りの成分が異なる。例えば、両者の揮発性の違いでフルーティな香りは飛ぶ前に飲んだほうがいい、というのはありそうな話である。

また、香りは成分が濃い時と薄い時で感じ方が違い、麝香やジャスミンなど甘い香りを発する香料の少なからずは濃度が低い時のみ甘く感じられ、濃すぎると甘いというより「臭い」として感じられるという現象がある。フラノン類もそのような物質が多く、濃度が濃いとスパイシーに感じられ、薄いとキャラメルのような甘い香りとなる。――逆説的だが、香りが適度に薄まったことで甘く感じるようになった、という可能性は大いにあるのである。

今のところの経験則としては「フルーティ・フローラルなものは早く飲んだほうがよく、キャラメルやナッツの香りがするものは寝かせて1週間くらいが飲みごろ」というものだが、アフリカ産の豆はまた香り成分の比率が異なり含硫化合物が香りの決め手になっていたりするので、また違う結果になるかもしれない。


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