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コーヒー価格をめぐる報道あれこれ

ウイラ県の記事を少し読んでいると、2010年代のコーヒー価格下落のニュースが多い。今年に入ってコロンビアのコーヒー豆は赤字になっているようだ。

中国の台頭でコーヒーの消費量が激増し、2009→2011の2年間でコーヒー価格は一時3倍まで跳ね上がった。それを受けてブラジルやコロンビアが増産した結果、需要を上回り価格の大幅低下となっているらしい。私もこの数年、ルワンダ、カメルーン、パプアニューギニア、ベトナム(ロブスタからカチモールに転換)など複数の新しい産地のコーヒーを飲むようになっており、産地が拡大していることが伺われる。

数年前までは2010年前後の急騰が記憶に新しく、消費地である日本では「これからコーヒーは需要増大で高騰する」「新規産地開拓が急務」など価格高騰を煽る記事も同時に多く出回っており、報道の方向が安定していない。NHKなどは歴史的安値を報じる記事の中ですら「再来年以降は豆が不足」「需給逼迫で価格上昇も」等、煽る始末である(次節で取り上げるが、コーヒーの消費時点の(国内焙煎済み)豆価格は安ければ1杯5円程度、高くても1杯20円程度であり、少なくとも倍に高騰しても喫茶店で大きな影響が出たりはしない)。

記事中にもあるが、コーヒー価格は歴史的に不安定さがあり、病気の流行で暴騰→対策を取って暴落など、何度も乱高下を繰り返しており、そこに噛んでくる外来の投資家の存在もあって、農家はそれに翻弄されている、というのが実態であろう。

コーヒーは木であり、需給の逼迫を見て植えても収穫が増えるのは数年後であるし、肥料の量を変えたとて結果が出るのは1年後であり、タイムラグの大きさが過剰投資につながっていると推測する。

20世紀にはこの乱高下に対応するために国際コーヒー協定というカルテルで乱高下に対応しようとしたが、それは産地間の競争を否定していたため、品質の低下も招いていた。スペシャルティコーヒーが市場として成り立ってしまった現在、元のカルテルに戻すのもなかなか難しい状況にある。

コーヒーの「原価」

そういった記事の中で、コーヒーの「原価」をめぐる表記がやや気になった。

コーヒー豆1ポンドからは55杯分のコーヒーが作れるが、これを現在の相場に照らし合わせると、1杯当たり生産者に支払われるのは0・02ドル程度。コーヒー1杯1ドルとした場合、いかに中間業者に「中抜き」されているかわかるだろう。

この、中間業者による中抜きなる記述は、かなり不適切である。

まず、生豆価格自体は特に中抜きなどない。日本国内でもコモディティの生豆を買い自家焙煎すれば、自分自身の手間賃や光熱費を抜きにすれば5~6円程度の豆の量で飲める。これは日本まで輸送された生豆で、コモディティの中で上位区分のものを買い、かつ欠点豆を除去した歩留まり率85~95%程度の時の数字である。生産者は下位区分の豆も出荷しており、出荷価格が1杯換算2~3円というのは不思議ではない。

喫茶店でならば、人件費や地代、機械や光熱費のコストが必ず一定程度かかる。コーヒーのような商品では、「原価」の部分が非常に少ないため、出すメニューに関わらず一定程度かかる人件費や地代が相対的に大きく見える。「中間業者の中抜き」なる記述は、これを針小棒大に言っている側面がかなり大きい。

日本茶は1杯あたりではコーヒーより安く、徳用煎茶レベルなら2~5円、高級煎茶でも1杯10円に満たず、日本茶喫茶店でもコーヒー喫茶店と同じような「原価率」になるだろう。それで、日本のお茶農家が途上国のコーヒー農家レベルの貧困に喘いでいるという声は聴いたことがあるだろうか?途上国のコーヒー農家が貧しいのは、農園が狭いとか機械化が進んでないなどの理由でそもそも出荷総量が少ないのが主因である。

それでも「中間業者の中抜き」を減らせと言うなら、社食のようなところが(味にこだわらないため)人件費を削ったり、場所を提供して地代を浮かせ、福利厚生で利益なしで見た目上「高原価率」にしてみたらよい。それが普通の飲食店に比べ生産者にやさしいかと言えば、そんなことはない。

「コーヒー1杯あたり1~2円追加で出せば生産者は大きく助かる」くらいは言ってもいいが、中間業者の搾取であるかのように言うのは難癖だろう。また、フェアトレード的なことを試みるのはいいが、それによって生産者がちょっとでも「割のいい仕事」になると新規参入者が殺到し需給が乱高下するのが問題の本質なので、この変化をどうなだらかにするかのほうが、フェアトレードとしては重要ではないかと思われる。


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