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自由席には自由がある

新幹線の指定席と自由席、
一般的にどちらが混雑しているとあなたは思うだろうか。

こう聞くと、「そりゃ自由席でしょ」と
答えが来るであろう。

私も完全にそう思っていた。

だが、先日出張に行く際に新幹線に乗ると
指定席はいっぱいで、
自由席はガラガラという奇妙な状況に遭遇した。

その出張は以前から日程は決まっていたのだが
前日になってようやく時間が確定したので、
新幹線の予約もそれが確定してからとなった。

いつものようにエクスプレス予約のサイトを開き
狙いの時間に着く新幹線を予約すると、
いつもなら指定席の座席を選ぶボタンが出てくるのだが
その日は何も出てこず、
予約席は空きがすくないため、席の指定はできないと
書かれていた。

指定席は取れるものの、私が指定するのではなく
JRが指定した席になるらしい。

少々窮屈な思いをするかもしれないが、
私が乗る路線の新幹線は右側、左側に2席ずつの
座席配置なので、
窓側か通路側のどちらかにしかなりようがない。

それなら、別に指定する必要もないと思い
私はそのまま予約を進めた。

そして迎えた当日。

ホームで待っていると、
白くりりしい顔をした新幹線が前にやってきた。

自由席は前寄り3両だったので、
最初に自由席が目の前を通過したのだが、
どうも人気が多いようには見えない。

だが、4両目の指定席になると
急激に人が溢れ始めた。

私が乗る車両を見ると、ほぼ満席である。

内心げんなりしながら車内に乗り込むと、
お弁当を食べたり、ペラペラと話したりする人であふれた
修学旅行のような景色が広がっていた。

ただ一点、修学旅行と違うのは
ほとんどの方の頭が白いもしくは肌色だということである。

新幹線の指定席がなくなっている原因は
彼ら高齢者のツアーで押えられていたからだったのだ。

にぎやかに騒ぐ高齢者の中に一人スーツを着た
自分が入るのはとても嫌だなと思いながら
自分の座席を探すと、私の席は窓側であった。

しかし、その席の隣の通路側には
どういうわけか派手な服装をした若い女性がおり、
どでかいスーツケースを自分の前に置いて
眠りについていた。

仕方がないので「すみません、隣なんです」と
その人を起こして座席についたのだが、
この環境で2時間強を過ごさなくてはならないと思うと
私は心底ウンザリしてきた。

何とか席を移動することはできないものか、
そう考えた時に頭の中に先ほど新幹線がホームに
入ってきたときの景色が浮かんできた。

そう言えば、自由席は人気がなかった気がする。

だが、指定席の切符をもって自由席に座るのは
JRの規定上NGなはずである。

少し先に行けば自由で快適な空間があるのに
そこに行くことができず騒音の中を我慢しなくてはならない。

指定席で予約をした前日の自分を叱りたい気持ちになったが
そんなことを言ってもどうしようもない。

仕方がないので、イヤホンで周りの騒音をごまかし
パソコンを開いて仕事をしながら2時間をやり過ごした。

後々調べてみると、どうやら平日の新幹線のうち
”ひかり”や”こだま”の指定席は今回のような
ツアー会社の団体に押さえられることが多いようである。

私が目的地で降りると、
〇〇ツアーと書かれた旗を持った添乗員と
その周りに多くの高齢者の方が電車から降りてきていた。

何だかその様子を見ていると、
添乗員の話そっちのけでペラペラと話す人々を見ていると
ますます修学旅行生のようだなと思った。

長らく会社員として働き、そして子育てをしてこられた
大先輩方もそれらの大仕事を卒業されて、
今まさに修学旅行を楽しまれているのかもしれない。

そう思うと、最初は少し疎ましいとすら感じていたのが
何だか微笑ましい気持ちにななった。

そして、それと同時に自分の母を
どこかに連れて行ってやりたくなった。

次の連休にでも母を連れて新幹線を使う旅も
悪くないかもしれない。

早速計画を練り始める私であった。

座席はもちろん自由席で行こうと思う。

ちなみに”指定席”という言葉は電車や映画以外では
あまり使わない気がする。

レストランなどでは”予約席”と書かれているし
英語でも”Reserved seat”と書かれているので
まさに予約席という感じである。

これはそこに座るのが指定された人だけ
というニュアンスらしい。

確かに予約席なら、どの席に誰が座るかまでは
指定されていない。
そう考えると対義語が”非予約席”ではなく
”自由席”というのも納得できる気がする。

何だか、指定席を無条件にいいものと思っていた
私の印象が大きく変わる気がした。

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