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カタログに載らない仕様

先日開発中の商品に使用する原材料の
選定を行うために2社のカタログを見比べていた。

両社ともに作っている商品は似ているが
ラインナップが少し違っており、
今回の商品に求められている品質を
満たすちょうどいいものが各社ともに
1種類ずつあった。

早速その両者の少量サンプルを取り寄せ、
試作をしてみたところ
結果は両社ともに良好なものであったので
量産で製造するサイズでの試作を進めることにした。

次は少量サンプルではなく通常の形で
発注を入れ、
数日して両社のモノが到着したので
製造用の実機で試作を開始することにした。

ところがである。

両者ともに実機で試作をすると
取り扱いが非常に難しく、
加工にとても時間がかかることが分かったのである。

このような事はしばしばあるので
別に珍しい話ではないが、
カタログにはこのような事が想定される内容は
一切書かれていなかった。

商品を開発する上において
商品の品質は言うまでもなく大切であるが、
それと合わせて社内工程への負荷も
重要な要素である。

もし私が今回試作した原材料を良しとして
そのまま設計を進めたとすれば
製造工程で多くの時間をかけることになり、
会社の生産性が落ちるだけでなく
それ故に製造原価が上がり、
結局顧客に迷惑をかけてしまう。

それは避けなければならない。

なので、せっかく実機で試作まで行ったものの
もう一度原材料の選定をし直すこととなった。

しかし、ここで一つの疑問が生じた。

前回と同じように同じ会社のカタログから
候補を探すやり方でも悪くないのだろうが、
このやり方ではいつ”当たり”を引けるか
わからない。

しかし、言うまでもなく商品開発には納期があるので
それを守らなくてはならない。

ではどうすれば早く”当たり”を引けるのか。

カーテンの様にショールームでもあれば
現物を見比べることができるが、
産業資材の中でもニッチな原材料なので
そのようなものもない。

そこで、一度メーカーに電話相談してみることにした。

最寄りの営業所に電話をかけ、
簡単にこれまでの経緯を説明したうえで
加工性が悪くなってしまう要素を
事前に知れないかを相談してみると、
担当者は自分の感覚でよければ口頭で教えてくれるという。

カタログの中で目星をつけていた数点の
品番を伝えると、
担当者はそれらについて感覚的な部分も含め
色々と教えてくれた。

早速その結果をもとに原材料を発注し、
試作を行ってみると製造上の問題点は解決し
非常に作業性のいいスペックにたどり着いた。

これで何とか納期には間に合いそうなので
安心していたのだが、
私の中で疑問が残った。

なぜカタログには今回私が担当者に聞いたような
スペックが書かれていなかったのだろうか。

もちろん、感覚的で数値化できないものは
書きにくいというのは間違いなくあるだろう。

しかし、この原材料を使うユーザーの多くは
加工性をとても気にしているはずなのだ。

顧客が求める用件ならば少々強引にでも数値化して
その数値をカタログに書いて比較できるように
すべきではないだろうか。

だが、ここでふと自分が開発した商品に対して
ちゃんと顧客が求める要素を数値化して
営業に提供できているかと考えると、
必ずしもできているとは言い難い気がした。

それはなぜか。

作り手としてどこかに傲慢な気持ちが
あるからである。

「そんな感覚的なものは実際に使って
確かめてみればいい」

自分の商品に対して自信があるからこそ
出る感覚なのであろうが、
第三者的に見てみれば非常に傲慢である。

顧客は買う前に自分がそれを使ったら
どのようになるのかを想像できて初めて
それを購入しようと思えるのである。

にもかかわらず、実際に購入してみて確かめろというのは
顧客からしてみれば非常にナンセンスなのだ。

今回の事例は自分がちゃんと顧客目線で
モノづくりを出来ているかを
改めて考えさせられる機会となった。

ちなみにモノは商社経由で購入するので
本来なら商社の人に相談するのが普通の流れなのだが、
商社の人も実際にモノは販売こそすれど
現物を自分で触って加工するわけではない。

なので、あえてメーカーに直接問い合わせを入れた。

メーカーも直接ユーザーから問い合わせがあると
邪険に扱われることが多いのだが、
今回問い合わせしたメーカーは非常に感じがよく、
何となく担当者の対応から商品へのアツイい想いが伝わってきた。

さすがに商品への想いまではカタログには
載せられないが、
購入を検討する側としてはこの対応は
非常に背中を押されるものがあった。

顧客に商品のことを伝えたいという想いがある
今回の担当者のような人がカタログ作りをすると、
書かれる内容も変わってくるのかもしれない。



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