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相手に知識があると思い込んでいないか

昨年より私の部下に嘱託の方Nさんがいる。

Nさんはもともと管理畑にいらした方で
本部長まで上り詰められたが、
定年退職後、どういうわけか管理畑でそのまま
仕事はされず私達商品開発の所属になった。

ちょうどもともといた私の部下の女性が
産休を取るタイミングと重なったので
会社的にはちょうど補填という意味もあったのだろうし、
少しクセのある方だったので管理の後任の方と
あまり同じ職場に置くと後任がやりにくいという
配慮だったのかもしれない。

とはいえ、私に突然60歳を超えた部下が
出来たわけであるが、
最初私はNさんに事務仕事をお任せしようと思っていた。

産休を取った女性部下は
もともと理系の出身ではないけれど
自らアグレッシブに仕事を進めてくれるタイプで、
かなり技術的な業務もこなしてくれていた。

そのレベルに嘱託の方を持っていこうとするには
当然ながら時間がかかるし、
1年後には産休を取っていた部下も戻ってくる。

なので、技術的な分野に関する教育に
多くの時間を割くのではなく、
比較的シンプルな書類業務をしてもらおうと
私は考えていた。

案外商品開発の仕事は書類を起こす業務が多いので
それをお任せすれば私の負担も
幾分軽減できるだろうと思っていたのだ。

だが、実際にやってみるとこれがなかなか難しい。

一見すると商品設計するための試験報告書や
商品仕様書などに数字を打ち込んでいくだけなのだが、
それらの数字が何を指し示すものなのか、
単位は一体何なのか、この数字はどれほど大事なのか
これらが全くわからない状態では
記入するのがとても難しかったのである。

既に書かれたものがあってそれを転記するだけなら
別に知識は要らない。

しかし、それをしてもらおうとすると
結局私が紙か何かに元の数字を書いて渡さなくては
ならないので、
むしろ以前よりも負担が増えてしまうのだ。

なので、最初はそれほど理解が必要なくてもできるような
事務仕事をお任せしながら、
少しずつ説明をするようにしていた。

そうして何とか1年ほどを過ごしてきたのだが、
そろそろ産休を取っている部下が復帰するという
タイミングでとある連絡がきた。

希望する保育園に入れなかったというのである。

待機児童問題は最近はあまり聞かなくなっていたので
あまり想定していなかったのだが、
彼女が住む町はこの近辺でも珍しいほど
人が増えているらしく
保育園の競争が激化しているそうなのだ。

別に場所を選ばなければ保育園は
他にもあるのであろうが、
最初の子供を預ける親としては
あまり妥協したくない気持ちはわからないではない。

このあたりのやり取りは人事と彼女が
していたので詳しくは知らないが、
結局彼女の復帰は当初想定していた
今年の夏ではなく、
来年の春ごろになることになったらしい。

そうなると、Nさんにお任せする仕事を
見直さなくてはならない。

せっかく知識を身に付けて頂いても
短期間でいらっしゃらなくなるのであれば
非常にもったいない気がしていたが、
もう1年私をサポート頂けるということであれば
本格的に技術的な内容もサポートして
頂こうということになった。

早速、基本的なスペックの確認試験から
始めて頂こうと教えてみると、
そもそもそのモノがどのような機械で
どのように作られているのかを
ご存知ないので、
説明が驚くほどかみ合わないことに
気が付いた。

産休に入った彼女の場合は新卒で入社していたので
入社時に基本的な技術の内容を
学んでいたのだが、
Nさんは50代で中途入社されていたので
即戦力として管理で仕事をされて
そのような研修の機会がなかったのである。

つまり、私はこれから新入社員研修でするような
説明もしながら、実務を教えるという
タスクをこなさなくてはならない。

そうして四苦八苦しながら2か月ほど進め、
やっとごく基本的な試験はお任せできるように
なったのだが、
求めるレベルからすると
これから覚えて頂かなくてはならないことは
まだまだ山ほどある。

どのように覚えて頂こうかと頭を抱えながら
計画を立てていた時、ふとあることが気になった。

「もしかすると、社内の多くの人がNさんのように
あまり商品のことを理解していないのではないか」

私の働く会社は新卒採用はほとんどしておらず、
殆どの方が中途採用で入った方である。

ここ数年ぐらいで人事も改革を進め
中途採用の方にも基本的な研修プログラムは
用意しているものの、
今幹部として会社にいる人たちの多くは
基本的な研修など受けていない。

つまり、多くの人がNさんと同じように
商品のことをあまり理解しないまま
経営に携わっているということである。

週次で各部署からの報告し合う会議が
開催されており、
私は毎週新商品開発に関する情報を
これまで説明し続けてきたが、
多くの人はこの内容を理解していない可能性が
高いということでもある。

無論、経営をするうえではあまり具体的な
技術の内容を知っておく必要はない。

だが、自分たちがビジネスする商材が
どのように設計され、どのように作られたものなのかを
しっかり理解せずに進めることは
とても危険だと思うのだ。

それはすなわち自分たちの強みが何なのかが
見えないということに他ならないからである。

経営戦略上、自分たちの強みを次どこに持っていくかを
決めなくてはならないときに、
現状の強みと弱みがわかっていないと
決められるはずがない。

実はこのような状況は世の中たくさん
起こっているのではないだろうか。

安芸高田市の石丸市長がとても話題になり、
安芸高田市議会の様子が動画でよく放送されていたが、
定義される議案に対して起こる議論は
第三者の目線から見ても何だか的外れに見えるものが
とても多い気がした。

これは議論する人の知識が明らかに
不足した状態で議論しているからであろう。

そして、よく知らないまま決議をしようとすれば
決定する根拠はどうしても感情的なものや
組織的な理由に偏ってしまう。

このようなことは少なからず起こっているのでは
ないだろうか。

今回Nさんに教えてみて、
改めて物事を説明する際には
周りの方がどれだけ知識をお持ちで
理解をされているのかをしっかりと
確認したうえで進めなくてはならないことを
実感させられた。

組織で働くとは便利でありつつも
なかなか大変なことである。

ちなみにNさんは英語、中国語を扱う
トリリンガルである。

せっかくそんな語学力があるのに
あまり業務で活かしていただけていないのは
何だかもったいないので、
早く技術的な内容を覚えてもらい
海外メーカーとのやり取りを担当してほしいと
思っている。

なかなか人に教えることは難しいが
その先に面白い未来が待っていると信じ、
進んでいくしかないのだろう。

感谢您今天读到最后。
再見。


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