先輩たちにとっては宝塚歌劇の美学であり、ゴジラの芸術学なのであった / 芸術未満 5
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「歴史哲学研究会」のサークル室には女性が一人いた。文学部の2回生とのことだった。飾りっ気のない部屋に折り畳みテーブルだけが置かれている。
下田は自分の話をしたくないので質問ばかりした。九州出身の彼女は浅田彰に憧れて京大を目指していたが、受かることなくこの大学に来たという。
浅田彰という名前は以後何度も耳にするが、下田は著書を読んだことがなく、読む気もしなかった。テレビでは何度か見たことがあるが、昆虫のような眼鏡とぶかぶかのスーツ姿が記憶に残ってい