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小説「オペラ座の怪人」感想

 映画や劇団四季版、別アプローチのミュージカル・ファントムとオペラ座の怪人を様々な媒体で観てきました。こうなったら原作を見るしかない。すべての原点を、見る!

■ 見たやつ

三輪秀彦訳のものを見ました。調べてみたらこの人の訳が一番古いみたいです。

■ 小説の特徴

 著者であり元新聞記者であるガストン・リリーがオペラ座の痛ましい事件の生き残りに取材をし、その情報をまとめて本にする、という形の記述です。ちなみにこの痛ましい事件というのがシャンデリア落下事件らしいのですが、調べても本当かどうか判別できませんでした。
シャンデリア落下事件があったこと、オペラ座に幽霊が出るという噂があったこと、歌手が数人姿を消したことが当時あったらしく、これらを元に「あの事件の裏側にはこんなことが起きていた」という体の小説になります。現代で出版したらめちゃくちゃバッシングくらいそう。


■ 群像劇っぽい感じ

 ガストン・リリーが取材をして、取材された人(もしくはガストン・リリーが取得した資料を記載した人)の視点で描写されていきます。章は細かく区切られ、クリスティーヌの幼馴染や小説を読んで初めて出てきたペルシア人の視点で語られるため、その視点以外の人が何を考えているかはわかりません。


■ ファントムとは幽霊、怪物

 そもそもPhantom自体の意味は調べたところ「幽霊、幻、幻影、影」です。原題「Le Fantôme de l'Opéra」、英訳「The Phantom of the Opera」、日本語訳「オペラ座の怪人」。「怪人」と言う言葉は一切出てきません。
作中では「幽霊」と語られますし、文中では「いないのにすぐそこにいるような存在」「見た人によって姿を変える存在」等、まさに幻影にふさわしい描写をされています。個人的な解釈では「怪人」は実体を持つ人型へのニュアンスを感じるので、なぜタイトルだけ「怪人」と訳されているのかが不明でした。「幽霊」や「幻影」の方がしっくりくるけどな。
もしくは、後半のうすら寒いエリック自身の不気味さに注目するなら「怪物」かなぁ。


■ 一部、どう読んでいいのかわからない描写がある

 作中で「…」が多く使われているのですが、これをどう読めばいいのかわからない。現代だと「楽しかった……!また明日……!」みたいな形で使うじゃないですか。そうじゃないんです。この例だと「楽しかった!……また明日!……」みたいに使われるんです。句読点がついた後の三点リーダー、どういうニュアンスで読めばいいんだ? とりあえず暫定的に脳内で現代風に置き換えて読みました。正しいのかわからん。


■ 今まで観てきた作品と違うところ

 違うところというか、これこそが原作なので一番正しいのですが、「ここ違うの!?こんな設定なの!?」と驚いたところをあげていきます。

ファントム、高スペックすぎる

 ファントム(エリック)は醜い顔をしていますが、音楽の才能はもちろんのこと原作だと手品の才能があり手品から発展してなぜか建築家としての才能を発揮しています。海外で権力者気に入られ建築家として能力を発揮した後、とある事情によって死刑宣告され、またパリに戻り、オペラ座を建築しています。そう、ファントムはオペラ座を作ってるのです。そりゃあ変なギミックがいっぱいあるしそのギミックを知り尽くしてるはずだよな~!作った本人だもんな!
こう書くとエリック可哀想……となるかもしれませんが、エリック自身基本悪人っぽい雰囲気があり、その悪人が年を取って「あたりまえの日常」が欲しくなったため惚れたクリスティーヌにアプローチをかけてるっぽいです。年の差を考えろ。
原作のエリックの顔は骸骨のような鼻がない顔らしく(髑髏の仮面を被っているシーンもあったので本当に骸骨のような顔と受け取って良いのか迷いましたが、恐らく全顔骸骨のような顔みたいです。他作品のように半顔ではない)、しかし仮面を被っていれば群衆に紛れるのも厭いません。仮面さえ被ってれば気にしないのかな。

クリスティーヌは恐怖しかしてない

 脳内お花畑のクリスティーヌは亡くなった父親から「そのうち”音楽の天使”を送る」と言われたせいで、ファントムに出会った時に「父から遣わされた音楽の天使か?」と聞いてしまいます。そしてその設定にファントムが乗る。クリスティーヌ、騙される。騙された後、クリスティーヌを攫って「音楽の天使というのは嘘だ。自分を愛してくれ」と迫ります。ここまでは恋愛ものにありそうな展開なのですが、迫り方が脅しが入る。クリスティーヌは幼馴染のラウルのことが好きだったのですが、別の男を匂わせるだけで脅す。それに恐怖すると同時に、父親と同じくらいの40~50代の男から跪かれて愛を乞われてときめいてるっぽい。なんで!?吊り橋効果!?

幼馴染ラウル、気持ち悪い

 伯爵である兄と一緒にオペラ座を偶然観に来たら幼馴染だった少女が成長して美しい声で歌っていたのを観てクリスティーヌに告白をしようとしたこちらも頭お花畑の人。その後クリスティーヌにたくさんアプローチをしますが、ファントムに脅されているクリスティーヌはラウルのことを遠ざけようとします。その後が気持ち悪い。
 自身を袖にするクリスティーヌのことを恨んではやっぱり好きです愛してますという情緒不安定さを見せるし、クリスティーヌのことを調べるために無断で彼女の楽屋に侵入し盗み聞きするし、通常状態でも幻覚を見るし、本当に怖いし気持ち悪い。でもクリスティーヌはこいつのことが好きなようです。一応。

 一番可哀想なのはこいつの兄のフィリップ伯爵です。ラウルがオペラ座の怪人について話すと周囲から病気だと判断されます。そしてファントムから逃れるため「クリスティーヌを攫う」と決心します。隠れることもなく大々的に準備したおかげで、弟が病気で狂ったと思った兄が心配しこっそり後をつけ、ラウルではなくファントムがクリスティーヌを攫った際には弟が攫ったものだと誤解しファントムの住む地域に突撃、そして死亡。可哀想すぎる。フィリップはただラウルと巻き込まれているであろうクリスティーヌのことを心配してただけなのに……。ちなみに兄が死を悼む様子も描写されてなかったので原作のラウルのことは大嫌いです。

ペルシア人活躍しすぎ

 謎のペルシア人。途中まではなぜかオペラ座にいる謎の人物でしたが、後半の主人公になります。その正体は、なんと海外で死刑宣告されたエリックをパリに逃がしたのがこのペルシア人!年金生活らしい!
攫われたクリスティーヌをラウルと一緒に助け出そうとするしファントムとしての生活圏内のことをばっちり把握しているキャラです。大抵の作品でペルシア人抹消されがち。

他にもいろいろ異なる

 例えば支配人は二人いたりだとか、支配人交代の時は前支配人は自主的に辞めていたりとか、オペラ座の5番ボックス席へは案内人がいたりだとか、ラウルは海軍軍人だったとか、拷問部屋で実際にラウルとペルシア人が拷問されたりだとか、ファントムはセイレーンを使って人を溺れさせてる(ちなみにこの話は最後までセイレーンとは何かが明かされなかった)とか、ここに書ききれないぐらい他作品とは違います。
わかりやすくするためにそぎ落とした結果なんでしょうね。

■ まとめ

 海外の小説でだいぶ昔の作品なのでとても読みにくかったのですが原作の設定を知れたのが一番面白かったです。これで他作品もより深く楽しめるようになった気がする~!


備忘録用メモ。Twitterでの実況です。


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