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文【会話というのは恐ろしい】

相手の話のペースに乗せられた。
乗ったつもりはなかったけれど。
気付いたら泥船の上。
相手の質問に答えているだけなのに。
心に爪を立てられ、牙を剥き出しにされた。
過去を否定し、未来を潰しにかかろうとするその姿は、善も悪も無い、ただの狂気のようだった。
泥船の行く先は雷鳴の中。
このまま相手と共に進みたくないと、荒波に身を投げようとすれば。
言葉の網で雁字搦めに捉えられる。
必死に逃れようと、こちらも牙を剥き出しにすると。
「そんなふうに聞こえてたの?」
「そんなつもりじゃなかった」
と。
きっと雷鳴の音で、自分の声すら聞こえていなかったのだろう。
録音しておけば良かったと後悔する暇もないほどに、相手は会話を求めてくる。
矛盾している言葉を並べ立て、目的地は彼処だと主張をし、泥船が沈まないようにとさらなる泥で補強し始める。
その隙に、私は荒波の中へ身を投げた。
息苦しく真っ暗な海底へ引きずり込まれながらも、身体をよじらせ足掻き続けた。

会話というのは恐ろしい。
私も相手も、いつの間にかゲームに参加させられ、自分が何処にいるかも分からない場所へと連れて行かれる。
気が合う相手となら、その不安も楽しめる。
だが気が合わない相手となら、終わりのない苦痛が始まるだけだ。

私は幸いにも助かったが。
次はどうなるか分からない。
狂気は疲れているときに突然やってくる。
そんなときこそ相手のペースに巻き込まれないよう、慎重にならなければ。


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