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ブックレビュー:いしかわゆき『ポンコツなわたしで、生きていく。 〜ゆるふわ思考で、ほどよく働きほどよく暮らす〜』

著者のいしかわゆきさんは典型的なADHDで、かつHSPの気質もあると打ち明けている。
バイトでも、仕事でも、日常生活でも数々の失敗を繰り返してきた自身を「社会不適合者」であり、「ポンコツ」であると自称している。
この本は、そんな著者でも社会で生きていくために考えてきたことがゆるーく書かれており、読書の習慣がない人でも読みやすいと思う。

ポンコツにはみえないけど…

アマゾンのレビューにも書いている人がいたが、「ポンコツ」と自称してはいるが、早稲田大学を卒業し、新R25編集部で働いていた経歴もある。十分「できる人」そうである。この本にも書かれていたが、小さいころから勉強はできたらしい。
確かに、人によっては経歴だけ聞くと、むしろエリートで全然ポンコツじゃないじゃんと思だろう。

しかし、他の人がふつうに(あるいは少し頑張れば)できることが、著者にはできないことがたくさんあるという。
なにができないかはホントにたくさんあって、書ききれないので本書を実際に読んでみてほしい。
でも、これだけできなければそりゃ、一般社会で生きていくのは一筋縄にはいかないよなと思う。おそらくADHDとHSPの気質があるからだろう。
僕の知り合いにもADHDである人が2人いるが、2人ともドジっぽいし、テンパっているところをよく見かけた。何かを取り組むにしてもテンポやペースが独特である。本人たちは何も言わないが、はたから見ていれば、社会とかルールとか、何か決まっていることに沿って生きるのは大変だろうなと思う。

著者のように勉強ができるからと言って、社会をそつなく歩き渡れるわけではない。経歴がそのままその人のスペックやスキルを表すわけでもないのだろう。

社会不適合者でも社会や他人のせいにしない

ADHAとHSP持ちで、一般社会のペースに合わせられない著者がなぜ、ライターとして活躍し、こうして出版までできているのか。
この本を読んで、僕は3点に集約できるのかなと思った。

・自分の弱さや苦手なことを認めて受け入れる。
・苦手なことを克服しようとせず、一般社会のペースに無理に合わせない。
・自分自身のトリセツを見つけて、自分をうまく活かすにはどうすればいいかを考える。

自己成長や向上心、挑戦して困難を乗り越えることをよしとするこの社会では、なかなか弱さや苦手なことをそのまま受け入れてもらえるのは難しい。できることを増やしていくことを生きがいとしている人からすれば、甘ったれるな!とすら思うかもしれない。
しかし、著者は小さなころからできないことにはもう頑張らずに、それを受け入れているという。苦手なことをできるように頑張るのではなく、自分には何ができて、それ生かす道を考えることを重視しているように思えた。
P77で植物に例えてこう主張している。

仮に自分が太陽を必要とするタイプの植物なら、日当たりの悪い場所できれいに咲けと言われても難しい話です。
[中略]「ここで咲くんだ!」と躍起になるのではなくて、「得意な仕事」が自分に降ってくる場所を探しに行こう。

『ポンコツなわたしで、生きていく。 〜ゆるふわ思考で、ほどよく働きほどよく暮らす〜』p77

著者をすごいなと思うのは、経歴でも、こうして本を書いていることでもなく、ADHAやHSPなどのマイノリティの生きにくさを社会や他人の責任にせずに、どうすれば自分なりに生きていけるかというのを考え続けてきたことである。
そこには著者に以下のような考え方の下敷きがあるからだろう。

冷静に考えてみると、嫌な顔をして職場に通うことも、それは自分が選んだことであって、誰かが「一生そこで働きなさい」と命令したわけじゃない。
 嫌なことをしてくれる人に不満を募らせながら被害者面をすることも、誰かが「この人と一緒にいなさいね」と指示したわけじゃない。
 ああしなさいこうしなさいと言われたわけじゃないのに、「だって仕方ないじゃないか!」と自分で諦めてそこに居座ることを選んでいるのはほかでもない自分なのです。
[中略]
 気づいていないだけで、本当は誰もが選べる立場であることに気づいてほしい。自分を幸せにするのも不幸にするのも自分次第なのだと。少なくとも大人は、自分の人生の舵は自分が握っているはずなのだから。

『ポンコツなわたしで、生きていく。 〜ゆるふわ思考で、ほどよく働きほどよく暮らす〜』p110、112


大多数の人ができることをふつうにできずにいる生きづらさを嘆いて、怒って終わりにしない。できないことを受け入れて、社会から外れるのではなく、社会を歩く著者なりの方法を見つようとするポジティブな姿勢がとても印象に残った。
ある目的地へ大多数が飛行機で行くところを、飛行機が苦手だから、行くのをやめるのではなく、新幹線やバス、はたまた自転車など他の手段があるだろうかと考えて、目的地へ行っているようなものかもしれない。

生存戦略は人それぞれだ。

生きるためのアプローチは様々あって、大多数の人々と同じでなければいけないわけではない。
動物や昆虫、植物にはそれぞれに生きていく生存戦略がある。増殖力の強いセイタカアワダチソウが生い茂る同じ土地で、他の植物が繁殖しようとしても難しいだろう。立ち向かうのではなく、それぞれの植物が繁殖に優位に働く土地や方法を選ぶほうがいいはずである。

同様に、努力してもできないことや、辛くて仕方がないことにヘンに執着して頑張っていても、一向に埒はあかない。
頑張るべきことは自分自身を知って、強みも弱みも受け入れて、自分のトリセツを読みながら、うまく生きられる方法とうまく歩める場所を探すことなのだ思った。

大切なのは考えて工夫すること

そういう意味で、この本は、生きづらい人のために生き方の正解を提示しているわけではない。
どういう「考え方」で著者がこれまで過ごしてきたのかが書かれている。
生き方はそれぞれであって、それぞれであるがゆえに自分と社会の接地面がどこにあるのかを考えることが大切なのだと思う。

「考え方」を知らないから、自分にあった考え方を選ぶことすらできない。人と比べてばかりで、劣等感が募って、ネガティブになる。
 
 それは、3ページしかない辞書をめくって必死に答えを探しているようなものでした。

『ポンコツなわたしで、生きていく。 〜ゆるふわ思考で、ほどよく働きほどよく暮らす〜』p180

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