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第41話「鳩が飛ぶのを見てみたい」

小雨が降る中、内山田信雄が駅前のタクシー乗り場で待っていた。すると、タクシーがやって来て内山田信雄を乗せると発進した。

土曜日の昼間、一体彼はどこへ行こうとしているのか。曇り空の下、タクシーは横浜方面に向かっているみたいだった。十分程で目的の駅に到着すると、内山田は金を支払い駅前へ小走りで向かった。

土曜日ということもあって、駅前は人が沢山ごった返していた。内山田はキョロキョロと辺りを見渡して、誰かを探しているみたいだった。

その様子を、ブティックの店内から見ているのは市川夏菜子。

口許に笑みをこぼして、ブティックを出ると内山田信雄へ近寄った。フリルの付いたブラウスは胸元が大きく開いて、今にも溢れそうな谷間が覗いている。細身のパンツにカジュアルなパンツは、誰が見てもフェミニンで可愛く映る。

すると、内山田信雄が市川夏菜子に気が付き頬を緩めて満面の笑みを浮かべた。

「待たせたかしら?」

「いや、全然待ってないよ。今来たところ。市川から連絡なんて驚いたよ。それで、相談事って何だい?」と内山田信雄はそう言いなが目線は大きく開いた胸元に一直線だった。

同窓会であれだけ興味がないと、ほざいていたけど、いざ市川夏菜子を目の前にすると、鼻の下を伸ばしている。もう頭の中は市川夏菜子の美貌に心を奪われているのだろう。

悪戯っぽく笑いながら、市川夏菜子は内山田の腕を触って距離を縮める。もちろん内山田の方も意識しているだろう。調子良く大きな声を出しては、気持ちを高ぶらせているようだ。

「ここじゃ何だから、場所変えない?」と市川夏菜子はそう言って、内山田の腕を掴むと組んだ。

市川夏菜子の企みとは・・・・・・

真っ赤な傘を差した女性が、交差点で信号待ちしていた。その隣で傘も差さずに男性が女性だけに聞こえるよう小声で話す。

女性は何度か頷くと、そっと男性に茶封筒を手渡した。そして、男性へ囁くように向かって呟いた。

「鳩が飛ぶのを見てみたい」と。

その頃、大貫咲は一人、殺風景な部屋でパソコンの画面とにらめっこしていた。マウスを動かしてはクリックしている。画面に映し出されたのは大量の画像だった。一体、この画像は何なのか?老眼鏡をかけて慎重に一つ一つ画像をチェックしているようだ。

すると、大貫咲の元へ誰かが訪ねて来た。扉を軽くノックして、パーカーにジーンズというラフな格好をした若い女性が入って来た。

訪問者に対して、大貫咲は声をかけるわけでもなく、夢中になってパソコンの画面から目を離さなかった。若い女性は大貫咲の後ろに立って、少し身を乗り出してパソコンの画面を見つめた。

「どう思う?」と大貫咲が背後の人物に向かって声をかけた。

「何とも言えないけど、がっかりの方が強いかな。本音を言うと・・・・・・」若い女性はパソコン画面に映し出された画像を見て答えた。

「真実なんて、どこに潜んでいるか覗かなきゃ見つからないわ」と大貫咲はそう言って、何枚か画像をチェックしてプリントアウトした。

「麻里奈に連絡しなきゃ。尚美ちゃんは、このプリントを持ってあげてちょうだい」とプリントアウトした写真を手渡した。

どうやら若い女性は尚美で、二人だけで何かを調べていたみたいだ。パソコンに映し出された画像とは何なのか?

そして、二人の会話の意味とは・・・・・・

同時刻、和泉麻里奈が入院している病室へ木島直樹の信用できる警察の訪問時刻が迫っていた。三年前の夜の出来事を話すようにと伝言されていた。

だが果たして、それがこの先、どんな展開になって行くのか。

場所を変えて、それぞれが行動しようとしている。それは終わりという結末に向けての行動なんだろうか。

やがて、小雨は激しい雨へ変わろうとしていた。

第42話につづく

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