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第9話「世の中はコインが決めている」

 初めてピースを手にしたとき、僕はその肌触りに驚いた。見た目は完璧に人間の小指。だが、肌触りは人間の皮膚と違い、どちらかと言うとプラスチックに似た肌触りだった。

 色は肌色だったり、白や色黒のときもあった。黒人みたいな色もあったけど、殆どが日本人の肌色。しかもピース一つ一つは必ず女性である。何故か、女性しか扱っていないのだ。

 これがホンモノの指ならば、僕の仕事は何なのか?

 面接の時点で、仕事内容を聞いた人が採用されない理由も納得である。こんな仕事、普通ならありえない。しかもピースは一つ一つの指から始まって、最終的に身体全てが運ばれてくる。

 僕たちはそのピースの傷などないか、丁寧にチェックしてから組み立てる。大体、一体に対して一時間以上はかかる。慣れてくると組み立てる作業も速くなってくるが、ピースによっては複雑なモノもあって、新人の頃は苦戦したものだ。

 初めてこの仕事を終えたとき、僕は班長に質問をした。一体、これは何なのですかと?

 勿論、答えはノーである。決して答えてくれない。それ以上聞いても無駄だと思って僕は質問をやめた。

 この仕事を始めた頃、指から始まって身体の部分になったとき、ドキドキさせられたものだ。乳房の部分から乳首になり、このピースが女性だということに気がついた。

 勿論、秘部のピースもあった。

 あまりの精巧な作りに触ることも躊躇していた。だが、慣れというのは怖いもので、数ヶ月経った頃には何も感じなくなるのだった。

 不思議に思ったことは、この奇妙なモノをピースと呼ぶこと。僕的にパーツなのじゃないのかーーと思った。

「鳥居くん、これはピースなの。パズルはピースって呼ぶでしょう。だから我々はこれをピースと呼ぶ。わかったかしら?」と絵馬さんが真顔で言うのだった。

 僕たち契約社員は疑問に思ってもピースと呼ぶようにしている。

 午前中の作業が終わり、僕たちは一旦昼休憩に入った。正論くんと合流して談話室へ向かう。相変わらず正論くんは作業が早い。午前中で三体目の作業に入っていた。

「この分だと楽勝で終わるな。鳥居くんはどうだい?」

「二体目がちょっと複雑なんだ。このペースだと残業になりそう」

「だったら丁度いい。例の悪巧みのタイミング的に」と正論くんがホントに悪そうな表情で言う。

 果たして悪巧みとは?

 僕はドキドキしながら昼休憩へ入るのだった。

第10話につづく

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