第47話「鳩が飛ぶのを見てみたい」
白石浩史をメンバーに引き込んだのは華村純菜と聞かされていた。何でも和泉麻里奈のことで相談を受けたとき、組織に利用できると判断したらしい。
だが、後藤は白石浩史が組織に所属すること自体、快く受け入れていなかった。
何故なら、和泉麻里奈の存在があったからだ。これ以上、同級生の目に入るようなことは危険だと考えていたからだった。
それに、白石浩史の性格にも問題があった。異常なほど束縛をする男は危険人物だと。
「まぁ、入れよ。酒でも飲むか?」と白石浩史がウイスキーのボトルを手にして言う。
一人で住んでる割には、部屋の中は綺麗に片付けられていた。大きめのソファとイタリア製のテーブルが部屋の中央に置かれている。壁には有名な画家の作品なのか、豪華な額縁に収められた絵画が飾ってあった。相当な額の金を手に入れてなかったら、こんな豪華な暮らしはできない。
白石浩史はごく普通の会社員。これも組織で得た金のお陰なんだろう。
「思ったより、部屋綺麗にしてるな」
「ああ、俺がするわけないだろう。週に二、三回、京子が来て掃除するんだよ」
「京子って、笹村京子のことか?」
「ただの肉体関係だ。変に勘ぐるなよ。お前、刑事の癖なのか、俺たちのことまで疑うようになってんだろ。他の奴も言ってたぜ」と白石浩史が嫌味っぽく言うのだった。
確かにここ最近、後藤は組織の連中に対して少し過敏なところがあった。どこかで犯罪ごっこで始めた組織が、上手くいってること自体に気持ちが不安となって芽生えているからだ。しかし、この男は妻に飽き足らず、和泉麻里奈の同級生でもある、笹村京子に手を出しているとは驚いた。
いくら大人の関係とは言え、あまりにも緊張感がないんじゃ無いのか。後藤は心の中で憤慨した。
「それで、お前が大神のアパートに訪ねた理由を教えてくれるか?」
「特に意味はねぇよ。一週間前に連絡したら電話に出なかった。だから気になって、様子見しただけだよ」と白石浩史は説明する。
それを聞いて、後藤は彼の表情を注意深く観察したが、これと言って怪しいところはなかった。これが演技ならば大したものだ。それでもこの男は注意しなければならない。
明後日になったら、一度純菜に相談しようと頭の中で思った。明後日なら連絡が付くだろう。海外へ行くと言っていたが、どこなのか聞きそびれたこともあったからだ。
「白石、もう一つ訊ねるけど、部屋に置いてあったブツを持ち去っているだろう。俺が家宅捜査してるとき、部屋に置いてなかった。アレが見つかったら、大事になるところだったからな。お前にしては良い判断だったな」と後藤が言うと、当の本人は眉をひそめて表情を変えた。
「何のことだ!?俺はブツを持っていってないぞ。それに、俺が部屋に来たとき、すでにブツは無かったからな」
「なんだと?お前、冗談で言ってないよな。今なら冗談で片付けてやるけど、笑えない冗談は言うなよ」と後藤は真剣な表情で、詰め寄るように言った。
すると、白石浩史はグラスに入ったウイスキーを飲み干して、グラスへウイスキーを注いだ。まるで、後藤が口にしたことに関して文句を言いたそうだ。何かと自分に対して、厳しい指摘する男がウザかったからだ。
「俺じゃない。第一、俺だとしたら隠すわけないだろう。そんなことしたら、純菜の顔を潰すようなものだ。それでどうなんだ。大神は他殺なのか自殺なのか!?」
白石浩史が質問した答えは、一週間後に後藤の耳に報告された。答えは自殺でもなく、心不全という結果。つまり、結果的に孤独死と判断された。素っ裸なのは、大神日和が亡くなる数日前に性行為をしていたからだ。
これに関しても事件性もなく、経った数週間で捜査は打ち切られた。
これが三井巡査から聞かされた、三年前の夜の出来事。これが真実ならば、何も解決の糸口は無い。真実は闇の中に消えた。だが、物語はここから大きく変わろうとしていた。
数日後、全ての謎が明かされることになる。それは、哀しくも闇深い真実という結果になるのだけど。
第48話につづく
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