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第17話「鳩が飛ぶのを見てみたい」

「三年前の冬、アパートで一人の女性が亡くなった。異変を感じたのは隣の住民。大神が発見される三日前から異臭がすると、隣の住民が大家に連絡を入れたんだ。そのこと和泉は知ってるのか?」と後藤くんに訊かれて、私は三年前のことを思い浮かべた。

だけど、日和が亡くなったと訊かされたのは彼女が亡くなって二週間も過ぎていた。三年前と言えば、私たち夫婦が別居して、ちょうど三年目の時期。つまりその時期、日和とは疎遠になっていた頃だ。

理由は、別居して自由を手にしてできなかったことを始めていたからだ。元夫、浩史に束縛された数十年を取り戻そうとしていた。

「私が、日和が亡くなったと聞いたのは彼女が亡くなってから二週間も過ぎていたわ。教えてくれたのは当時、海外に住んでいた純菜から。それを知ったとき、あんなに哀しみで落ち込んだ日はなかったわ」

あんな別れ方にショックだったし、連絡をしなかったことに自分自身を責めた時期でもあった。

彼女と、日和と連絡さえしていれば・・・・・・

日和は死ななかったかもしれない。今となっては後悔しても遅いけど。

「私が知ってることなんて高々知れてるわ。正直言って、日和が孤独死する理由なんて考えられない。でも、彼女の両親が亡くなって天涯孤独だったのは知らなかった。日和、ずっと一人だったから。恋人も作らず何十年も一人だった。私が知らなかっただけで、恋人はいたかもしれないけど、私と会ってるときは、そんなこと一度も話さなかった」

「だろうな。俺も偶然、大神が亡くなったことを知ったんだ。さっきホテルで会った三井って警察官が居るだろう。あいつとは刑事時代に色々と世話してたんだよ」

「あ、ごめん。後藤くんが刑事をしてたのは三井さんから聞いてる」

「なんだよ。あいつ話したのか。余計なことを言いやがって」と後藤くんが少しだけ恥ずかしそうに頭を掻きながら言う。

「怒らないであげてよ。三井さん、あなたのこと尊敬してるんだから」と私は言ってあげた。あとで三井さんが怒られたら可愛そうだと思って、フォローのつもりで言ってあげたのだ。

「まぁいいや。それで奇妙な事件が起きたと連絡があってな。当時、俺が追っていた事件と、共通してる部分が大神の死と関係してそうだったんだ。それで俺も現場に駆けつけたとき、まさかアパートの変死体が同級生の大神とは思わなかったけどな」

信号が赤から青に変わり車が再び走り出す。都会の街並みはビルの光が包み込むように夜の景色を作り上げていた。私は窓に映る自分を見つめては、日和の最後の顔を思い浮かべた。

最後に出会ったのは、彼女が亡くなる一年以上前だった。あの頃、彼女は何かに悩んでいたのだろうか。それとも何かトラブルに巻き込まれていた?

「後藤くんが追っていた事件と、日和の死は関係してるってことなんだよね。それはどんな事件だったの?」

「ん、まぁ良くある事件だったよ。詳しくは話せないけど。いや話せないと言うのは、その事件が解決してないって意味な。それにお前を巻き込みたくない」

「あ、うん。別に話さなくても。それで、後藤くんは日和の死がおかしいと思ったんでしょう。だから今回、同窓会に参加したってことなんだよね。後藤くんが追ってた事件と繋がっているかもしれないけど、私も日和の死が納得できないでいるの。だから教えて欲しい。教えれる範囲で良いから」

「・・・・・・大神が発見されたとき、すでに遺体の損傷が激しかった。異臭の原因も遺体の腐敗だった。そのあと検視の結果、死後二週間以上は経過していたと報告を受けた。死因の原因は心筋梗塞らしいが、俺は正直なところ信じていない。彼女の部屋に入ったとき、俺はこの目で見ている。それにお前も知ってると思うけど、彼女は煙草も吸わなければ酒も嗜む程度だ。年齢のことを考えれば心筋梗塞の可能性もあるけど、大神が発見された夜、彼女は裸で見つかったんだ」と後藤くんは語尾を強めて、当時の場面を話してくれた。

「裸・・・・・・それはつまり・・・・・・!?」

「亡くなる前日、彼女は誰かと性行為をしている。膣内に精液の確認も取れてる。その辺も含めて、彼女が亡くなったのは性行為のあとなんだよ。だから、検視の結果に疑問を感じた。何故、検察側は心筋梗塞による孤独死と判断したのか!?」

日和が亡くなる前日、彼女は誰かと夜を共に過ごしていた。私の知らなかった夜の出来事の全貌が少しずつ見えてきたのだった。

そして、後藤くんが追っていたもう一つの事件とは?

第18話につづく

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